2:倉庫の番人 その2
魔王の倉庫に入った俺たちの目の前には予想以上の光景が広がっていた。
「凄い……」
感嘆の声を上げたのはセイルだ。俺よりも刀剣マニアだけあって目を輝かせている。
広さがどれだけあるのかわからない。俺がこれまで見た中で一番広い。と言っても、せいぜい昨日泊まったギルドの建物しかないわけだけど。
「ここには2000年の間に収集したありとあらゆる武具を収蔵しておる。大半はワレを殺しに来た勇者の献上物だ」
「殺して奪っただけだろうが」
「奪ったわけではないぞ。捨てるわけにもいかぬであろうが」
「く……これだけの武具があれば、オレなら大望を遂げられたかもしれんのに!」
勇者が悔しそうな声を上げた後、無表情な声になって訊く。セイルだ。
「じゃあ、魔王を殺せる剣はある?」
「もちろん、あるぞ。ワレを狙う者の手に渡らぬように特に厳重に管理しておる」
「これ、強そう」
「ん? おお、そうだ。それが対ワシの最高ランクの剣」
「これをもらう」
「そうか。かまわぬ……なにぃっ!? それはいかん!」
「もうもらった」
「勇者でもないキサマがなぜ欲しがる?」
「ファミが魔王に乗っ取られたら私が殺すと約束したから」
「友達を殺せるか?」
「友達だから殺す」
セイルが顔色ひとつ変えずに断言した。魔王が信じられないという顔でセイルを見ている。まあ、そうだろう。しかし、俺は知っている。
「こいつ、こういうヤツだから。殺るっていったら殺るよ」
「……確かに、こやつ、勇者よりよほど勇者らしいな」
「そうだろう! なんといってもオレ様だからな!」
「貴方とは違うから」
セイルが冷静に突っ込むと、勇者は笑い出した。
「だよな! はっはっは!」
「勇者、褒められてねーから」
呆れて勇者に突っ込む。
セイルは魔王殺しの剣をクルクルと回して鞘に収めると、俺を見る。
「ジェイトは見つけたの?」
「いや、まだ……。なにがなんだか……」
「適当に見つくろってやろう」
目移りして決められない俺に業を煮やしたか、魔王がちょいちょいと腕を動かすと、剣が飛んで来て俺の前に並んだ。
「さあ、どれにする? これなど嵐を呼ぶと有名な魔剣だぞ?」
刀身まで真っ黒で、鍔はコウモリの羽みたいに広がってる。
「いや、そんな派手な名前と格好してたら目立ってしょうがないだろ」
「ジェイくん、地味なのが好きだもんね」
「ジェイト、これはどう?」
セイルが差し出した長剣を見て、一発で気に入ってしまった。
長さは少し短めだけど、オーソドックスな形。柄も鞘も渋い黒に銀の装飾程度で、派手さは皆無。目立ちたくない俺にぴったりだ。
「よし、武器はこれでいい」
「ほう? 本当にそれでよいのだな?」
「無難でいいだろ」
「よしわかった。それと契約するがいい」
「契約?」
「その前に防具も選ぶがいい」
「あ、そうだった。攻撃より防御だよな。この剣とバランスがよさそうなデザインで、身軽に動けそうな感じの……」
「あれとかどうかなー、ジェイくん」
ファミが声を上げる。示した先にあったのは真っ赤な鋼鉄の鎧。まぶしいくらいに輝いてる。ファミの趣味かもしれないが、俺とは違う。
「さすがにこれ着たら道化だろ、俺」
「じゃあ、あれは? トゲトゲいっぱいの」
「いや、俺、魔王になるつもりはないから」
「ジェイト、実用性を考えると、この辺り」
「さすがセイルだな。俺の好みを理解してる」
「ぶぅ~。ファミのもカワイイのに!」
ファミがふくれっ面をするが、どう考えても俺に似合うとは思えない。セイルのチョイスをありがたく受け取る。
派手な飾りのない兜、これといった特徴のない胸当て、肘当てと手甲、膝当てだ。目立たないけど、しっかり作ってあるのはわかる。かなり使い込んであるが、痛みはほとんどない。
ファミがぶーぶー言わなくなったので見ると、魔王に代わっていたようだ。俺が手に持った防具を見て満足そうにうなずいた。
「決まったのか?」
「ああ。無難な感じだしな」
「よかろう。では、契約を」
「だから、なんで?」
「ここにあるものはすべて魔力を持つ魔武具ばかりだからな。契約せねば使用者に牙を剥くかもしれんぞ」
「普通のはないのかよ」
「魔王がどこにでもあるようなものをわざわざ保管しておくわけがなかろう」
「まあ、そりゃそうだけど……」
「イヤなら買うしかあるまい」
そんな金はない。背に腹は代えられないか。
「わかったよ。契約すりゃいいんだな」
「物わかりがよくて助かる。では、武具を前にして手をこちらに」
俺が言われたようにすると、魔王はまた理解不能な言葉を唱え、俺の名前を最後に呼んだ。
その途端、俺の手が触れた武具がぼうっと光が灯った。まるで意志があるように震える。
「よしよし。これでこいつらは貴様のものだ。厄介払いが出来たわ」
「は?」
「いや、なんでもないぞ。気にするな。もう用はない。出るぞ」
何か凄く気になることを口走ったが、魔王は足早に倉庫を後にした。俺は武具を抱えたまま後を追う。セイルが名残惜しそうに見ていたが、急に吐き捨てて駆け出した。
「ふん、魔王の施しなど受けられん!」
あー、ガキか、この勇者は。
全員が倉庫から出ると、黒い穴はピシャッと閉ざされた。後に残ったのは倉庫番の黒い巨人。
「ふむ。また必要になるかもしれんから貴様もついてくるがいい」
「ちょっとそれは……」
俺は黒い巨人を見上げてこみ上げてくる吐き気を抑え込む。
「魔王はよくて、下僕はいかんという道理はなかろう」
「じゃなくて、発狂する人が続出したんじゃ目立ってしょうがないだろ!」
「ああ、そうであったな。人間などという脆弱な存在にとっては、たかが下僕ですら脅威になるのだな」
「いや、単純に気持ち悪いんだけど……」
「それは差別です」
「セイルも気分悪くなってたろ!」
「仕方ないな。では、これでよかろう」
魔王が巨人に向かって手を掲げる。
「え? ええっ!?」
巨人の姿は一瞬で小さくなり、そこにいたのはなぜか女の子だった。12、3歳くらいだろうか。黒いシャツに黒いスカート。黒い髪に白い髪留め。
「かわいい」
ぼそっとつぶやいたのはセイル。いや、この声は勇者か?
「名前をつけてやるがいい」
「はーい、ファミが命名しちゃいまーす!」
ファミが勢いよく手を上げ、うーんうーんと唸る。勇者が業を煮やしたように声を上げる。
「決まらないなら、オレが――」
「じゃあ、ねー、そうだ! ソーコちゃん!」
「安直だな!」
こうして、オレのパーティはソーコちゃんを入れて4人――中身を入れると6人になった。




