激闘の末
アルサンバサラとの戦いでカイトとレンは次第に連携を取りながら戦うことができるようになった。最初のうちはお互いバラバラに攻撃を行い、ヒヤヒヤする場面も多かったが、今ではレンを襲うアルサンバサラの触手はカイトの攻撃魔法で焼き払い、それを見たレンはすかさずアルサンバサラの体に攻撃を集中させることができた。
だが、段々と戦況が良好したように思われたが、アルサンバサラの回復のスピードは早く、レンがいくら大剣で攻撃をしてもすぐに回復していった。いくら攻撃をしても回復してしまい、また、疲れた様子もないまま、ものすごいスピードで攻撃を繰り出してくる敵を見てレンは少しイラついた。
「畜生! いくら攻撃してもすぐに回復しやがる! 本当にこの化け物を倒すことはできるのか?」
いくら攻撃しても一向に攻撃の手を緩めない相手にどうしていいか困惑していた。その雑念から油断ができてしまったのだろう、アルサンバサラの触手の一本がレンの足にあたり一瞬、体制を崩してしまった。
『死ね〜〜〜!!!』
アルサンバサラはここぞとばかりに触手をレンに集中させようと身を乗り出した瞬間、アルサンバサラに隙ができた。
「よし! 今だ!!」
ルディーが合図をすると夜叉神は床弩の引き金を力一杯引いた。すると一本の弓矢がものすごいスピードで飛び出した。この弓矢はマルクスの命を奪った弓矢だった。マルクスは自分の体に深々と刺さった弓矢に死の瞬間までありったけの魔力を込めていた。この弓矢はアルサンバサラを倒すことができる唯一の武器だろう。
弓矢は一直線にアルサンバサラに飛んでいった。その場にいた誰もがアルサンバサラに突き刺さる場面を想像した瞬間。
『バチン!!』
アルサンバサラの触手が飛んでくる弓矢を弾いた。マルクスの矢は無惨にも触手に弾かれてそのままアルサンバサラの足元に転がった。
『ガハハハハハ〜〜〜〜! 残念だったな〜、先ほどから隠れてコソコソとしてるのに気づいていないとでも思ったのか〜〜!』
アルサンバサラの下卑た笑い声があたりに響き渡った。
「畜生! なんてことだ!!」
「そ、そんな……」
ルディーと夜叉神とダンテの三人はあまりのショックにそれ以上の言葉が出なかった。
「どうすればいい?」
三人は何か自分たちでできることはないか考えてみたもののどうすることもできない。その間にもレンとカイトへの攻撃は激しさを増していた。誰の目にも二人の体力がだんだんと消耗していくのがわかった。早くなんとかしないとこのままでは確実に負けてしまうと思ってはいるが、三人にはどうすることもできない。
自分たちが加勢しても一瞬でやられてしまう、長年戦場で戦ってきた自分たちだからわかる残酷な判断だった。三人はただ呆然と戦況を見守るしかない自分を呪った。
「私がなんとかしてやる!」
後ろから声をかけられて三人が振り返るとメルーサが立っていた。
「メルーサ? 無理だ! いくらお前でも……」
メルーサはルディーの言葉を手で遮った。
「私ではあいつに勝てないことぐらいはわかっている。でも、注意を引くことぐらいはできるだろう」
「注意を引くだと? 自分が囮になるっていうのか?」
「ああ、そうだ。私が囮になって注意を引いている間にルディー、お前があの弓矢を拾ってあいつに突き刺せ!」
「だ、だめだ! 危険すぎる。あの戦いを見ろ! 神格スキルを持っているあの二人でさえ苦戦しているんだ」
「危険は百も承知だ! でもやるしかない!」
「ど、どうして……そこまで……」
「マルクスは私の命の恩人だ……幼い頃の私をあいつは救ってくれた。あいつの仇を打てるなら私はなんでもする。たとえこの命がなくなったとしても本望だ」
メルーサの必死の訴えにルディーはそれ以上反対するのをやめた。その目には戦士の闘志が漲っていた。
「わかった。二人であいつを倒そう!」
「ルディー頼んだぞ」
メルーサはそれだけ言うとアルサンバサラに向かって走った。
メルーサは全速力で走りながら魔法を唱えてアルサンバサラに向かって魔法攻撃を放った。
「くらえ! ヘルファイアーーー!!!」
メルーサが魔法を唱えると、大きな火球が飛んでいき、そのままアルサンバサラを火球が包んだ。
急に炎に包まれた敵に驚いたカイトが振り返るとメルーサがこちらに走ってくるのが見えた。
「メルーサ? なぜここに? 悪いがあんたじゃ、あいつには敵わない。早くここから逃げろ!」
「フン! あんなに小さかった坊やが言うようになったな。確かに私ではあいつには敵わないだろう、でもそんなことは問題じゃないんだ。戦う前から諦めたら何も始まらないだろ」
「何を言ってんだ? メルーサ? あんた死ぬ気か?」
「うるさい! ガタガタ言ってないで私の言うことをよく聞け! いいか? あいつをお前の魔法で倒させてやるから、お前が使える最強の雷魔法の詠唱を今から始めろ!」
「は? そ、そんなことできるわけ無いだろ! 俺の最強魔法の詠唱にどれほど時間がかかると思ってんだよ。魔法の詠唱をしてる間に奴に殺されてしまう」
「いいから言われた通りにしろ! わかったな! 私を信じろ!! お前が詠唱する時間ぐらい私が稼いでやる!」
「ほ、本当か? わ、わかった」
カイトが渋々承諾するとメルーサは笑った。
「そうだ、それでいい」
メルーサはそう言うとアルサンバサラを見た。攻撃した火球が消滅するとそこにはかすり傷ひとつついていない敵の姿があった。
「チッ! 全く効いてないなんて……」
『ガハハハ〜〜〜! お前はメルーサか? また無駄な努力をやりに来たのか? お前はすでに自分の魔法が私に効かないことを知ってるだろ?』
「うるさい! これを食らってもそんなことが言えるかな? 食らえ! ファイアーストーム!!」
メルーサが魔法を唱えると岩をも溶かす火の嵐がアルサンバサラを包んだ。
『グァッハッハ〜〜!!』
灼熱の炎に包まれながらもアルサンバサラは笑い声をあげた。アルサンバサラが腕を振り上げた瞬間、メルーサの最強魔法のファイアーストームは打ち消された。その体にはやはり、かすり傷ひとつ付いていなかった。
(これほどか?)
