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ロビナスの死闘②

 ルディーの魔法によって黒い影の男の周りを包んでいた(きり)が消え、デミタスというエルフの男が現れた。このデミタスというエルフは中央司令部の長官を勤めている男で、マルクス兄弟を昔から何かと気にかけてくれていた男だった。


 デミタスは正体を(さら)してしまったことが信じられないと言った表情をして呆然(あぜん)とその場に立ち尽くした。


「ば……馬鹿な! 私の幻影(げんえい)が解除されただと……」


 マルクスは影の正体が昔から何かと気にかけていてくれたデミタスだったことに動揺(どうよう)を隠せなかった。


「どうしてあんたがここにいる? 何を企んでいる?」


 マルクスの問いかけを無視するほど、気が動転していたデミタスだったが、今更正体を知られたところで問題ないと思ったのか徐々に態度が変わっていき、マルクスとルディーを(にら)んだかと思うと急に笑い出した。


「フッ……わっはっは〜〜! 今日でお前たちとの関係も終わりにするから、今更正体がバレたところでどうということもない」


「何を笑っている? これは中央司令部の作戦なのか? 俺は何も聞いていないぞ!」


 マルクスがそう言うとデミタスは馬鹿にしたような表情をした。


「ふん! こんなのが作戦なわけが無いだろう。これはマルクス! お前を殺すために俺がやったことだ!」


「なに? なぜこんなことを?」


「なぜ……? お前は俺を殺すことのできる唯一の存在だからだよ!」


「なんだと? 俺たち兄弟の面倒を見ていたのも最初から俺を殺すことが目的だったのか?」


「当たり前だ! 俺は暗黒神(あんこくしん)アルサンバサラの加護を受けている。その俺を唯一お前だけが倒すことができる。お前を殺すためなら俺は何でもやってきた」


「なんだと! アルサンバサラだと! お前は悪魔憑きなのか?」


 ルディーはそう言うと手で剣の(つか)を掴むと身構えた。確かに悪魔憑(あくまつ)きを倒すことのできるのは、神格スキルを持つ者しかいない。悪魔憑きという存在はそれほどエルフの中ではタブー視されてきた。もし近くに悪魔付きを確認したらすぐに中央司令部に報告することが厳格(げんかく)に決められていたが、その中央司令部の長官が悪魔付きだったとは笑い話にもならない。


「フッフッ……、お前の魔力切れを起こすために俺がどれだけ苦労をしてきたか想像できるか!」


 デミタスはマルクスに向かって叫んだ。ルディーがマルクスを見ると、とても悲しい顔をしていたのが、許せなかった。


「うるさい! お前ごとき魔物はこの俺だけで十分だ!」


 ルディーはそう言うと剣を抜いてものすごいスピードでデミタスに切りかかった。剣がデミタスに届く瞬間、デミタスは片手でその剣を受け止めた。次の瞬間剣は跡形もなく砕け散った。


「な、何だと? 俺の剣がボロボロに……」


 デミタスは黒い塊を手のひらに集めだした。徐々に塊は大きくなっていき、あと少しで塊ができそうになった時、何かがデミタスに向かって飛んできた。それは大きな弓矢だったデミタスはとっさに飛んできた弓矢を信じられないスピードで避けた。


退魔処理(たいましょり)した武器じゃないと、こいつには効かないぞ」


 夜叉神(やしゃじん)はそう言うと一本の刀をルディーに向かって放り投げた。ルディーはその刀を受け取ると(さや)から刀を引き抜いた。引き抜いた刀の刀身には何か呪文のようなものがびっしりと掘られていた。おそらくこれが夜叉神の言う退魔処理というものだろうと思った。


 夜叉神は大きな台車を押した部下たちを引き連れて現れた。台車は大きな弓矢のような形をしていた、確か床弩(しょうど)とか言うルーン大国が開発した武器で、ダンテを殺そうとしたリュウという盗賊の頭が使用していたのを思い出した。夜叉神はデミタスと対峙すると話しかけた。


「デミタスさん。お久しぶりですね」


「お前は? 夜叉神か? フン! 随分偉くなったな」


「もうやめましょう、お義父さん。こんなことをしてもナルディアは喜びませんよ」


「う、うるさい!! お前たち人間に何がわかる! お前たち人間が私の娘、ナルディアを殺したくせに!!」


「あなただけが悲しんじゃない。私だって最愛の妻を亡くしたんだ。殺した人間は憎いが、こんなことをしてもナルディアは……、妻は喜びませんよ」


「うるさい!! そんなことはもうどうでもいい! 私の願いはこの世から人間を根絶やしにすることだ! そのためだったら私は何でもする!」


 夜叉神はデミタスを見て悲しい顔をした。


「もうこれ以上話し合っても無理ですか……、仕方がない、ここであなたを倒して、この戦いを終わらせます」


「やれるものならやってみろ!!」


 デミタスがそう叫んだ瞬間、ルディーはすでにデミタスのすぐ側まで飛び込んでいて、そのままの体制で切りつけた。刀の切っ先がわずかに左腕をかすめた。


「グッ……き、貴様」


 デミタスはとっさに後ろに飛んで逃げたが、避けきれず攻撃を受けた左腕を掴んだ。腕から吹き出た赤い血が腕を伝って地面に落ちた。


「き、貴様ら、この俺に傷を負わせるとは……」


 この刀ならいけるかもしれない、悪魔憑きを倒せるかもしれないとルディーが喜んだのもつかの間、デミタスの周りを取り囲むように黒い塊のようなものが、いくつも出てきた。


「貴様たちはもう二度と俺に近づくことはできないと思え!」


 いくつもの黒い塊たちはデミタスの周りを取り囲むとくるくると回りだした。そのためバリアのようになってルディーたちは近づくことが困難になった。その塊の一つが夜叉神たちに向かって飛んできた。ルーン大国の兵士たちはとっさに逃げたが、逃げ遅れた数人の兵士に塊が当たると当たった兵士はすぐにミイラのように萎れて亡くなった。


