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あの日の誓い

 咆哮(ほうこう)を上げながら狂気に満ちた表情で気味の悪い人間の姿をした悪魔たちが私とカイトに襲いかかってきた。


 視線を落とすとカイトの顔が間近にあった。彼は魔力を使い果たして疲弊(ひへい)した表情を浮かべていた。


「ティアラ、君を守れなくてごめんよ」


 苦しく息を吐きながら消え入りそうな声でカイトが謝った。


「カイトのせいじゃないわ。カイトは私のことをいっぱい守ってくれたよ」


 私はそう言うとカイトが愛おしくなり彼に抱きついて目を閉じた。大勢の悪魔の叫び声が段々と近づいてきて怖くて体が震えた。


『ぐああああーーー!!」


 悪魔の絶叫が辺りに響き渡った。


 私は一層怖くなって体をこわばらせたが、しばらく経っても悪魔が体に触れてこないので不思議に思い恐る恐るゆっくりと目を開けた。そこには中に浮かんで手足をバタつかせて苦しそうな表情の悪魔が見えた。その悪魔の胸には大剣が深々と背中から刺さっているのが見えた。


「貴様ら、ティアラに手を出して許されると思うなよ」


 そう言うと男は大剣ごと悪魔を軽々と持ち上げるとものすごい速さで横に薙ぎ払い、悪魔を真っ二つに両断すると、悪魔は灰のようにバラバラになって消滅した。ルディーやダンテでさえも倒すことができなかった悪魔を男は一撃で倒してしまった。


「ティアラ遅くなってすまない。もう大丈夫だ」


 黒いオーラを身にまとった男の顔を見て懐かしくなり思わず涙が溢れ出した。


 その男は黒いオーラを身にまとった剣聖のレンだった。私はその懐かしい顔をみて思わず目から涙が溢れ出した。


「レン? どうしてここに?」


「君を追ってきたんだよ」


 レンはそう言って泣いている私の顔を見るとそっと手で涙を拭くと優しく微笑んだ。


「駄目よレン! その悪魔たちはものすごく強くて……大勢に囲まれたらひとたまりもないわ! 私を置いて早くここから逃げて!」


 私は怖くなって叫んだ時、レンの後ろから悪魔が襲いかかろうとしているのが見えた。


「レン! 危ない!!」


 私が叫ぶより早くレンは大剣を片手で軽々と持ち上げると目にも止まらない速さで悪魔を簡単に両断した。


「心配するなティアラ、以前の俺とは違うところを見ていてくれ」


 レンはそう言うと大剣を構えた。やっと誓いを果たせることに高揚感を感じていた。あの日ゴブリンの巣穴で王宮騎兵団のゴルドンに助けられて以来、ティアラの前で不甲斐(ふがい)ない醜態(しゅうたい)(さら)してしまった自分を悔やんでいた。その日からレンはティアラを守るためだけに生きてきたと言っていいだろう。ここに到着する時間も剣聖エナジーと寝る間を惜しんで修行に励んできた。


(俺はお前を守れる男になると誓ったんだ。君を守るためなら、たとえこの身が滅びようとも構わない全力で戦ってやる)


 レンはそう心に誓うと全身にオーラを身にまとった。


 狂ったように叫ぶ悪魔を目の前にしても全く動揺しない。悪魔の叫び声には人の恐怖心を倍増する魔法がかかっていた。どんなに心を鍛えた達人でも叫び声を聞いた瞬間、恐怖に襲われて体が震えて動かなくなるのだが、レンは違った。今の彼の心に恐怖心は微塵も無かった。ティアラを守るそれだけで彼の心は満たされていた。


「悪いが、今だけは誰にも負ける気がしねえ!」


 レンはそう叫び声を上げると悪魔の大群に突っ込んだ。2メートを超える大剣を軽々と持ち上げると恐ろしい速さで振り回して、ルディーやダンテがあれほど苦戦していた悪魔を次々と倒していった。その姿はまるで鬼神のようだった。


