1:王都到着 その2
「ジェイくん、あっちあっち! いい匂いがするのー!」
「ファミの鼻は凄いな」
「ジェイト、本屋の匂い、あっち」
「匂うのか、本屋!?」
大通りから脇に入った路地をふたりに引っ張られて歩くと、繁華街にたどり着いた。
「おおっ、さすが王都だな。町とは違うな」
大通りは驚くほど何もなかったが、考えてみればあの通りは軍がパレードをしたり、戦の時には騎兵が駆けたりするわけだから、平時から何もないのかもしれない。
その代わり、道を一筋二筋入ったところには商店が軒を連ねている。その数は村からいつも行っていた町のざっと10倍ってところだ。
「ふわあああああーっ! ジェイくん、ここ楽園?」
「本屋はもっと奥」
さっそく食べ物屋を目にして感動しているファミをしり目に、スタスタと先に行こうとするセイル。
「いやいや、セイル、先に何か食べてからにしよう。朝から何も食ってないだろ」
「ん……本を探すのに体力は大事」
納得したところで、ファミにどこか手頃な店を探せとけしかける。ファミの食い意地と嗅覚はこういう時にしか役に立たない。
「あっち!」
鼻をクンクンさせたファミはさっそく何か探し当てて小走りに向かって行く。
「ジェイくん、こっちこっち!」
食堂の前で跳び上がって手を振っている。おっぱいがぷるんぷるんしているぞ。それを見ているセイルの顔がいつも以上に無表情になっているのが怖い。
「ジェイトはやっぱりあんな乳袋が好き?」
「ちちぶっ!? どこでそんな言葉覚えたんだ」
「本屋」
「そんないかがわしい本屋に行くんじゃない。いや、おっぱいの大小に貴賤はないぞ」
「貴賤はなくても好き嫌いはある?」
「うーん、どっちも捨てがたい」
「そう」
セイルは満足したようにいつもの無表情に戻った。
よくわからん。俺がなんでも万遍なく愛でるというだけの答えなのに。
ファミの見つけた店は典型的な大衆食堂なんだが、味はともかく、量が凄かった。山のように盛られた鶏肉の焼き物やら豚肉の衣揚げやらトカゲ肉の燻製やら……肉しかねえ!
「ちょっとは野菜を食え! 太るぞ!」
「らってぇ、じぇんじぇんたふぇられなかったんらもん!」
「食い終わってからしゃべりなさい!」
「ふぁあい」
「ジェイト、頬にソースついてる」
「え? どこだ?」
セイルが俺の頬に指を伸ばして、鶏肉についていた甘辛いソースを拭い取ってくれた。それを口に入れる。
「ジェイトの味、美味しい」
「ああああああーっ! ファミもやるー!」
「やるって、もうついてないだろ?」
「じゃあ、ファミがつけて、それなめる!」
「わざわざつけてなめるな!」
「なめるなめる! ペロペロする!」
「ペロペロはマズいだろ。犬じゃないんだし」
「あーん、ジェイくんの体ペロペロしたいのー!
「しょうがないな。指でもなめとけ
人差し指を出すと、ファミはパクッと食いついた。
「ふぁああああ。ジェイくん、美味ひいのぉ」
満足そうに黙ったのでまあいいかと、空いた手で食事を続ける。
「なんか、視線が痛いな」
「そう? ファミ、大丈夫」
「何も感じない」
「なんか、こう、全身に針が刺さってるみたいに痛い」
「殺気を感じ取るか。剣の修行でもしたことがあるのか?」
「いや、全然。せいぜい村で狩猟くらいだ」
「なるほど野生の勘ということか」
勇者の指摘にも原因がわからないので、首を傾げながら食堂を出る。料金は安くてふたりも満足。言うことはない、が……。
「ねーねー、早く行こーよー」
「ジェイト、本屋が閉まる」
ふたりが俺の腕を引っ張り、さらにくっつくと、殺気がさらに強くなった。なんなんだ、いったい? 周りの男はもの凄い目でにらんでくるし。
王都って怖いな!




