3:聖都潜入 その1
「また無骨で美しさの欠片もない壁を作ったものだ」
魔王は拳を腰に当てて見上げ、吐き捨てた。不機嫌なファミってのはかなりレアだ。本人は能天気だもんな。
「魔王城だった時にはなかったのか?」
「我の美意識に反する」
「魔王の美意識ってどんなんだよ」
確か魔王ってグチャグチャドロドロ触手発狂野郎じゃなかったっけ?
「発狂するのはワレではなくてワレを直視した者だぞ」
「ああそうか……って、俺の考えが読めるのか!?」
「そう言いたげな目をしていたであろう」
「まあ、否定はしない」
そうこうするうちに門を潜る順番が巡ってきた。俺たち3人――ニャオウはペットとしてファミに抱えられている――は巡礼から剥ぎ取った巡礼服を着ているので巡礼として問題なく通れるはずだ。
「そこの3人」
衛兵――というか、教会の兵士だから教兵が声をかけてきた。俺たちの周りには他に3人組は……いない。何かマズかったか。
「おまえたちだ」
くそう、魔王だってバレたのか。それともニャオウがバレたのか。まあ、ニャオウなら放り投げて逃げるだけだが。
「ニャにぃ?」
ニャオウが俺の心を読んだように抗議の声を上げる。バレるから止めろ。
「なんでしょうかぁ?」
ファミがいつものふにゃっとした笑みを浮かべて教兵に応じる。
「あ、いや、子供ばかりだからな。確認だ」
「お父さんとお母さんは病で亡くなってしまったのです。だから、ファミたちは女神様にお祈りをしなければいけないのです」
「そ、そうか。それは辛かったろうな。女神様も慈悲を下さるだろう。よくお祈りしてくるんだよ」
「はあい」
「死んでも祈るか」
「ん? なにか?」
「いいえぇ。心を込めてお祈りしますねぇ」
俺たちはそそくさとその場を抜けて街に入った。
充分に離れたのを確かめて、魔王に詰め寄る。
「おい、魔王。どういうつもりだ?」
「こいつが心にもないことを言うから、全身にボツボツと鳥肌が立ったではないか」
「バレないようにつぶやけよ」
「全身かゆかったのだ。耐えられ――」
「ジェイくん……ファミ、体がブツブツになっちゃったぁ!」
魔王の声を途中で遮ると、ファミはいきなり裾をたくし上げて胸の辺りまでめくり上げた。おっぱいがぎりぎり見えそうで見えない位置。
「お、落ち着け! しばらくしたら治るから! 往来で服を脱ぐな!」
「ほらぁ! ちゃんと見てよぉ! おへその辺りがブツブツしてるの!」
「止めろ、ファミ!」
「おへその下までかゆいよぅ!」
「パンツ下げようとするな! こら、てめぇら見るな! 金取るぞ!」
「い、いくらだ? はぁはぁ」
「金を出そうとするな! 息が臭い!」
「パンツなら10万だすよ。ふへっ」
俺はおっさんどもを蹴り飛ばすと、ファミを連れて駆け出した。
「どこが宗教都市だよ! いかれた野郎が野放しじゃねーか!」
「メディアのやることだからな」
「どういうことだ?」
「メディアは愛と欲望の女神だ。あんな連中だって愛すると言われている、建前はな」
「建前?」
「メディアは好き嫌いが極端だからな」
勇者が吐き捨てる。
「自分の欲望に素直なヤツだ」
「人間みたいな女神だな。そんな面倒な相手に絡まれたくないなぁ」
今でも充分面倒ごとに巻き込まれてるしとため息をつくと、改めてふたりを見る。
「で、どうするんだ?」
「どうとは?」
「この後どうするんだ?」
「はいはいー!」
魔王からファミに切り替わって、ぴょんぴょん跳ねながら手を上げる。
「えっとねー、まずお食事でしょー」
「腹が減ってはなんとやらだな」
「宿でお休みー」
「確かに長旅で疲れてるもんな」
「お布団の中でジェイくんといいことするー」
「それは却下」
「ぶー」
「ぶーぶー言ってもダメ」
「じゃあ、明日は名物食べてー、夜には二人っきりで思い出作りしてー」
「観光かーっ!」
思わずファミの頭に突っ込みを入れてしまった。
「えー? じゃあ、何しに来たの?」
「ローネを助けに来たんだろうが!?」
「あ……」
口をポカンと開けたファミ。
「おまえ、ひょっとして忘れてたんだろ?」
「ワスレテナイヨー」
「物凄い棒読みなんだが」
ファミに呆れていると、セイルが俺の腕を突いてきた。
「ジェイト、教会に行く?」
「そうだな。まずは敵情視察かな」
「ん。敵情視察でデート」
セイルが無表情に微笑んで俺の腕を引っ張った。
「わっ! 待ってよ~」
ファミが慌てて追っかけてくる。
そんなわけで、食事の前に教会を冷やかしにいくことになった。
ローネを掠った連中が向かったのがこの街なら、教会が絡んでいるのは間違いないだろう。言わば敵の本丸だ。




