遥かなる時の中で
ルーン大国という小国にロビナスという村がある。このロビナスには通称グレートフォールと呼ばれる巨大な滝があり、滝の周りには豊かな森が広がり風光明媚な観光地として多くの観光客が来る。
このグレートフォールに程近い森の中にウィロー飯店という小さな定食屋がある。その小さな食堂にはギルディアというエルフの国に住んでいたルディーとメルーサというエルフの夫婦が運営している。
二人は暗黒邪神アルサンバサラを倒したあと、何かと一緒に過ごすことが多かった。ルディーはメルーサと一緒に暮らすのを嫌がったが、そんな嫌がるルディーを尻目にメルーサは無理やりルディーの家に転がり込んだ。
ルディーは右腕がなかった。暗黒邪神アルサンバサラの攻撃からメルーサを助けるため、自分の身を挺して守った。その時の攻撃で片腕を失ってしまった。メルーサはそんなルディーに申し訳ないとの思いで、ルディーのことを放って置けなかったようだった。
はじめはルディーも迷惑がっていたが、メルーサがそれを許さなかった。元々気性の荒い二人はすぐに意気投合したのかしばらくすると二人は一緒になった。
アルサンバサラを倒した時は、ルーン大国とギルディアは戦争をしていたが、その後、友好条約を結んで二つの国に平和が訪れるとすぐに二人はルーン大国に戻って、ロビナス村のこの場所でウィロー飯店という小さな店を出した。
メルーサはどうしてもマルクスの味が忘れられなくて、ルディーと相談して決めたようだった。マルクスの味には程遠いかもしれないが二人の店はそこそこに繁盛した。
今日、その店の扉には本日休業の張り紙があった。それというのも、今日はルーン大国とギルディアが友好条約を結んだ記念日だった。もう50年以上も昔のことなので、戦争を経験した者はほとんどいなかった。
グレートフォールから川下に少し下ると大きな石碑がある。はるか昔ロビナス村を魔物の大群から救った英雄の石碑だった。昔のことなので、ロビナスに住む住人の中にはそこで眠る人物が誰なのか知る人はほとんどいなかったが、石碑の下で眠っている人物は、昔二人の戦友だったマルクスだった。
夜叉神将軍はアルサンバサラを倒したあと、この場所にマルクスが眠っていることを知るとすぐにマルクスの功績を称えるべく石碑を建立した。
その日マルクスの石碑の前にルディーとメルーサの二人の姿があった。二人はエルフなので人間よりも長く生きることができたため、二人とも50年前とほとんど変わらない格好で佇んでいた。
二人は石碑の周りを丁寧に掃除をすると手を合わせてマルクスの眠る石碑を見つめた。
「マルクス最近忙しくて来てやれなくてすまないな」
「あなたの味には程遠いが、少しずつ店も繁盛してきたからね」
ルディーとメルーサは互いに近況をマルクスの石碑に語りかけた。
「もっと早くこの平和が訪れていたらお前もミラと幸せに暮らせたのにな……」
ルディーが悲しそうにつぶやくとメルーサは笑ってルディーの肩に手を置いた。
「何言ってんのよ。とっくにあの世でミラと会って幸せに暮らしているわよ」
「ああ、そうだな。あんたのことだ絶対にミラを見つけ出して幸せに暮らしているだろうな」
二人は笑うと石碑の前に花を添えて帰り支度を始めた。
「じゃまた来るよ。ロビナスを救った英雄さん」
二人は石碑に別れを告げると立ち去ろうと振り返った。するとそこに一人の人間の少女が立っていた。年齢は十代前半だろうか、髪が黒くて長い、綺麗な少女が黒い瞳でこちらを見ていた。
ルディーとメルーサは、こんな場所に一人で人間の少女が何をしに来たのか気になったが、見たこともない少女だったので二人はそのまま少女の横を通り過ぎて歩いた。しばらく歩くと二人の背後から少女の声がした。
「あの……」
ルディーとメルーサは振り返って少女の姿を見て驚いた。人間の少女と思っていたが、振り返るとそこには金髪の青い目をしたエルフの少女が立っていた。その少女は手を前に突き出し、その手には赤い色の宝石のついたネックレスが握られていた。
ルディーはそのネックレスを見て愕然とした。そのネックレスに見覚えがあったからだった。
「そ……それは……も、もしかして……」
「アバタ宝石です」
エルフの少女は青い瞳でまっすぐルディーを見て言った。
「な、なんで? それを?」
エルフの少女はルディーの反応を見てホッとした表情をすると訴えるような目で話を続けた。
「私の本当の父と母の形見だと聞いています」
「な、なんだと……も、もしかして……あんたの父と母って……」
「ええ。父はマルクス、母はミラという人だとダンテ叔父さんに聞きました」
「な、なんだと! マルクス! ミラの子供だって! ほ、本当か!! 本当に君は……マルクスとミラの子供なのか?」
「ええ。母は私を産んですぐに病気で亡くなって、夜叉神将軍が生まれてすぐ、私をダンゾウ父さんとオキク母さんの元に預けたそうです」
「そんな……ダンテは、な、なぜ今まで俺に黙っていたんだ!」
「あなたに伝えると絶対に俺が育てると言って聞かないだろうと思ったようです。当時はまだエルフと人間は戦争中で、ルーン大国で生きていくにはエルフと一緒は何かと都合が悪いことが多くて、私が可哀想になると思い、このアバタ宝石を私に着けて人間として育てたほうが良いだろうと夜叉神将軍とダンテ叔父さんが話し合って決めたそうです」
「ダンテのヤロ〜〜〜、俺に黙って……あ、あいつは今どこにいる?」
「ダンテ叔父さんは先週亡くなりました」
「な、何だと? そ、そうか……あのヤロー……最後まで俺に隠して逝きやがったのか」
「叔父さんは生前あなたに私のことを黙ってしまって悪かったと悔やんでいました」
「フン! そんなに悔やむなら言えば良かったのに……そ、それで? なぜ君はここに来たんだ?」
「ダンテ叔父さんに生みの親のことを知らされて、どんな人だったのか知りたくて……ここに来ればお父さんを知ってる人に会えると思って……」
少女はそう言うと涙を浮かべてルディーを見た。ルディーは少女の目の奥にマルクスの面影を見たような気がした。
「あんた名前は?」
「私はサキコと言います。昔ルーン大国をコレラという病から救った聖女ティラアさんの生前の名前と同じだと本人から聞きました。ティアラさんはご存知ですか?」
「ああ、その名前はよく知っているよ」
「じ、じゃ、マルクスは? 私のお父さんはどんな人だったのか? 父のことを教えてもらっていいですか?」
少女の言葉にルディーは胸が熱くなった。気がつくと目に涙を浮かべていた。ルディーは目に涙をいっぱいに浮かべて目から涙が落ちないように笑うと少女に優しく語りかけた。
「ああ、いいぜ! この世で一番カッケー、男の話をしてやるよ!」
その日、ロビナスにある小さなウイロー飯店には涙を浮かべて夜遅くまで語り合う三人のエルフの姿があった。
〜〜〜〜『不滅のティアラ』【完】〜〜〜〜
■□■□■『祝!完結』■□■□■
読んでいただきありがとうございます。
なんとかこの物語を完結させることができました。
ここまで続けられたのも応援してくれた方々のおかげです。
この場を借りてお礼申し上げます。
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