ゴマフアザラシの赤ちゃんとシロクマ
大人になる過程で、こんなことをしているのは私だけだと知った。
なぜなんだろう……楽しいのに。
皆さまこんにちは~。ひだまりのねこですにゃあ。
さて、この時期寒くなってくると、アレがコンビニのレジ付近に並ぶようになります。
ちなみにおでんではありません。
ところでコンビニでおでんを購入するのが苦手なのは私だけでしょうか?
①店員さんと話すのが恥ずかしい。
②好みが偏っているので恥ずかしい。
③容器のサイズ感がわからない
④汁の調整を細かくオーダーする人が苦手だ。
⑤残った汁の処理に困る。
⑥ほぼ100%こぼす。
⑦そもそも、私が食べたい「ちくわぶ」が売っていない。
⑧気持ちよさそうに湯船に浸かっているおでんたちを邪魔するのが忍びない。
ざっと思い付くだけで、上記のハードルが瞬時かつ複合的に出現するので、私が一人でいるときにおでんを買う確率はO%。家族で購入したことはあるけれど、あの緊張感は苦手でしかないのです。
あああ……違う、おでんの話をしたかったのではないのです。
そう、中華まん!!
抗うことすら難しい、今日は見た目から可愛くて危険な彼らのお話。
ああ寒い。会社帰りのコンビニは魔境だ。
見るたびに変わる限定スイーツに安くて美味しいパン。美味しそうなアイスコーナー。お手軽なレトルトや惣菜コーナーも危険極まりない。
普段は自炊しているが、疲れている時はコンビニで済ませたい衝動に駆られる。
だから私にとってコンビニは道端にある有料コンテンツのようなもので、なるべく利用しないようにしている。
そもそも近寄らなければどうということもない。残念ながら、コンビニを通らずに帰るルートは存在しないのだが。ふふふふ。
そんな私でも、公共料金の支払いなどで利用せざるを得ないこともある。
ちょうど昨日の夜、週末の金曜日、そんなタイミングだったので、私はスキル「総合的判断」を発動。
(まあ、今週も頑張ったし、我慢やストレスは体に良くないからね。ここで数百円の出費をケチったことで、病気になったら元も子もないじゃないか。むしろトータルで見れば安いしお得まである。それにさ、これから帰って活動報告作らないといけないんだろ? 時は金なりだぜ?)
というわけで、晩御飯は、チキンと中華まんに決定する。
だが、ここで慌ててはいけない。どこのコンビニでも良いかと言えばそんなことはない。同じ系列でも、中華まんの品ぞろえは店によって違う。
せっかくの機会にお目当ての品が無くてがっかりしたくはないのだ。
そのために普段から私は観察を怠らない。帰宅ルート上のコンビニの品ぞろえは丸裸だ。
「〇〇チキとあんまんと肉まんください」
私はお目当ての品があって歓喜している内心を店員に悟られないように、極力平静を装って注文する。なんなら仕方ないからそれでいいや的な雰囲気を醸し出す。マスクがあっても油断は禁物だ。目は口ほどにものをいうのだから。
私は基本的にこの組み合わせしか頼まない。あんまんが無ければ、そもそも買わない。
異論は認めるが、私にとって中華まんとはあんまんのことだ。それ以外は別の何かだと思っている。ケーキと言えばイチゴのショートケーキをイメージするのに似ているかもしれない。
思えば、肉まんが食べられるようになったのは高校生になってからだ。甘くない中華まんに対する苦手意識は今でも完全には消えていない。
もちろんチキンと肉まんでも腹は膨れるが、たとえばイチゴのショートケーキにイチゴが乗っていないのに果たして注文する人間がいるだろうか? つまりはそういうことだ。
購入した三点セットを持って家路を急ぐ。
最近は真っ暗なので、食べ歩きしても恥ずかしくない。温かいうちにチキンを食べるが、中華まんには手を付けることはない。
帰宅すると、中華まんを取り出して食べる準備を始める。
まずは、肉まんとあんまんの薄皮を丁寧に剥いてゆく。幼少時から繰り返してきた作業だ、もちろん剥がした皮はそのまま食べる。手慣れたもので、ほどなくあんまんと肉まんは、艶のある薄皮をみぐるみ剥がされてしまう。
ふふふ、ガタガタ震えながら急激に体温が失われてゆく中華まんたち。お可哀想に。
皮を剥がされた姿は完全にアレだ。ゴマフアザラシの赤ちゃん。
ゴマフアザラシの赤ちゃんは、生後一、二週間はもふもふで真っ白いぬいぐるみのように可愛い。流氷の上で子育てをするゴマフアザラシにとって、白は保護色となるのだ。ちなみに流氷に乗って、北海道へもやってくる。
そんなモフモフになった元あんまんと肉まんで両頬を挟み込んでモフモフサンドイッチを敢行する。これは外では出来ない荒業だ。汚いかもしれないが、自分で食べるのだから構わない。
次に元あんまんのゴマちゃんの腹を裂き、あんこを適量取り出す。
ゴマちゃんの大きくてつぶらな瞳でうるうるされたらそんなことは出来ないが、幸いあんまんに目は無い。ゴマちゃんのキュ~キュ~という鳴き声を聞いてしまったら、私のメスを握る手は鈍るかもしれないが、幸いあんまんは無口だ。
取り出したあんこで、目鼻口を作り、肉まんの一部を使ってひれと後ろ足を付け足せばゴマフアザラシの赤ちゃんの完成だ。
ゴマちゃんを眺めて満足したら、肉まんから剥ぎ取った皮を加えて今度はシロクマを作成する。ふふふ、楽しい。わずか200円台でここまで楽しめる食べ物はそうない。
ちなみにシロクマの毛は透明で地肌は真っ黒だ。だから黒いあんこが入っているのは実にリアルなのだ。
そういえば、日本が誇るタイヤメーカーブリヂストンのスタッドレスタイヤ BLIZZAKは、シロクマの足裏の構造をヒントに開発されたのだったなとつぶやきながら冷え切ったあんまんにかぶりつく。
うーん、流氷の上で暮らす彼らの生き様を感じる冷たさだ。
温めなおそうかと電子レンジの前に立ってから思い出す。
……昨日電子レンジ壊れたんだったな。
これから冬本番だというのに、電子レンジ無しでどうやって過ごせと言うのか。
心の中を冷たい隙間風が吹き抜ける。
みんな、食べ物で遊んじゃいけないよ。