 夜叉神とルディーとダンテは悪魔に姿を変えたナルディアを三人がかりで抑えていたが、急に現れたレンの姿に驚いた。特にルディーはレンの人間離れした剣術に空いた口が塞がらない。


「な、何だ? あの人間は? ルーン大国にあんな化け物が居たのか?」


 ルディーの問いかけにダンテも始めてみたレンの姿に驚いた。


夜叉神将軍(やしゃじんしょうぐん)。あんな奴がいるなら言ってくれれば……」


「ち、違う。あんな奴は知らない。俺も初めて見る顔だ!」


「え? あいつはルーン大国の兵士じゃないのか? 一体何者だ?」


 三人はお互い見つめ合った。すると後ろから何者かの声が聞こえてきた。


「あいつはレンという男だ」


 三人が振り返るとピンク色の髪の毛の少年のようなエルフがそこに立っていた。透き通るような肌の白い美少年を見た瞬間、ルディーは背筋が凍った。その少年のようなエルフの姿に見覚えがあったからだ。その少年はギルディアの誰もが一度は目にする肖像画に描かれていた人物の姿にそっくりだった。その人物の名は剣聖エナジー、はるか昔に暗黒邪神(あんこくじゃしん)アルサンバサラを封印した伝説の剣士の姿だった。


「あ、あなたは……まさか……剣聖エナジーなのか?」


 ルディーは恐る恐る少年に話しかけた。


「ギルティーも弱くなったもんだ」


 エナジーの哀れみを含んだ眼差しにルディーは思わず情けなくなり叫んでしまった。


「う、うるさい! 今はそれどころじゃないんだ!」


 ルディーがエナジーに向かって叫んだ瞬間、少し気が緩んでしまいナルディアを押さえ付けていた力が緩みナルディアは三人を跳ね除けた。


「しまった!」


「うわ〜〜!!」


 三人を振りほどいたナルディアはそのままエナジーに向かって襲いかかった。エナジーは瞬時に刀の(つか)に手をかけた。


「やめろ! エナジーそいつは……」


 ナルディアはエナジーに向かって手を振り上げたがその手は空を切った。すでにその場にエナジーの姿は無かった。次の瞬間ナルディアの後頭部に衝撃が走ると彼女は意識を失って倒れた。剣聖エナジーは驚くほど早いスピードで彼女の攻撃を躱して後ろに回ると後頭部に打撃を与えて彼女の意識を失わせた。


 ナルディアは気を失ってその場に倒れると動かなくなった。エナジーは身につけていたボロボロになったサラマンダーのマントを外すと首の紐をマントから引き抜くとルディーに渡した。


炎龍(えんりゅう)(ひげ)だ。チョットやそっとでは絶対に切れることはない。邪魔だからこれでその娘を縛っておけ」


 エナジーはそれだけ伝えると必死で悪魔と戦っているレンの元に向かって行った。


 ルディーはエナジーから渡された炎龍の髭でナルディアを縛っているとダンテが恐る恐るルディーに聞いてきた。


「あの少年は何者だ? ナルディアの攻撃を(かわ)した時の動きを見る限り相当な強者と見たが?」


 ルディーはダンテを睨むとすぐに視線をエナジーに向けて言った。


「ギルディアには聖錬(せいれん)という最上級の称号がある。歴史的な活躍をした人物だけが与えられる称号でギルディアの長い歴史の中でその称号を授与したエルフはたった一人しか居ない」


「え? ま、まさか? そのエルフって……」


「そのまさかだ、そのエルフがあの方だ、剣聖エナジー。はるか昔、暗黒邪神アルサンバサラを一人で倒した伝説の剣士だ」


「あの少年が……剣聖エナジー……」


 ダンテは伝説の剣聖をまじまじと見た。剣聖エナジーその名前は敵国ながら剣に(たずさ)わる誰もが憧れる伝説の剣士の名前だった。

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