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2:討伐軍へ その2

「頼もう!」


 討伐軍の野営地の前で声を張り上げると、見張りの兵士が面倒そうにやって来た。


「なんだ?」

「魔王軍討伐で徴兵に応じてきました」

「ガキじゃないか」

「一応成人の儀は終えました」

「もっと使えるヤツはいなかったのか?」

「それがですね、役人が来た翌日に魔族が襲ってきまして、大人は……」

「なにっ!? それはいつの話だ?」

「えーっと、2日前?」

「魔王軍の他にも部隊がいたか。だが、安心しろ。魔王は倒した」

「そうなんですか。じゃあ、ボクはもう用なしですね。じゃ!」


 爽やかに去ろうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。


「いや待て。登録作業はしておかないと、村の責任問題になるぞ。こっちだ」


 兵士は親切にも案内してくれるようだ。ぱっと帰りたかったが、親切を無視するのも気がひける。すぐに終わるだろうと、後についていく。


「えーっと、おまえ、名前は?」

「ジェイトです」


 素直に答えた時、ちょうど脇を通っていった甲冑姿が急に立ち止まった。


「待て、そこの者!」


 声に釣られて振り向くと、先導していた兵士が直立不動で敬礼した。

 上官だろうか。面覆いのある兜をかぶっているせいで顔が見えない。

 なんか見覚えがと思ったら、さっきの騎士さんだ。怪我はなさそうなのでよかったよかった。

 それにしても戦闘じゃ無茶な特攻して、おまけに援護があんまりなかったな。人望がないんだろうか。


「ジェイトと言ったか」

「あ、はい。ド田舎からはせ参じました」

「少し話がしたい。ついてこい」

「え? はい」


 なんのことだかわからないが、指揮官に反抗するわけにもいかない。適当に話を切り上げて逃げよう。

 案内してくれた兵士はなにも言わずに俺に敬礼してきた。いや、あれは犠牲者を見送る目だ。ちょっと待って。俺、何されるの?


     ◇


「入れ」


 騎士さんが指示したのはひときわ大きなテントだ。どうみても他より大きさも豪華さも頑丈さも違う。


「しばらくこの天幕には誰も近づけるな」


 兵士にそう告げると、騎士は俺を中に招き入れ、入り口の垂れ幕を降ろした。中はうっすらと明るいテント越しの光だけになる。外の音もほとんど聞こえない。早まったかな、これ?


「私は魔王討伐軍の指揮官ロンゾンという。儀礼などいらぬ。そのままでよい」


 礼儀作法なんて知らないし、やろうとも思わなかったけど、先に言われてしまった。


「単刀直入に聞こう。貴殿は先ほどの戦闘で私の前に飛び出してきた騎士ではないか?」

「は? なんです、それ? 俺、田舎の農夫ですよ。やだなぁ」


 ここは思いっきりすっとぼけるしかない。


「声でわかる。こう見えても記憶力はよいのでな」


 騎士は兜のお陰でこもった声で言うと、腕を組んだ。ガシャンと鋼鉄の甲冑が音を立てるのが圧迫感ありまくり。


「魔王軍を撃退出来たのは、貴殿のおかげだ。礼を言う」

「いや、だから、俺じゃ――」

「私はな、負けるわけにはいかんのだ。たとえ相手がドラゴンだろうが魔王だろうが帝国軍であろうが」

「いや、まあ、指揮官ならそれくらいの意気込みはあった方がいいけど、普通ドラゴンには負けるでしょ」

「いや、例えドラゴンでも勝たねばならんのだ。頑張っただけではいかん。結果を出さねば評価されんのだ」

「頑張れば、それなりに評価してもらえるんじゃないですか?」

「無理だ……」

「え?」

「無理なのだ。どれだけ頑張っても、男にはなれん!」


 騎士はそう言うと、甲冑を脱ぎだした。


「え? ちょっと、いきなりなにを――」


 慣れた手つきで甲冑を外していく。確か甲冑ってひとりで着脱するもんじゃなかったと思うが。

 最初、ヘルメットを外した時にまさかと思ったけど、胸当てを外したところではっきりと見えた。いや、わかった。

 薄い下穿き越しにもわかるはっきりとした胸の膨らみが。ファミとセイルの中間くらいの大きさで、甲冑を外した時に勢いよくプルンッと揺れた様子からかなりの弾力と見た。

 全身から湯気が立ち上っているのは、ちょっとエロい。

 ショートカットの明るい茶色の髪と、少し吊り上がり気味の目は少年っぽく見えるが、結構な美人でもある。俺よりふたつみっつ年上かな。

 ついジロジロと見てしまったが、向こうも俺を見ていた。


「見たな?」

「いた、見たっていうか、見せられたというか……見なかったことにしちゃダメかな?」

「見た以上、生きてここを出る方法はひとつ」

「そのひとつ教えてもらっても?」

「私を倒すことだ! あるいは私に倒されて骸となって運び出されるかだ!」

「無茶苦茶言ってる!」

「私は男に負けるわけにはいかんのだ。男に負けるくらいなら、その男を倒す!」

「いや、言ってる意味が理解不能だし! ちょっと、そういう思いに至った経緯を話せ!」

「む? 確かに殺されるにしても理由くらいは知りたいか。よし、そこに座れ。長くなる」

「殺し合いしようって相手の体を気づかってくれてありがとう」


 俺は素直にイスに腰を下ろした。


「私の名はロンゾン・ル・ロンド=レンディアン。レンディア王国の第一王女だ」


 女騎士どころか王女だった。


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