 次々と飛んでくる塊によってルーン大国の兵士たちはミイラになって絶命していった。


「なんだ? この魔法は?」


腐食魔法(ふしょくまほう)だ。アルサンバサラに魅了(みりょう)された者だけが使える。あの塊に触れるなよ、触れた瞬間生気を失うぞ」


「触れるなって……、これじゃ彼奴に近づけないぞ」


 デミタスは黒い塊を大量に放っているので、誰も近づくことすらできなかった。


「フッ、ハッハッハーーー!! 剣士ごときが本気で俺に勝てるとでも思ったか? このまま、ここにいる者全員を殺してやる」


 デミタスは呪文を唱えると無数の黒い塊を出した。


「くそ! あの数はいくらなんでも避けきれないぞ!」


 黒い塊のあまりの数の多さにルディーが叫んだ。


「これまでか……」


 夜叉神将軍も覚悟を決めかけた時、二人の前に誰かが飛び込んできた。


(あきら)めるのはまだ早いですよ」


 現れた男はダンテだった。ダンテは退魔処理を施した刀を構えた。それを見たデミタスは余裕の表情でダンテを見た。


「フン! 雑魚が一匹増えただけで関係ない。死ね!」


 デミタスはそう言うと黒い塊を三人に飛ばしてきた。


「どうする? ダンテ?」


「どうするだって? こうするんだよ!」


 ダンテはそう言うとものすごいスピードで飛んでくる腐食魔法を刀で両断した。次々と目にも止まらない速さで飛んでくる塊をこれまた目にも止まらない速さで全て切り刻んだ。


「やるじゃないか」


「ああ、まあな。これぐらい大したことないさ。それよりもマルクスはどうしたんだ? 何故、倒れているんだ?」


「魔力切れを起こしてるんだ」


「魔力切れだって? そんなこと……、ロビナス石の魔力を取り込めばいいじゃないか? 姉さんから貰っていただろ?」


「何? 今なんて言った?」


「ロビナス石は別名、魔力石と言って、持ち主の魔力を少しだけ貯めておくことができる特徴があるんだよ」


「何だと……」


 マルクスはそう言うとミラから貰って片時も外さず首にかかっているロビナス石を掴んだ。ダンテの言う通り石の中にわずかだが、魔力が宿っているのを感じた」


(これで魔力を回復できる)


 マルクスはロビナス石を(つか)むと魔力を回復するため集中した。


 デミタスはその光景を見て愕然(がくぜん)とした。絶対にマルクスに魔力を回復させてはならない。そう思い先程とは比べ物にならないほど多くの塊を発生させた。


「魔力を回復する前に終わりにしてやる! これだけ出せば防ぐことはできないだろう!」


「くそ! あんなに……」


 ルディーはそのあまりにも多い腐食魔法の塊を前に絶望した。


「これは……いくら俺でも全部(しの)ぐのは、できそうもないな……」


 珍しくダンテも弱音を吐くほどの腐食魔法にルディーを含めた全員が観念した。


「死ね!! ここにいる者全員跡形もなくこの世から消してやる」


 デミタスはそう言うと無数の黒い塊を放った。ダンテは飛んでくる塊に向かって刀をこれでもかというほどにハイスピードで振り回したが、切っても切っても無数に降り注ぐ塊の前に諦めかけた時、眩しい光とともに塊が一瞬で無くなった。


 神々しい光は後ろから降り注いでいたので、みんなが振り返るとそこにはマルクスが立っていた。


「もう大丈夫だ」


 そこには魔力を回復して(よみがえ)ったマルクスが立っていた。


「マルクス? 大丈夫なのか?」


「ああ。まだ10%ほどしか回復していないが、彼奴を倒すには十分だ」


 そう言うとデミタスを睨んだ。


「な、何だ? す、少し魔力が回復しただけで調子に乗るな! き、貴様ごときこの場で殺してやる」


 デミタスは怒り狂い腐食魔法を唱えたが、何も出てこない。マルクスの魔法により腐食魔法を解除させられていたのだが、デミタスは気づいていなかった。


「ど、どうして? な、何も出てこない?」


「どうした? 何も無いならこっちから行くぞ!」


 マルクスはそう言うとデミタスに向かって指を指した。その指先から一筋の光が飛んでいきデミタスの腕と足を貫いた。


「ぐあ〜〜〜!!! き、貴様〜〜〜!!」


 デミタスはその場で倒れると叫びながら転がった。マルクスは悲しい顔でその光景を見ていた。


「デミタス。これで終わりにしてやる」


 マルクスはそう言いながら手を上にあげると大きな水柱がデミタスの上に浮かび上がった。


「こ、これは……水属性最強の魔法。ウォーターストーム?」


 デミタスが驚いた表情で自分の上空にある水柱を見つめると、マルクスは挙げた手を下に振り下ろした。


「この世のありとあらゆるものをその水圧で押しつぶせ! ウォーターストーム!!」


 上空にあった水柱が容赦なくデミタスを押しつぶした。


「ぐあ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」


 上から降り注いだ水柱の水圧に一瞬にしてデミタスは地中深くに消えていった。その場に残ったのは底が見えないほど深く空いた直径二メートルほどの穴だけだった。


 苦心の(すえ)マルクスはデミタスを倒した。

読んでいただきありがとうございます。


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