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不滅のティアラ 〜狂おしいほど愛された少女の物語〜  作者: 白銀一騎
〜シンデレラガール編〜
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24.ゴブリンロード

 俺は研究室のラボで一人作業をしていた。その声を聞いたとき全身から血の気が引いていったのを覚えている。


「C棟が火事でもえてるぞーーー!!」


「早くお前もここからでるんだーーー!」


 C棟と聞いた瞬間嫌な予感がして、気がつくと夢中でC棟へ走っていた。咲子がC棟の仮眠室で寝ているかも知れなかった。


 俺がC棟に着いたときには、すでにC棟の半分以上が炎に包まれていた。俺はすぐに近くにいた同僚に声をかけた。


「咲子は?!! 伊藤咲子は逃げ出せたのか!!!」


「わ……わからないよ!! 少し前からここにいるけど中から出てきた人はいないよ!」


「なんだと!!」


「おい!! どこに行くんだ! 中にはもう入れないぞ!!」


 俺は同僚の止める声など構わずにC棟の中に入って行った。


 燃え盛る廊下を突き抜けて仮眠室のドアを開けて中に入った。部屋の中は黒い煙で充満していて仮眠室のベッドの上を見ると咲子が居た。


「咲子!! 大丈夫か!!」


 咲子の体を揺すって起こそうとしたが、反応がなかった。体を触るとすでに息を引き取っていた。俺は泣き崩れそうになるのを必死で我慢して咲子の遺体を抱いてC棟から出ようとしたが、廊下はすでに炎に包まれていた。


 俺は咲子を抱えながら必死で出口を探したが、炎の周りが早く逃げ場所を失ってしまった。周りに炎が迫ってくる中、咲子に思いを伝えた。


「咲子……ごめんな……助け出せそうにないや……」


 俺はポケットから指輪を取り出して咲子の左の薬指に付けた。会社に入社した時からいつか咲子に渡そうと大事に持っていたものだった。咲子の好きなターコイズブルーの宝石だった。


「咲子……。ずっと昔から好きだったよ。君は近所に住む年の離れた弟ぐらいにしか思っていなかったようだけど…………大人になればこの気持も薄れていくと思ったけど……全然違ったよ……年をとるごとに思いが強くなっていったよ」


 目から涙が溢れ出した。


「咲子! 名前を読んでくれてありがとう。苦しかった時、相談に乗ってくれてありがとう。挫けそうになった時、叱ってくれてありがとう。笑顔を見せてくれてありがとう。お……俺がこんなにも人を好きになれることに気づかせてくれて……ありがとう。愛することがこんなにも切なくて、悲しくて、尊いことを教えてくれてありがとう……。今度生まれ変わっても……ずっと君を愛していると約束するよ……。今度こそ君を守れる男になって……、今度こそずっと君の笑顔を守っていくことを誓うよ…………」


 ずっと咲子を見ていたかったが、俺は冷たくなった咲子を強く抱きしめるとそのまま目を閉じた。


「ごめんね……助けることが……できなくて…………ご……ね…………」


 それが俺が記憶している最後の光景だった。

 

 ◇


 俺は森の中で目を覚ました。


 木々の間から差し込む木漏れ日が目に入り眩しかった。


(咲子は?)


 俺はそう思うと咲子ーーと叫んだが『グォーーー』という雄叫びのような声しか出なかった。何度も声に出そうとしたが『グゥー、グアー』という声にならない音しか口から出なかった。自分の手を見ると緑色の怪物のような手があった。


 びっくりして体中を隈なく確認したが、とても人間の体ではないことが分かった。それから何時間も森の中をさまよい続けた。


 半日ほどさまよい続け辺りも少し薄暗くなった時、人の話し声が聞こえて来たので、ゆっくりと声のする方へ近づいて行った。


 そこには老夫婦が歩いていた。夫婦の手には桑や釜を持っているところを見ると畑仕事を終えて家に帰宅しているようだった。俺はやっと人に会えた安堵と体の疲れで老夫婦に声をかけながら出ていった。


『グァー、グゥ~』


 こんにちわと言おうとしたが声に出たのは奇妙な雄叫びだった。老夫婦は俺を見るなり悲鳴を上げて逃げ出した。俺は待ってくれと言おうとしたが口から出たのは奇妙な唸り声だった。


 俺は老夫婦を追いかけたが、老父の方が手にしている釜を振り上げると俺に攻撃してきた。


 俺はわけが分からずその場から退散した。



 その後も森の中をさまよい続け気がつくと大きな湖のほとりにいた。俺は自分の姿を見ようと思い湖の水面に写った自分の姿を見た。


 そこには昔ばなしでよく出てくる鬼のような姿をした俺が写っていた。



 それから数日がたち自分なりに整理すると、どうやらゴブリンという怪物の上位種に転生したということが分かった。腕力も俊敏性も人間の時とは比べものにならないほどアップしていた。

 それとどういうわけか森の中にいると誰からも見つかることがなかった。人間はもちろん気配に敏感な野生動物でさえ俺を認識することができないようだった。これはこの体特有のスキルと理解した。


 俺は昔からボーイスカウトをやっていたこともあり、アウトドアの知識があったので、当面の間うさぎや鹿を狩ってサバイバル技術を磨いていった。


 そんなことをしていたある日、人間が森の中に入って作業をしていたので隠れて話を聞いていると、西のアークガルドという国のクロノスという町に疫病を治す聖女が出たということを話していた。


 疫病を治すと聞いてそのことが心に引っかかった。


(そういえば……昔、咲子が大学のレポートで疫病を治すレポートを提出したのに教授に笑われて悲しいと言ってたことを思い出した。)


(咲子はかなりの時間をかけて作成したのに教授にこんなことは現実的ではない、と言われてすごく落ち込んでいたので、俺が元気づけてやったことを思い出した)


 俺はその時の様子を思い出して思わず笑った。多分この世界に来て初めて笑っただろう。


 俺は少し希望が出てきた。その聖女に会ってみようと思いアークガルドに向かった。


 ◇


  そいつはまだ幼い少女だった。期待はずれだったと残念に思ったがその少女の持っている道具箱に書かれた絵を見て目から涙が溢れ出した。


 あれほど馬鹿にしていた絵がこんなにも尊く見える日が来るとは思わなかった。あの絵は間違いなく咲子の絵だった。昔から咲子が自分の持ち物にせっせと書いていた埴輪(はにわ)のハーちゃん? だったかな? その絵が少女の持っていた道具箱に書かれていた。


 あの少女が書いたのか? それとも咲子の書いた道具箱をあの少女が持っていただけなのか? それが聞きたかったが、恐ろしく強い剣士に阻まれた。この世界に来て大抵の人間や魔物と戦ったがあれほど強い剣士はいなかった。


 俺はその場を逃げるしかなかった。

読んでいただきありがとうございます。

後少しで第一章が終了します。

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