その姿にメルーサは絶望した。自分はこれまでギルディアの隊長の資格、ギルティークラウンの称号を仰せつかって部隊を率いて第一線で戦ってきたが、これほどまで自分の魔法の効かない相手と戦うのは初めてだった。少し前まで時間稼ぎできるだろうと自信満々に豪語していた自分に嫌気がさした。
メルーサが動揺した次の瞬間、アルサンバサラの触手が容赦なくメルーサに襲いかかってきた。ものすごいスピードで伸びてくる触手を見て瞬時に自分には避けることができないと悟ったメルーサは目を閉じると死を覚悟した。
『ドカッ!』
思いがけず横から衝撃が来たと思ったら、誰かがメルーサを突き飛ばした。メルーサは突き飛ばされた瞬間にその人物の顔を見た。
「お、お前はルディー?」
「諦めるのは早いぞ……馬鹿野郎!」
ルディーが自分を庇って飛び込んで来てくれたと認識したところで、ルディーの姿をみてメルーサは血の気が引いた。彼の左腕が肩の付け根からすっかりなくなっていて、血がどくどくと吹き出してあたり一面に飛び散っている。
「ルディー!! その腕は……!!」
「無事でよかった……」
ルディーは苦悶の表情を見せたが、次の瞬間メルーサの顔を見ると笑って見せた。
「あんたが無事なら腕の一本ぐらい安いもんだ」
「ば、馬鹿野郎! その腕でどうやってあの化け物に矢を突き刺すんだよ……こんな私を助けるだなんて……」
「だ、大丈夫だ……、メルーサ……お前の命をかけた攻撃は無駄じゃなかったぞ。ほら、あれを見ろ」
そういうとルディーはアルサンバサラを見て微笑んだ。メルーサもアルサンバサラの方を見るとダンテが弓矢を持ってアルサンバサラの体に深々と突き刺しているのが見えた。
弓矢が深々と刺さったアルサンバサラは苦しそうに踠いていた。
『グォオオオオオオオーーーー!! な、なんだこの矢は体に力が入らない!!』
「今だ!! カイトーーー! この弓矢めがけて魔法を放てーーーーーー!!!」
ダンテは大声で叫ぶと弓矢から手を離してアルサンバサラの体から飛び退いた。
ダンテが飛び退くのとカイトの魔法の詠唱が終わるのは同時だった。カイトはありったけの魔力を集めると最強の雷魔法を唱えた。
「喰らえーーーー!!! サンダーストームーーーー!!!」
カイトの唱えた雷魔法はアルサンバサラの体に深々と突き刺さったマルクスの弓矢に直撃した。
『グァアアアアアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!』
アルサンバサラの体は強大な電撃に包まれた。目が眩むほどの光を放つと体が吹き飛びそうになる程大きな轟音が鳴り響いた。雷の衝撃で周りの木々たちも吹き飛ばされた。
徐々に閃光が消えていくと地表は大きなクレーターのように陥没して、その中央に真っ黒に焼けこげたアルサンバサラが立っていた。
「倒したのか?」
真っ黒に焼け焦げたまま動かないアルサンバサラを見て、その場の全員に緊張が走った。やがて一輪の風が吹くと、その風によりアルサンバサラの体はまるで消し炭のようにボロボロと崩れていき、やがてこの世から跡形もなく消えてなくなった。
「やったーーー! あの化け物を倒したぞ!!」
夜叉神将軍が勝利の雄叫びを挙げると全員が自分たちの勝利を確信した。
それは長年ギルディアとルーン大国に伝わる暗黒邪神アルサンバサラを倒した瞬間だった。
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