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暗黒邪神アルサンバサラ

 ロビナス村の大滝の近くでカイトは仇敵(きゅうてき)のデミタスを睨んだ。ここで兄のマルクスは目の前の男に殺されたと思うと心の底から憎しみが込み上げてくる。


「デミタス、これで終わりにしてやる!」


 カイトはそう叫ぶと両手を上に上げて呪文を詠唱した。すると段々と空に雲が現れ、みるみるうちに青空は消えて厚い雲に覆われ、大きな雷雲が空いっぱいに広がった。


「こ、これは? 雷属性最強の魔法。サンダーストーム!」


 デミタスは驚いた表情で上空の雷雲を見つめた。その瞬間カイトは両腕を下に振り下ろした。


「この世のありとあらゆる物をその電撃で破壊しろ! サンダーストーム!!」


 その瞬間、目がくらむほどの閃光が走ると巨大な電撃がデミタスを貫いた。


「ぐぁああああああ〜〜〜!!」


 デミタスの叫び声とともに全身が痺れるほどの轟音が辺りに響き渡り、地上は強大な雷の衝撃により大きなクレーターのような大穴ができた。


「こ、これが、カイトの本気の魔法か?」


 ダンテは改めて魔法の恐ろしさを目の当たりにして、驚きのあまり口が開いたままになった。


「驚いたな。これをまともに食らってはいくらデミタスといえどひとたまりもないだろう」


 夜叉神(やしゃじん)は地面に空いた大穴を見て驚嘆(きょうたん)した。


「いや、そうでもないようだぞ。あれを見ろ!」


 ルディーが指を指した方向を見ると黒いなにかが穴から這い上がってきた。


「まさか? あの攻撃を受けてまだ、生きているのか?」


 雷により全身が焼けただれたのだろう、黒焦げになったデミタスは、体から煙を出しながら立穴から出ると倒れて力尽きたのだろうかそのまま動かなくなった。


「び、びっくりさせやがって、最期の力を振り絞って穴から出てきただけじゃないか」


「そ、それだと良いが……」


「カイト!!」


 ルディーとダンテの間をかき分けて私はカイトの元に駆け寄った。


「大丈夫? カイト?」


「ティアラ!」


 カイトはそう言うと私を抱きしめた。


「お兄さんの敵を撃ったのね」


「ああ、ティアラ、君のおかげだよ。君が必死で俺を呼んでくれたから、俺を信じてくれたから、あいつを倒すことができたよ」


 カイトは抱きしめる腕の力を強めた。暫くの間、私達は泣きながら抱き合った。


「お二人さん。喜ぶのはまだ早いぞ」


 ルディーが黒焦げになったデミタスを指さした。


 まさかと思いデミタスを見ると背中に亀裂が入って、その亀裂から黒い物体が出てくるのが見えた。


「あれは? 何?」


「さあな? 俺にもわからん?」


「ま、まさか? あれは……」


 夜叉神はあの黒い物体が何か知っているようだった。


「あんた、あれがなにか知ってるのか? いったいデミタスの体から何が出てこようとしてるんだ?」


「あ、あれは、あれこそが暗黒邪神(あんこくじゃしん)アルサンバサラだ」


「アルサンバサラだと?」


「ああ、デミタスの体はもうこれ以上保たないと判断したのだろう。体から外に出ようとしている」


「あれが……」


 やがてデミタスの体からおびただしい量の黒いガスが吹き出した。その黒いガスはモクモクと大きな塊になると人の形を形成した。その塊には顔が阿修羅像(あしゅらぞう)のように三面あった。真ん中の顔は女性の顔で右の顔は口に紐が縫い付けてあり、左の顔は老人の顔で上下が反転していた。それよりも驚いたのは、邪神の体のいたるところに多くの人間の顔が埋め込まれていた。


