1:温泉街へ その2
と言うわけで、山賊に会うこともなく、
「山じゃないし」
モンスターとの派手な立ち回りもなく、
「整備された街道だし」
とても退屈なまま、イッカの村に到着した。
「おい、どこが寂れた山村なのだ?」
俺は不機嫌に眉間に縦じわを刻んでイッカに訊く。
「だから違うって言ったよね?」
「ジェイくん、人の話し聞かないから」
「ファミに言われたくないぞ」
「それはともかく、無茶苦茶きらめいてるな」
「まぶしいよー、ジェイくん!」
「観光地だからね。恋人同士で来る人が多いし」
「恋人だと!?」
「ローネちゃん、目がキラキラしてるよ?」
「そ、それは町の光が反射しているのだ!」
「ローネ、鼻息が荒い」
「そ、それは走ってきたからだ!」
「走ってなかったろ」
「さあ、ジェイト、ふたりで観光するぞ」
突っ込んだ俺の腕を掴むと、ローネが張り切って大股に歩き出す。背の低い俺は引きずられていくしかない。
「あーっ! ジェイくんが掠われたーっ!」
「ジェイト誘拐」
「ファミもジェイくん掠うー!」
「ついてこなくともよい」
ローネはシッシッとふたりを追い払うが、あいつらをまくのはどだい無理な話だ。
「温泉の前に町中を見て回るか」
「さんせー!」
「よし、イッカ、案内しろ」
「えー、あたし?」
「他に誰がいるんだ?」
「……しょうがないっか。じゃあついといで!」
イッカが先に立ってゾロゾロと歩き出した。
ローネは不思議そうに辺りを見回している。
「どうかしたか?」
敵でもいるのかと思ってローネに確認する。
「なぜこんなキラキラしているのだ?」
「ローネは来たことなかったのか? 王都から近いのに」
「いや、私は戦闘しかしてこなかったからな。魔物もモンスターもいないところに用はない」
「あー、そうか」
こいつって脳筋だった上に、継母から狙われてたんだもんな。遊ぶなんて機会もなかったんだろう。
「よーし、しばらくここで遊ぶぞ。つっても、金はローネからもらったものだけどな」
「ジェイくんの甲斐性なしー!」
「ジェイトの女衒」
「俺は女を売った覚えはないぞ」
「違った。ヒモ」
「一応、仕事をした報酬だと思うんだけど」
「都合のいい解釈」
「じゃあ、セイルは小遣い不要なんだな」
「ジェイトはケチじゃない」
「欲しいなら欲しいと言え」
そんなわけで、それぞれに小遣いを渡して遊ぶことにした。
「夜になったら勇者の湯に集合!」
そうして、俺は真っ昼間の温泉町に繰り出した。久しぶりにひとりきりになってのんびり出来そうだ。
「ジェイくん、いい匂いがしてるねー! 何が食べたい?」
「ジェイト、冷たい飲み物をふたりで一緒に飲むのが流行」
「あの弓を構えている店は何をしているのだ、ジェイト?」
なぜだか3人に腕を組まれて歩きにくかった。腕がもつれて誰の腕が俺のどこを触っているのかわからないほどだ。
「なんでお前らが一緒なんだ!?」
「えー、ジェイくんとデートするんだよ?」
「ジェイトとデートする」
「デートというものをして見たくてな」
「はあ……なにこの嫌味なほどモテモテの男……」
イッカが深いため息をついて俺をジト目で振り向く。
「もてているだと? どう見ても絡まれているだけだろう。助けろ、イッカ」
「まだ死にたくないからパス!」
イッカは俺の周囲をちらちらと見ると青い顔をして無情にも見捨てて次に行く。
「じゃあ、名物から紹介しますねー」
「勇者クッキー、勇者サンド、勇者の月が美味しいと好評です! お土産には勇者の木刀、勇者の鈴、勇者の三角旗!」
「勇者三昧だねー!」
「嬉しくもないな。というか腹立たしいぞ」
「勇者がそんなに軽い売り物になるとはね」
初代勇者の子孫と1000年前の勇者が100年前の勇者の孫に一言難癖をつけたそうな顔をしている。
「試食をどうぞー!」
イッカがすかさず全員の口に勇者の月を突っ込む。もがっ!
「……結構美味しくねぇか?」
「まあまあ」
「名物にマシな物があったか」
「美味しーっ! もっと欲しー!」
舌でぺろんと口の周りについたカスタードをなめるファミを見て、イッカはしてやったりともみ手を始める。
「ありがとうございますー! お買い上げはあちらのお店でどうぞー!」
「ファミ、買ってくる!」
「私も買おう」
「チョロすぎだろ、お前ら!」
ファミとローネが勇者の月の箱を抱えて戻って来ると、イッカは歩き出した。
「つーか、誰の土産にするんだ、ローネは?」
「無論、私だが?」
「そ、そうか……。だったら問題ないが……」
「心配するな、ジェイトにも分けてやる。ふたりきりの時にゆっくりな」
「はーい、ファミも食べさせてあげるね! はい!」
「今はいらねーから! つーか、また食ってるし、カスタードを口につけるなって」
「だってプニュンってはみ出てくるんだもん」
「まいどどうもー。熱いねぇ、旦那!」
「この商売人め。勇者じゃなくて商人の血が流れてるんじゃないのか」
「じゃあ次は遊び場にご案内しまーす」
イッカの案内でやって来たのは遊技場。
「王都の近くにこんな賭博場が出来ていたとは……」
ローネも驚くほどの規模でルーレットやらカードの台が並び、結構な客が遊んでいた。
「あ、金は賭けない健全な遊び場ですからね。子供も多いから」
遊技場をぐるっと回った。
「では、これより勇者の湯にご案内いたしまーす」
「……ようやくか」
かなり疲れた気分で俺は山の方に向かって行くイッカの後についていった。




