1:牢屋にて その2
翌朝は騒々しい音で叩き起こされた。
「なんだなんだっ!? 静かにしろ!」
跳ね起きた俺は牢の鉄格子を剣で叩いているバカに怒鳴る。
「いつまで寝てやがる! とっとと起きねぇと飯抜きだぞ!」
口汚く罵りながら、容赦なく隣の牢もガンガンと叩いていく。
入れ替わりにやって来た男が牢の外になにか置いていく。見れば朝食らしいが、漂ってくる臭いがすでにヤバい。
「食わねぇのか? 食わなきゃ死ぬぞ」
ためらっていると、向かい側の牢から声をかけられた。囚人のオッサンは鼻をつまんでかき込んでいる。
「臭いが、なあに、死ぬこたぁねぇ。まぁ、腹が弱けりゃ下すかもしれねぇがな。それに、夜までなにも出ないからな」
「ひえっ!? これで終わりぃ?」
悲鳴を上げたのはファミだった。いつの間にか自分の分は平らげている。
「ご飯少ない……」
無表情で悲しそうにつぶやくセイルの持った腕も空だ。
ふたりが置きっぱなしの俺の分に視線を向けている。野獣が獲物を見つけた目だ。
「いやいやいや! それは俺のだし!」
慌てて確保して一気に飲み下す。臭さばかりが気になって、味なんてものは感じてるヒマもない。
「ジェイくん、ケチ……」
「こっちは一人で二人分必要」
「体はひとつだろ」
「か弱い女子にひどい仕打ちよな」
「うむ、男の風上にも置けんな」
「おまえらな……」
魔王と勇者まで罵り始め、うるさくなって耳を閉ざそうとすると、向かい側の囚人が声をかけてきた。
「朝っぱらから騒々しい連中だな。ま、その勢いがいつまで続くかね」
「どういうことだ?」
「待ってりゃわかる」
なんだか嫌な予感しかしないけど、まだ何か起こるわけでもなさそうだ。
「で、どうするんだ、魔王?」
「城を出るくらいはいつでも出来るからな。中にいる間に調べるとしよう。魔王城と基本的には変わっていないなら見取り図がある。隠し通路もトラップも」
「それはいいな! で、その見取り図はどこだ?」
「む? それは無論、倉庫に……」
「ああ……。ソーコちゃんか……。大丈夫か?」
「前回振られた」
収められた本を守るためにずぶ濡れの俺たちを中に入れるのを拒否したくらいだ。牢屋に来るのも嫌がるんじゃないだろうか。
「ワレを拒むことなどできんわ! 来るがよい、我が宝物庫よ!」
「来ました、魔王様」
まったく気配もないまま、ソーコちゃんが魔王の後ろに立っていた。
「むおっ!? 脅かすな、倉庫番の分際で!」
「なんの用でしょうか?」
取りつく島もなさそうな塩対応だ。用件だけ済ませて消えたいという意志がはっきりと示されている。ソーコちゃん、現れる度に素っ気なくなってないか?
「早くしてください。こんな空気の澱んだところは収蔵物にとって悪影響があります」
「貴様、本当にワレの倉庫番か!? もっと敬って大事に扱わぬか!」
「大事なのは収蔵物です。魔王様を大事に扱う必要はありません」
「くっ!」
「魔王が収蔵物になればいいんじゃないか? 大事にしてもらえるぞ」
「嫌ですよー! ガラスケースに入れられて陳列されるなんてー!」
「ファミなら喜んで見るんじゃないか?」
「はうっ!? そ、そうですかー? ジェイくんがじっくり全身なめ回すみたいに見てくれるならいいかも……」
「一般公開されないから誰も見ませんが」
「やっぱり却下ですー!」
ファミがびしっと俺の提案を拒否すると、代わりに魔王が呆れたように続ける。
「そもそもなぜワレがワレの宝物庫に閉じ込められねばならぬのだ」
「倉庫番に対する労いの念がないからです」
「倉庫番の分際で、ワレに労えだと!?」
「あーダメダメ! きちんと報酬払わないから! そもそもあんたのいない1000年間ずっと管理してたんだから、まず1000年分の給金を支払うべきだろ」
「なんだと!? なぜワレが部下に金を払わねばならんのだ!? 部下などワレに仕えるのが当然であろうが!」
「魔王軍が弱くなっていったのはこのせいだな。終盤はもろかったぞ」
「士気の維持は大事」
勇者とセイルが交互にうなずく。端から見てるとセイルが2回うなずいたようにしか見えないが。




