2:王女の依頼 その1
「私を……第一王女ロンゾン・ル・ロンド=レンディアンを殺して欲しい」
ローネがもう一度繰り返した。
「そうか! では、我が直々に殺してやろう! この世界に存在すら残らぬように完璧に――」
「やめんか!」
俺はファミの脳天に手刀を振り下ろした。
「ジェイくん、最近容赦ないよーっ!」
「これくらいやっても死なないとわかったからな」
「死ななくってもバカになるもん!」
「ジェイト、これ以上ファミがバカになると困る」
「魔王にバカを言うなと言っとけ」
ファミにそう言うと、ローネに話を戻す。
「そんな話を俺にするってことは、もうバレてるんだよな?」
「だって、大きな声でジェイくんバラしたよー」
「その前から分かってただろ、ローネには」
「えー、そうなのー?」
「ジェイトだけでなく、戦場でのふたりの動きも尋常じゃなかったからな。ただ者ではあるまいと思っていた。魔王とは驚いたが、そこに指揮官がいるのだから、想定内だ」
馬車の屋根にいるニャオウを示して、ローネは笑う。その笑顔のまま、俺に尋ねる。
「ところで、魔王軍の指揮官とはファミルなのか?」
「いや、違うぞ。こいつが魔王になったのはちょっと前だ。ニャオウはその前から魔王を自称してたから、魔王が倒してやるって言って、で、昨日の顛末」
「そうか。あの軍勢は無関係なのだな。信じよう。では、私の仕事は終わりだ。確認だけしたかった」
ローネはふっと息を吐き出すと、真顔で俺をしげしげと見つめた。
「しかし、魔王を手下に持つなど、おまえは何者なのだ?」
「いや、俺はただの村人Aだから」
「嘘をつけ! ジェイトが村人Aなら私は村人Zだ」
「いや、あんたは王女Aだろ」
「ファミ、魔王A!」
「ボクは剣士A」
「我こそが魔王A」
「オレが勇者Aだ」
「みんな一番なんだよねー」
「みんな違ってみんないいみたいなこと言ってんじゃねぇ!」
「ますますわからんぞ」
「つまり、ファミの前世が魔王で、セイルの前世が勇者で、1000年前に戦って相打ちになったと言い張ってるんだ」
「必滅者にはわからぬだろうが、これが真実である。ちなみに相打ちではない」
「言い張っているのではない。事実なのだ。もちろん相打ちではない」
「だそうだ」
「……そうか。で、結局どちらが勝ったのだ?」
「我だ」
「オレだ」
「第3者が見てねぇんじゃどうしようもないだろが」
「ううむ、誰かいたような記憶もあるが……」
「いたような気がするが、思い出せん」
「いたって、生きてないんだからしょうがないだろ。本題だ本題!」
俺はローネに改めて尋ねる。
「で、自分を殺せってのは、あれか? 死んだことにして欲しいってことか?」
「そうだが、察しがいいな」
「いや、誰だってわかるだろ」
「ジェイくん、どういうこと?」
「ジェイト説明」
「ふたりともわかっておらんようだが?」
「え? マジ?」
思わずふたりを見る。ふたりともコクコクとうなずいた。
「そんなもんなのか? 考えなくてもわかるレベルなんだがなぁ」
真剣に不思議に思うが、悩んでもこいつらにはわからない。仕方ない。
「説明しよう。ローネは俺たちに殺されたことにして、面倒から逃げようと企んでいるのだ」
「……まあ、そういうことになる。もう少し言い方もあると思うが」
「丁寧に言うと、ファミにわからんから」
「丁寧な説明の方がわかりやすいのでは?」
「丁寧に言うと長くなるだろ。長いと集中して聞けないんだよ」
「そんなことないよー。ファミ、たまにしか寝ないもん!」
「寝るのか」
「ファミはこの通りだし、セイルは短くてもわかるしな。結局、簡潔なまとめで問題ないの」
「なるほど」
「オレにはぜんぜんわからんのだが」
「脳筋勇者は黙って寝てろ」
セイルの脳天にチョップをぶち込もうとしたが、その前に入れ替わったのがわかった。目つきが違うんだよな、セイルと勇者だと。もちろん、セイルの方が鋭い。まったく、よくこんなレベルで勇者になれたもんだ。
本題だと、俺はローネを見た。本気で言ってるのかどうか探りたい。




