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3:渓谷での決戦 その1

「似合う似合う!」


 魔王の倉庫で手に入れた武具を身につけた俺を見て、ファミが手を叩いた。


「悪くない」

「オレほどじゃないがな」


 フンと鼻息も荒く勇者。セイルがそんな仕草をするところなんか想像も出来ないので、珍しいものを見た気分。

 自分の格好がどうなってるかは鏡がないのでわからないけど、まあ、大丈夫だろ。地味な装備だし。


「お? 凄い動きやすいな、これ」


 試しに動いてみたが、身につけてない時と比べて遜色がない。それどころか体が軽くなったような……。


「よし、これでやっと出発だな」

「えっと、どこ行くんだっけ~?」


 さっそくファミがボケをカマしてくれる。


「ファミが魔王退治に行くって言ったんだろ」

「そうだ! 魔王さん退治だった~!」

「おまえが忘れてどうすんだ」


 頭を自分でコツンと叩き、ファミはごめん~と舌を出す。


「では、行くぞ」

「行くって、どこかわかるのか?」

「ワレをなんだと思っておるのだ?」

「いや、魔王だけど?」

「魔王が魔力の感知くらいできんと思うのか?」

「魔力ってそんなに離れててもわかるのか?」

「ある程度強い魔力ならな」

「じゃあ、もうひとりの魔王って強いんだ?」

「ワレと比べれば芥レベルだがな」

「あくた?」

「ゴミのことだ!」


 そう言うと、魔王は俺の腕をつかんだ。


「しっかりつかまっておれ」

「ジェイくん、ファミのおっぱいつかんじゃダメだよ?」

「つかむか!」

「ボクのはつかむところないけど、どうする?」


 セイルがつかんで欲しそうに胸を突きだしてくる。


「だからつかまねーよ!」

「どうしてつかまないのかなー?」

「ホントに」

「わたしの、つかむ?」

「ソーコちゃんまで!?」

「ジェイくんって、罪な男だねー」

「なんかおかしいだろ!」

「もういいか?」


 ファミが呆れたような魔王の声に切り替わったかと思うと、俺は魔王に襟首をつかまれ、空を飛んでいた。

 セイルは反対側の腕、ソーコちゃんは足につかまっている。ふたりとも怖がっている様子は皆無なので、俺も精一杯表情に出さないようにして――。

 無理! 無理だから!

 魔王でも勇者でも魔王の倉庫番でもない普通の人間の男の子が空を初めて飛んで怖がらない方がおかしいだろ!

 というわけで、襟首をつかんだファミの腕に必死になってしがみつく。下を見てる余裕なんてない。


「ジェイト、凄く見晴らしがいい」


 セイルが反対側から手を伸ばして俺の脇腹をちょんちょんと突いてきた。無表情に目をキラキラさせている。


「俺は見たくないの!」

「どうして? こんなに高いところから見る経験はめったにない」

「そんな経験は村人には不要だし」

「人がゴミのようだよ?」

「俺はそんなゴミのひとつだからいいの」

「そのゴミがモゾモゾと進んでおるな」


 魔王はそう言ったかと思うと、いきなり宙に止まり、凄い勢いで降り始めた。体から体重が消え去ったような奇妙な感覚。

 足が地面について、ようやく下を見る勇気が出た。が、すぐ下にあるのは崖だった。落ちたら骨が折れるどころの高さじゃない。慌てて飛びのき、恐る恐る見下ろす。

 ここからは魔王軍の全容が一望出来た。


「あれが魔王軍……か?」

「しょぼいですね」

「言いにくいことズバッと言うなー、セイルは」

「しょぼいのです~」

「ファミが言うと、さらにショボく感じるな」


 実際、魔王、しかも軍というと、ずらっとバケモノが居並び、平原を覆い尽くさんばかりってイメージだったのだが、なんか村の住人全員集めましたーくらいの規模しかない。もっとも、人間じゃなくて巨人みたいなのとか、翼の生えたのとか、色々いるから、同人数の人間よりも強力なのは確かだろう。


「まあ、さっきの魔王討伐パーティくらいなら瞬殺されるだろうがな」

「あ、やっぱり、それくらいの強さはあるんだ」

「腐っても魔王軍だな」

「ゾンビもいるもんね」

「その腐ってじゃない!」


 そうこうする間に魔王軍と反対側から渓谷に入ってきた軍と対峙していた。どうやら王国からの討伐軍のようだ。もうこんなところにまで進んでいたのか。それとも俺が加わるはずだったのは、第2陣だったのかもしれない。


「どうする?」

「ワレの名を騙っておる以上、捨て置くわけにもいかんな」

「じゃあ、あれだ! この紋章が目に入らんかーって、魔王の紋章を突きつけるんだよね?」

「なんだよ、魔王の紋章って?」

「いや、あるが?」

「あるのかよ!」

「ほれ」


 ファミがちょんちょんと俺の前に指を動かすと、ぼんやりと宙に模様が浮かび上がった。なんだかクネクネと触手がからみ合ってるけど、これが紋章なのか。

 じっと見ていたら、セイルが勇者の声を上げた。


「おい! 討伐隊の連中が突っ込んじまったぞ」

「のんびりしている間に先を越されてしまったではないか」

「え~? この紋章が~って出来ないよー」

「うむ、残念であるな」

「やりたかったのかよ!」

「えー? 当たり前だよ~」

「興味が惹かれるではないか」

「おまえら、息ピッタリだな……」

「仲良しだもんね~」

「魔王と仲良しでいいのかどうか不安だが……」

「戦いが始まった」


 セイルの冷静な一言で、俺たちの視線は眼下の光景に引き戻された。


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