2:勇者の湯 その1
「これが……勇者の湯か……」
俺は目の前に広がる光景に愕然としていた。
「町中に輪を掛けてまぶしいな」
「目がチカチカする」
「凄い凄ーい! 水が流れてるよ!」
「流れる温泉か」
「人が流れてるよ?」
「よくある光景だね」
「溺れてるようにしか見えんが」
「勇者の修行を再現したらしいから、溺れるくらいは当たり前だって父ちゃんが言ってた」
「お前の父親が発案者か」
「勇者の爺ちゃんがやってた頃はもっと渋かったんだけど、父ちゃんが後を継いでから段々派手になっちゃって」
「風情もなにもあったもんじゃないな!」
「でも、源泉掛け流しです!」
「うおっ、滝から湯が落ちてる!」
「滝壺に行くと修行出来るよ」
「修行なら冷たい方がいいだろ」
「あの高低差ならお湯だろうがなんだろうが鍛えられるぞ」
「その前に首の骨折るわ!」
「いや、結構滝行は人気なんだ」
「なんでだ? ん? 口開けて湯を飲んでるおっさんもいるな」
「わーい、修行ーっ!」
「魔王に修行など必要ないわっ!」
「修行……」
「勇者にもないと思うぞ」
「いや、勇者は一生修行だ。魔王を倒すまではな」
「じゃ、修行する」
「セイルはいいだろ。したいのか?」
こくんとうなずくセイル。そういや、こいつは昔から黙々と何かするのが好きだった。勇者の記憶のせいだったんだろうか。
「じゃー、魔王を倒すまで頑張ろうねー!」
「頑張ろうねーじゃないだろ! 倒されるのはお前だぞ、ファミ!」
「えー? セイルちゃん、ファミ倒すの?」
「魔王倒すまで修行する」
「魔王じゃなくてニャオウで我慢しようよー」
「吾輩を倒すにゃ!?」
ピョンと黒猫が跳び上がって驚く。セイルはちらっとニャオウを見て残念そうに首を振る。
「ニャオウ物足りない」
「スルッと吾輩を見下したにゃ!」
「ニャオウ弱いもんねー!」
「魔王様に言われては仕方ないにゃ……」
ニャオウが猫背を丸めてうなだれる。
「あー、とりあえず、お前らは風呂入ってこい」
「そだねー」
「うん、お風呂楽しみ」
「最終決戦なんかするなよ。迷惑だからな」
「わかったー!」
「では、行ってくる、ジェイト」
女3人が少し離れているらしい女湯に向かうと、俺は伸びをして男湯へ歩き出した。
「やっとひとりになれる」
「ダンニャは女嫌いなのかにゃ?」
「なんでお前がいる?」
「オスだからだにゃ」
「猫ならあいつらと一緒で文句言われんだろ」
「そもそも風呂は嫌いなのだにゃ」
「猫だけに」
「そう……じゃにゃい! 猫じゃにゃいのだ、吾輩は!」
「じゃあ、俺はひとりで入ってくるか」
男湯と書かれた暖簾をくぐって中に入ると、外から見えた温泉とは思えない賑やかさとは別の落ち着いた雰囲気。恐らくここは祖父が作った部分なんだろう。
「ふっ、と言うわけだから、ここからは男湯の情景描写が続くぞ」
誰に向かって言っているのかわからないが、そんな気分だ。見てもおもしろい光景じゃないしな。