 その場に居た誰もが、アルサンバサラのこの世のものとは思えない異形の姿に見ているだけで背筋が凍りつくような感覚を覚えた。


「暗黒邪神アルサンバサラ、あいつがお前の兄を殺した元凶だ!」


 夜叉神はカイトに向かって叫んだ。


「な、何だと?」


「デミタスは……、お義父さんはあの悪魔に操られたんだ!」


「なんだと! あいつが兄ちゃんを……絶対に許さない!!」


 カイトはそう叫ぶとまた呪文を唱え始めた。暗黒邪神はカイトに気づくと笑い飛ばした。


「ふぁっはっは〜〜! お前は本気で私を殺そうとしているのか?」


 カイトは暗黒邪神の言葉に耳を傾けることなく詠唱(えいしょう)を続けた。


「馬鹿な男だ。そんなことをしても無駄だ! この私を倒したいのであれば、あと二人は神格スキル持ちを用意するしか無いぞ」


 カイトが呪文の詠唱を続けると、再び上空に巨大な雷雲が広がった。


「無理かどうかやってやるよ! この世からお前の存在を跡形もなく消してやる! 喰らえ! サンダーストーム!」


 巨大な雷雲から雷がアルサンバサラに直撃した。目がくらむ閃光と轟音が辺りに響き渡り、地表に50メートルほどの亀裂が入るほどカイトのサンダーストームは強烈だった。辺りは土煙が立ちアルサンバサラの姿は土煙で見えなくなった。


「やったか?」


 ダンテは耳を抑えながらルディーに聞いた。


「ああ。あれを喰らっては暗黒邪神といえど生きてはいないだろう」


 ルディーとダンテはあまりの衝撃に今度こそ跡形もなく消滅したと思っていた。攻撃をしたカイト自身もこの世から完全に消えたと確信した。


 段々と土煙が晴れていくに連れて黒い塊がぼんやりと見えてきた。その塊はみんなの予想とは反して無傷で立っていた。


「そ、そんな馬鹿な!」


「全く効いてないだと!」


 ルディーやダンテやその場に居た者全員が目の前の光景に驚いた表情で呆然と立ち尽くした。


 その光景を見たアルサンバサラは悪魔のような表情で笑った。


「ぶあっはっは〜〜〜! 本気でこの程度の魔法で私が消えると思ったのか? バカどもめ!」


 アルサンバサラは吐き捨てるように言った。カイトはショックのあまりその場に立ち尽くした。


「まだ、絶望するのは早いぞ、これからが本当の恐怖の始まりだ!」


 アルサンバサラはそう叫ぶとなにか呪文のようなものを唱え始めた。すると体に付いていた顔が徐々にアルサンバサラの体からニョロニョロと飛び出てきた。ズルリとアルサンバサラの体から出てきた人間は、そのまま地表に産み落とされるとゆっくりと立ち上がった。産み落とされた人間の体は全身が黒くヌラヌラと謎の液体が全身にまとわりついていてキラキラと光っていた。


「な、何だあれは?」


「あの者たちは、これまでデミタスがアルサンバサラに(ささ)げてきた者たちだ」


「捧げるだと?」


「ああ。デミタスは最愛の娘を復活させるために、アルサンバサラに魅了されたんだ」


「復活だと? そんなことが……、あっ! あれは?」


 カイトの視線の先にはアルサンバサラの体から飛び出てきた者たちがこちらに歩いてくるのが見えた。その群衆の中にティアラにそっくりな女性が居た。


「あれはティアラ?」


 カイトはそう言うと私を見た。


「な、なぜ君にそっくりな人がいるんだ?」


 私はカイトに質問されても自分でもわけが分からず首を傾けることしかできない。


「あれは……ナルディアだ! まさか彼女が……」


 夜叉神は驚いた表情で固まっていた。


「あれは誰だ? 一体何者だ?」


 ルディーが夜叉神に向かって叫ぶと、夜叉神は目からボロボロと涙を流した。


「あの人はナルディア。デミタスの娘で、私の妻だった人だ」

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