2:雨宿り その1
「ジェイくん、どうしよう?」
「野宿は無理」
土砂降りの空を見上げてファミとセイルが言う。参ったな。
「魔王、なんか便利な魔法はないのか?」
「ワシを便利道具扱いしゅりゅふぁっくしょん!」
魔王の叫びはくしゃみになって弾けた。
「風邪引くよー、ジェイくん」
「仕方があるまい。こういう時のために用意しているのだ。」
魔王は面倒そうに下僕の倉庫番を呼び出した。
「ソーコちゃん! 久しぶりー」
「さっさと我らを入れよ」
黒いメイド服姿のソーコちゃんは冷たい目をして俺たちを見た。
「嫌です」
「ん? もう一回言ってくれ」
「お断りします」
「我はおまえの主人だぞ」
「ご主人であっても管理者権限によって拒否します」
「どういうことだ!?」
「ずぶ濡れの者を私の中に入れるのは不可です」
「なんだと!? 濡れていない方がいいだと!」
「私の中には貴重な魔導書も多くあります。故に湿気は大敵です。司書として断固拒否します。さようならです」
ソーコちゃんはあっさりと姿を消した。
「ちょ……倉庫番の分際で!」
「魔王、惨めだな」
「人望ない」
「がっかりだよー!」
倉庫番に足蹴にされ、俺たちにはバカにされる魔王。踏んだり蹴ったりだが、今はこっちも悲惨な状況なのだ。
「とりあえず、木陰でやり過ごすか」
俺たちは少し離れた所にある大きな木を目指して走った。
大木の下に入ると、鬱蒼と茂る枝葉が傘になってなんとか雨宿りできた。
しかし、止みそうもないどころか、ますます激しくなってきたぞ。
「あーん、ずぶ濡れだよー、ジェイくん」
「うん、濡れた」
ふたりの姿を見ると、濡れて服が体にぴっちり貼り付いていた。なんだか普通よりエロいのはなぜだろう?
「ジェイくん、透けた服が好きなんだー」
「ジェイト、濡れフェチ?」
「どこでそんな言葉覚えてくるんだ!?」
「ワシも濡れてるにゃ?」
「ニャオウがずぶ濡れでもなんにも感じんわ!」
「濡れてソンしただけにゃ」
単に毛が濡れて貧相になった黒ネコだもんな。
それにしてもどうしようかと思っていると、セイルが、いや、この動きは勇者か、妙な動きをし始めた。
「ん? 向こうになにか気配があるな」
勇者は動物のように鼻をヒクヒクさせた。
「獣並だな、こいつは」
「昔から動物の方が近かったな、こやつは」
魔王も昔を思い出したのか同意する。
「とにかく、ここにいても止むわけもないし、野生の嗅覚に賭けるか」
「もっと濡れてスケスケになると、ジェイくんも襲ってきてくれるかなー?」
「襲わん!」
「えー? じゃあ、濡れ損だよー」
「濡れてる段階で損してるの!」
「うん、風邪引く。損」
「そっかー」
まあ確かに他に方法もないし、行くか。
「よし、行くぞ! 1・2・3・ダーッシュ!」
かけ声と共に俺たちは土砂降りの中、木の陰を駆け出した。
「これは、宿……なのか?」
「凄いラッキーだねー!」
「気味悪いほどラッキー」
「嘘くさいほどラッキーだにゃ」
俺たちの前には古びた建物があった。
さっきまでの温泉街にあったのと似たような建物だ。宿なのだろうか。それにしても、こんな離れた所に一軒だけとは。
「隠れ家的な宿?」
「美味しい料理?」
「さっき散々食ってきただろ!」
女の子ってのは食うことに貪欲だなぁと呆れていると、ガラガラと音を立てて引き戸が開いた。
「こんな雨の日にようお越しやす」
「ん? 何かどっかで見たバアさんだな」
現れた老婆に既視感満載。
「さっきのお店ですよー」
「ああ、あの追い出された店屋か」
「あれは姉ですわ。なんぞ失礼しましたかな? 昔っから短気でねぇ」
「雨が止むまで宿を借りたいんだけど、大丈夫か?」
「この雨じゃ他のお客も来ませんしな。どうぞごゆるりとお過ごし下され」
「お姉さんとはえらい違いだな」
「じゃあ、休ませてもらおうか」
「それじゃ、こちらへどうぞ。服も乾きますから」
宿の女将の案内で奥に進むと、中央で炎が燃えていた。その上には天井から吊り下げられた鍋がグツグツと音を立てている。
「美味しそうな匂いがするよー!」
「いや、だから食ったばかりだろ」
「お食事もご用意しましょうか?」
「はい! はい!」
「おい、ファミ!」
「元気のよいお嬢ちゃんやねぇ。そしたら、少しだけ持ってきますかね」
「じゃあ、よろしく」
「ありがとー!」
「雨が止むまでごゆるりと。止めばよいですなぁ」
去り際、バアさんが笑った気がした。




