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1:噂は千里を走った その1

 凄い装備の戦士がいる。しかも、美人をふたりも従えているらしい。

 そんな噂が瞬く間に広まっていた。

 誰だ、その羨ましすぎるヤツは!


「ジェイくん、美人をつれてるんだって~?」

「ジェイト、美人ふたり。嬉しい?」


 ファミとセイルが俺の両側にピタッと寄り添ってニコニコしている。いや、セイルの表情はほとんど変わっていない。そして、ソーコちゃんが物も言わずに俺の後ろについてくる。ソーコちゃんは崖の上で待っていたので姿を見られていない。


「俺か……」

「ジェイくんカッコイイよ」

「ジェイト、モテモテ?」

「んなわけあるか! 全部、この武具のおかげじゃないか」


 身を守るためだけに魔王の倉庫からもらって契約した武具一式。凄く地味で俺好みだったのに、とんでもない性能だった。

 甲冑は崖から落ちても俺にダメージを与えないわ、剣は振り回しただけなのにゴブリンの首がバターみたいに斬っちまうわ、非常識極まりない。

 なんなんだ、これは!?


「いやあ、ワレに挑んできた初代勇者が身につけていた代物でな。魔族に対する恨み辛みが染みついとるのだ。ワレの倉庫に置きたくはないのだが、かといって野放しにするのも物騒だしな」

「おかしなもん、俺に押しつけるな!」

「しかし、契約してしまったものは仕方がないであろう?」

「くそっ、狙ってやがったな。まさか、セイルはそれ知ってたのか?」

「ボクはジェイトに無事でいて欲しいから、できるだけ頑丈そうなのを選んだ。偉い?」


 無表情で胸を張るセイル。まあ、ストンとした胸だから張ったのかどうかわかりにくいけど。


「まあ、セイルには感謝しとこう。魔王に蹴飛ばされて助かったのはセイルのおかげだ」

「蹴ったのファミじゃないよ?」

「わかってる。背中の靴跡はファミのだけどな」

「ファミじゃないのに~」

「で、そいつはなんだ?」


 指さしたのはファミの足元に畏まった格好で座っている黒ネコだ。後脚は畳んで座り、前足は真っ直ぐ伸ばして、人間で言うなら直立不動。


「ニャオウだよ~、ジェイくん」

「忘れた?」


 ファミとセイルに教えられるまでもなく、ちゃんと覚えている。こいつがあの魔王軍の指揮官だったことも。


「だから、なんでそいつが俺たちと一緒にいるんだ?」

「吾輩が魔王様と共にいるのは当然であるにゃ」


 ネコのクセに生意気に主張する。


「キサマが襲ってきた時は勇者が襲ってきたのかと肝を冷やしたにゃ」


 あの時のニャオウの反応は確かに見物だった。

 あの時というのは俺が戦場の真っ直中に颯爽と降り立って――いや、正確に言おう。崖から突き落とされて、オークを踏み倒して、魔王軍の前線に並んだゴブリンとかなんとかの首を飛ばした後のことだ。

 魔王軍の最後方に見張り台を担いだひときわデカイオークがいた。その上になにかがいる。どう考えてもこの部隊の指揮官だろう。

 どうなってるのかわからないが、考えても仕方がない。とにかくそいつを捕まえりゃ当座の戦闘は終わるはずだ。

 俺は思いっきり走って跳んだ。風を斬り、地面を蹴った。もう一気に指揮官目指して矢のように。


「ニャァァッ!?」


 ちっこい黒い塊が金色の目をひんむいて悲鳴を上げた。


「そこ動くなっ!」


 叫びながら剣を振り上げる。


「ヒニャァァァァァッ!?」

「ふんっ!」


 長剣一閃。

 が、両断するつもりだった剣はスカッと空を切っていた。ジャンプが少し届かなかったのだ。代わりに落下するついでにオークの脳天をかち割った。

 グラリとオークが倒れると、当然ながら据え付けられた見張り台も倒れる。その上に載った指揮官も悲鳴を上げながら倒れてくる。

 俺はとっさにそいつをどうするか決めかねた。指揮官だから殺してしまえば人間側の勝ちなんだが、逆に殺してしまえばこの魔王軍が復讐に燃えたりする可能性もある。捕まえればいいんだが、果たして見た目ほど弱いのかどうか。

 迷っていたのは一瞬だったが、その隙に俺の頭上を飛び越えていったヤツらがいた。


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