1:おっぱい怖い その2
さすがに王族の乗る馬車というのは揺れも少ないし、快適だ。とは言っても、俺が今まで乗った馬車と言えば、木材を運ぶ荷馬車しかないわけだが。
というわけで、魔王軍討伐が終わり、陣は撤収。俺たちは王女の馬車にお邪魔している。ファミとセイルで4人だが、それでも余裕。
置いてきたソーコちゃんは魔王が倉庫に戻るように言われたので、いつでもどこでもあの倉庫を開ければ出て来られるらしい。
ニャオウは馬車の上から警戒するようにと魔王から命令が下され、恐縮しまくって任務に就いている。。
「で、都に着いたらどうなるんだ? まさか、学校に通うとか言うお決まりのコースじゃないだろうな?」
「学校? 王立学園ならあるが、通いたいのか?」
「まさか!」
「ジェイくん、学校ってなにするところなの?」
「勉強を教え込まれるところ」
「勉強はイヤだなー。ファミ、頭より体使いたい」
「体術も教えるが」
「ファミ、お布団の中で体使うの好きー」
「昼間っからする話じゃねー」
「そう。夜になってからじっくりする話」
「そっかー」
「おまえたちは、その、そういう間柄なのか?」
「いや、ただの幼馴染みだ。特にそういう関係でもない。やってることと言えば、王女とたいして変わんねーな」
「私と? ……そっ、それを言うな!」
なぜか真っ赤になった王女。
「ん? どうした?」
「今さらあの時のことを思い出して恥ずかしくなったのだ!」
「ああ、裸が好きな件か!」
「それだけではないだろう! わ、私の胸を、こう、わしづかみに……」
「ああ、そうだった。いい感触だったなぁ」
「い、言うな!」
「でも、あの時は平然としてたろ?」
「あれはだな、言わば戦場にいたのと同じだったからな。おまえは敵か味方かわからんから気を抜いたり、弱みを見せるのも危険だろう。だから、気を張っていたのだ」
「あー、なるほど。戦闘モードだったのか」
なんか、可愛くなったな。
理由がわかると、王女の外見も可愛く見えるようになった。ファミが俺をジーッと見ているのに気づく。
「ジェイくん、イヤらしい目してる」
「ジェイト、顔がイヤらしい」
「俺は犯罪者じゃねー!」
「まったく……。おまえたちを見ていると飽きないな」
王女が初めて笑った。苦笑混じりだが、それでもこれまでとは違う笑顔だ。
「私にもおまえたちのような幼馴染みがいれば少しは変わっていたかもしれん」
「今から幼馴染みじゃ遅い?」
「今から?」
「うん、ジェイくん、さわり放題の特典つきだよー」
「俺は景品か!」
「うん、それはよい景品かもしれないな」
王女はそう言うと、俺の肩にもたれかかってきた。
「あー、ファミもくっつく!」
「ボクもペトッ」
ファミが王女の反対側の腕に胸を押しつけ、セイルがちょこんと膝の上に座る。
なんか、女の子にべったりとつっつかれてフワフワして気持ちがいい。
が、話はそんなにお花畑なわけはない。
「で、具体的に何をして欲しいんだ、王女さんは?」
「王女さんじゃなくて、ロンゾンでいいぞ」
「なんか、可愛くないんだよな。男の名前だし」
「じゃあねー、ローネちゃん!」
「ローネ……ああ、それはいいな! なんだか生まれ変わったみたいだ」
王女は満面の笑みを浮かべてファミに抱きついて、頬にキスをした。
「ふえええ~っ! ファミ、女の人にキスされたよぉ~! どうしよう、ジェイくんと結婚出来なくなっちゃったー!」
「どういう論理だ、それ?」
「違うの?」
「いや、問題ないだろ」
「じゃあ、ジェイくん、ファミと結婚できる?」
「別に問題な――」
「ジェイト、それ、ファミの罠だから」
セイルの冷静な突っ込みに危ういところで口を閉じる。ファミのヤツ、魔王みたいに狡猾になってきたな。
「もー、セイルちゃんの意地悪ー! もうちょっとだったのにー」
「さすがにジェイトもそこまでお人好しじゃないから無理」
ファミとセイルのやりとりに、ローネが苦笑する。
「相変わらず話が進まないな」
「いや、今のはローネが進まなくしたんだろ」
「私のせいか?」
「どう考えてもそうだと思うが」
「そうか……。少し、舞い上がっていたようだ。自重しよう」
そう言うと、ローネは俺から離れ、向かい側に座った。改めて俺を真っ直ぐに見ると、口を開く。
「ジェイトたちは旅の目的はあるのか?」
「いや、特に。村を追い出されて、討伐軍に入るところまでしか決めてなかった」
「それだけの力があるのだ。例えば、魔王を倒す、とか?」
ローネは俺の表情を見逃さないように探るように訊く。あ、こりゃバレてるな。しょうがないけど。それでも軽薄に否定しておく。
「ないない。俺は目立たないように田舎暮らしをしたいの」
「それは無理だと思うが」
「えー、なんで夢を壊すようなこと言うかなぁ」
「とにかく、今は特に予定はないのだな。では、1つ頼まれてくれないか?」
「なんだ? 簡単なのならいいぞ」
「私を殺して欲しいのだ」
ローネは静かにそう言った。




