1:目的地不明 その1
「さて、どこに行こうか?」
王都を出て、来た方向と逆に歩き出したはいいが、そろそろ目的地を決めないといけない。
「えーっとねー、ファミは美味しいものが食べたーい!」
「却下。というか、それが食えるところから出てきたんだ。当分我慢しろ」
「え~」
「泣いてもダメ」
涙目のファミにダメ出しをして、他の意見を待つ。
「出来るだけ早く次の街に行かねばな。この近くだと2日でシュノバがある」
「街道を行けばだろ? ローネの顔を見られたらマズいから、こうして道なき道を歩いてるわけで」
「その分、危険てんこ盛り」
「楽しそうに言っても嬉しくないぞ、セイル」
「ただの事実。ほら」
セイルが指さした方向になんかいた。
「あれは砂漠ウルフの群れだ。10匹以上いるな。隊商が襲われたらマズい」
「ふははははーっ! かかってこーい、獣ども!」
セイルいや勇者はひとりで駆け出した。
これは、あれだな。ローネの件じゃ活躍の場がなかったから、溜まってるんだな。
「ジェイト、助力しなくて大丈夫なのか?」
「まあ、あれくらいは問題ないと思う」
「そうだな」
「しかし、いくら勇者でもあの数はさすがに――」
ローネの心配はわからなくもないが、勇者のデタラメさを知っているので、説明するより見た方が早いだろうと放置した。案の定、ローネは『え?』という形に唇を開いたまま、硬直してしまった。
セイルが長剣を担いで戻ってくる。体には返り血の一滴すらついていない。
「簡単に終わったぞ」
「な?」
「う、うむ」
ローネは硬い表情でうなずくと、口の中でもごもごとつぶやく。
「接近戦は勇者、魔法は魔王とニャオウ、物資運搬はソーコちゃん……。こうなると、私の役割が……。もう夜のお世話しかないではないか……」
「ん? どうした?」
「い、いや、大丈夫だ! 経験はないが努力する!」
「ああ、料理か?」
「りょ、料理!? 恥ずかしながら、そちらの経験もない!」
「そちらも? どちら?」
「い、いや、なんでもない!」
真っ赤な顔で首を振るローネ。なんかイメージと違って可愛いな。
「ジェイくんが浮気してるー」
「ジェイトは浮気性」
「浮気どころか恋愛に縁がないわ!」
ふたりに言うと、顔を見合わせた後、これ見よがしに肩をすくめてハーッと長いため息をつく。ローネはこれまたため息をこぼして俺を見る。
なんなんだ、こいつらは?
で、また脱線して目下の課題が先送りになってしまっていた。
「ふむ、この辺りなら以前の住処が近いな」
「アジト?」
「アジトではない! 我が国の歴とした城だ!」
「それはどっちの方向だ?」
「ここからなら東に10日くらいか」
「いや、全然近くないだろ!」
「転移術なら一瞬だがな」
なんてことなさそうに言う魔王。ローネが何かに気づいたように声を上げる。
「ちょっと待て。東に10日だとヴァレンドルン帝国との国境の辺りだな」
「てーこく? とてもつおい?」
「遅刻しちゃダメだよー!」
「そっちじゃない! そのバレンドドン帝国ってなんだ?」
「ヴァレンドルン帝国だ。レンディア王国の東隣にある大国」
「知らぬな」
「知らねぇ」
「いやー、ローネが常識人で助かったよ。こいつら常識がないヤツらばっかりで」
「自分を棚に上げない」
「結構簡単に棚に上げられるんだよな。こう、ひょいっと」
「相変わらず話が進まんな」
「うむ、すまないな。非常識なヤツばかりで」
「だから棚に上げるなと。ヴァレンドルン帝国は50年前に現皇帝が建国した軍事大国だ」
「なるほど。魔族の国が滅んだ後に出来た帝国か。よし、滅ぼしに行くか」
「やめんかい!」
俺は魔王に拳骨をお見舞いした。
「ジェイくん、痛い……」
「魔王を叩いたんだ」
「ふみー。ファミは魔王だよー」
「ボクは勇者」
「いや、知ってるから。そろそろ頻繁に脱線するクセをなんとかしないとな」




