1:王都到着 その1
渓谷でのニャオウ対討伐軍の戦いから6日目――。
「これが王都か!」
馬車は何の問題もなく王都の門をくぐって、開けた通りを進んでいく。
なんといっても先導するのが王女の馬車なので、チェックもなし。大泥棒でも問題なし。魔王も勇者も大手を振って素通りである。勇者はともかく、魔王とその部下は問題あると思うが。
とはいえ、馬車は豪華な馬車ではなく、唯一使える荷馬車。王女を含めて俺たちは歩きだ。兵士もなにもない。パッと見には敗残兵である。もうボロ負けで這々の体で逃げてきたみたいな。実際にはニャオウ軍に勝ったのだが、その生き残りが王女だけってのは妙な話だ。
「殿下! ご無事のご帰還、何よりでございます」
駆け寄ってきた騎士がローネの前にひざまずき、
「うむ、戻った。こちらは変わりはないか?」
「今のところは」
「私が戻ったことを知れば動きがあるかもしれんな」
「配下に探らせております」
「わかった。私は城に戻って陛下に報告をする。この者たちに宿の用意を。失礼のないようにな」
「かしこまりました」
騎士は嫌な顔ひとつせずに俺たちに会釈すると、付き従っていた部下に指示をして数人が去っていった。俺たちが何者かも訊かないのは、ローネを信頼しているからだろう。
「それで、俺たちはどこに行けばいいんだ?」
「宿を用意させた。そちらで待機していてくれ」
「それまでは自由行動でいいんだよな?」
「問題ない。そうだ。少しだが、礼だ。持っていけ」
そう言って、ローネに手渡されたのはズシリと重い財布。
「少し?」
「5日暮らすにはそれくらいかからないか?」
「いや、1ヶ月くらい暮らせそうなんだが」
「まあ、誤差の範囲内だろう。それにそのくらいの価値があることをしたのだ」
「んじゃ、大事に使うわ」
礼をするついでに小声で耳打ちする。
「気をつけろよ。こっちでも目を光らせとく」
「すまないな」
ローネはそうささやき返すと、騎士と共に立ち去った。真っ直ぐ大通りを突っ切った先に見える王宮へ向かって。
「あれが次の戦場か」
華やかな城が呪われた魔王の城のように見える。
「ジェイくん、カッコイイ!」
「ジェイト、格好いいつもり?」
「い、言ってみただけだ! それより、どうする?」
「ファミねぇ、美味しいが欲しいのー」
「本屋を見たい」
「まあ、そうだろうな」
こいつらの欲しいものくらいとうに分かっている。
「んじゃ、行くか」
「うん!」
「ん」
「あにょー?」
機嫌を伺うように声をかけてきたのはニャオウだった。
「それで、ダンニャ様、吾輩はどうすれば?」
「あ、忘れてた。ローネの周辺を探っといて」
「襲撃者があった場合は殺すかにゃ?」
「ローネが危なくならない限りは手を出さなくていいや」
「わかったですにゃ」
ニャオウは俺の影に隠れると、そのまま影に飲み込まれるように消えてしまった。
「便利だな」
「いつでもジェイくんの側に行けるね」
「ファミはいつもくっついてるからいらない。贅沢」
セイルが俺の左腕を掴んで腕を組む。負けじとファミが右腕を組む。いつもの光景だ。
「じゃあ行くか」
こうして、俺たちは生まれて初めての王都に繰り出した。




