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4:深夜の逆襲 その2

 周囲を取り囲んでいたゾンビが声に反応して襲いかかってきた。


「気の利かぬ連中だ!」


 野獣が唸るように声を上げると、ローネは俺の腕からもがくようにして降り立ち、長剣を抜き放った。

 襲ってきたゾンビの首をローネの長剣がスパッと刎ねる。いやあ、綺麗な太刀筋だ。ゾンビはそのままの勢いで走り、地面に突っ伏した。

 それを皮切りにゾンビが次々に襲いかかってくる。俺も参戦する。隙間もない甲冑なので、噛まれる心配はないとは言え、一斉に来られると対処が面倒だし、突進してぶつかって来られると押し倒されたら面倒だ。


「これは……多いな」

「まさか、村人をゾンビにしたのか?」

「なんだとっ!?」


 気になったのは、まだ襲ってこないゾンビ集団の先頭だ。宿の主人に似ている。服も新しいし、墓場から出てきたようには見えない。そう思って見れば、その集団はどれも身ぎれいなのだ。肌つやもいい。


「まさか、ここまでやるとは……」


 ローネがギリッと歯を噛みしめる音が聞こえた。そして、祈りを捧げる仕草をすると、長剣を構え直す。


「許さん!」


 一声上げて、ローネはゾンビたちに斬り込んでいく。

 一振り一体、二振り三体、三振り五体と計算が合わないくらいの凄まじい剣技に、俺はぼんやりと見惚れてしまった。が、そのペースでゾンビを倒しても、一向に減った感じがしない。


「あがけ! もがけ! 恐怖の叫びを上げるがよい!」

「どこにいる!? 出てこい、卑怯者めっ!」


 どこからともなく聞こえる死霊術士らしき声に、ローネが叫ぶ。


「フハハハハッ! 貴様たちは仲間と同じようにオレ様に使役される屍となるのだ!」

「仲間? まさか!?」


 ローネが声を上げると、見慣れた甲冑姿が隊列を組んで向かって来た。しかし、その動きは兵士のものではなくなっていた。どう見ても、中身はゾンビだ。

 そして、その奥に松明の炎に照らされてもまだ青い顔をした男がいた。ゾンビかと思ったが、目は死者のものじゃない。


「貴様ーっ! 私の部下たちをっ!」


 斬りかかろうとするローネを元部下が阻む。さすがにローネも斬りつけるのにためらいがある。


「フッヒャッハッハッ! 行け、オレ様の騎士たちよ! 王女を思う存分むさぼり食うがよいわ! クハハハハハ――」

「ねーねー、ジェイくん、顔の悪い人が叫んでるよ? 悪役? 悪役?」


 死霊術士のバカ笑いで起きたのか、寝ぼけた声でファミが場をわきまえないことを言い出した。ここはきっちり注意しておかねばいけない。


「こら、ファミ、顔で判断したらダメだろ。そういうのは先入観っていうんだぞ」

「そう。顔で判断するとジェイトは悪役」

「おい、セイル、なんでだよ。どこからどう見ても善良な村人Aだろ」

「人が寝てる時に大声で騒ぐのは悪いと思うのー」

「ファミがまともなこと言った」

「セイルちゃん、失礼だよー。ぷんぷん」

「おまえたちはこの状況を理解しているのか!?」


 死霊術士は背後に控える大量のゾンビを示す。


「だいたい、これだけのゾンビに囲まれたら恐怖するだろうが! 泣きわめくだろうが! 俺様に許しを乞うだろうが! 特に女ども!」

「えー? カワイイよー?」

「臭い……」


 ファミとセイルが正反対の反応を見せる。


「ふっ、ふざけるな! 死霊術士を前にしてなぜ震えて許しを乞わん!?」

「おまえこそ、誰を相手にしているのかわかっておるのか?」


 ファミが魔王声に切り替えた途端、周囲の空気が変わった。死霊術士もそれを感じ取って我知らずのうちに半歩退く。


「な、なんだ、この気配は……?」

「死体ごときで我がどうこう出来ると考えるなど甘すぎる」

「な、なんだ、貴様!?」

「よいか? 死体を操るとはこういうことを言うのだ!」


 ファミが魔王声で――でもちょっと甲高いまま――高らかに叫んだ。


「出でよ、ゾンビヒュドラよ!」


 騎士ゾンビの足元がボコッと盛り上がり、ゾンビたちがバランスを崩して倒れる。その直後、土が噴水のように噴き上がり、周囲のゾンビが弾き飛ばされる。

 地の底から現れた闇黒の塊に死霊術士は目を剥いた。


「なっ……なんだとぉ!?」


 体高は人間の三倍、首が三本、手足はないが長い尻尾が伸びている。骨には腐りかけた肉が半分くらいくっついて、かなり強烈な腐臭を放つ。

 中型のドラゴンであるヒュドラのゾンビである。


「うわぁ、えげつないもの出したなぁ」

「我の配下では可愛いものだ」

「これより可愛くない配下を考えたくないな」


 ゾンビヒュドラは尻尾の一振りでゾンビ軍団をバラバラにし、逃げる死霊術士を骨だけになった口で捕らえた。殺さない程度の力の加減まで出来るとはなかなかよく出来たゾンビである。

 死霊術士は俺たちの前に連れてこられると、ペッと放り出される。

 ローネが死霊術士に詰問する。


「おまえを送り込んだのは何者だ? 我が妹か?」

「……死んでもしゃべらん!」


 死霊術士はそう言うと、素早く手に持ったものを口に放り込む。すぐに泡を噴き出し、痙攣しながら倒れる。


「あ!? こいつ、毒飲んで死にやがった」


「仕方なかろう。死んですぐならしゃべれるじゃろう」


 ファミが魔王の声で言うと、死霊術士に向かって呪文を唱える。


「目覚めよ。死者の魂よ」


 重々しいファミの声に応えて、事切れた死霊術士が再び動き出す。切れた糸が結び直されて立ち上がった人形のようだ。


「我が名はアル・ハ――」

「貴様の名など聞いておらぬわ。魔王の名において問う。この王女殺害を依頼したのは誰だ?」

「……王妃サロディアンナ様でございます、我が主よ」

「やはり……」


 ローネが深いため息と共にうなずいた。


「他に聞きたいことがあれば問うがよい」

「では、第2王女は知っているのか?」

「もちろんご存じです」

「そうか……。もういい」

「では、闇に戻るがよい」


 ファミが鷹揚にうなずくと、死霊召喚士のゾンビは再び糸が切れた人形のように倒れた。


「異母と妹から狙われるか。業の深いことよな」

「ローネちゃん、可愛そう」


 魔王とファミから交互に慰められ、ローネは首を振った。


「わかっていたことだ」

「ローネ、ちゃんと殺してやる」


 俺は力づけようと拳を突き出した。


「期待してるよ」


 ローネは悲しげに笑った。


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