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2:倉庫の番人 その1

「久しいな、倉庫番よ。我が命令通り倉庫を守ってくれたようだな」


 ファミが精一杯に魔王らしい声で黒い何かに向かって尊大に言い放つ。


「何者だ?」

「貴様の主の顔を見忘れたとは言わせんぞ」

「おまえなどに見覚えがない」

「おお、倉庫番よ、たかが1000年で忘れるとは情けない」

「我が仕えるは魔王様おひとり」

「じゃから、ワレがその魔王じゃと――」

「魔王様を騙る不逞の輩め。無許可の侵入者と見なして排除する」

「なんだと?」

「バミちゃん、ふてーのやからなの?」

「案ずることはない。ただの倉庫番の誤作動だ。創造主に向かってなんたる不敬な発言」


 魔王は低い声で恫喝するように笑った。が、ファミなので怖くもなんともない。

 対して倉庫番は感情などないのか淡々と応じる。


「これより排除を開始する」

「ええい! 主人を忘れたとは嘆かわしいわ!」

「まあ、その顔じゃなぁ」

「ファミ、ひどい顔じゃないもん!」

「だからだろ!」

「ジェイくんはファミの顔がひどい方がいいんだ!?」

「じゃなくて、ファミの顔じゃ魔王と認識できてないだけじゃないのか」

「顔で認識するようにはしておらんが」

「おい、魔王にはそもそも顔などなかっただろうが?」

「おおっ!」


 勇者の指摘に魔王は大げさな声を上げた。まるで爺さんだ。いや、ファミの声だからバアさんか。


「そうであったな。長らく人間として暮らしておったから失念しておった」

「まだ2日しかたってないだろ!」


 倉庫番の真っ黒い体がいきなりグンッと伸び上がって巨人になった。巨木のような腕が振り上げられ、俺たちの方に狙いをつける。どう見ても、あの拳を叩き込もうとしている。当たったらヤバいヤツだ。


「仕方があるまい。体に思い出させるしかなかろう」

「バミちゃん、魔王みたいに邪悪なこと言ってる~」

「だから魔王なんだって! なんとかしろ!」


 俺を丸めたよりもデカイ拳が空気を裂いて振り下ろされるのを見て叫ぶ。

 こういう事態にならないように武具を手に入れるはずが、そのためにこういう事態になってしまった。これはどう考えてもクリア不能だ。魔王以外には。


「もうなんとかしておるわ」


 魔王が平然と言った直後、巨人の拳は俺たちの脳天に叩き込まれた。

 あれ?

 よく見ると、俺の頭上で止まっていた。動きが止まったわけじゃない。目に見えない壁に当たって止まったようだった。その証拠に、番人はもう一度試そうと拳を引き戻す。


「キサマの打撃ごときでワレの障壁が破れるわけがなかろうが、愚か者めが」


 魔王は尊大な口調がまったく似合わないファミの声で言うと、両手を高々と掲げた。そして、呪文の詠唱を始める。いつも思うが、人間の口から出るとは思えない奇妙な声。ファミの口は大丈夫なんだろうか。後から喉がいがらっぽくなったりしないんだろうか。うがいした方がいいんじゃないかな。

 そんな心配なんか知らないで、魔王は最後に仕上げとばかりに腕を振り下ろす。

 何が起こったのかはっきり言ってよくわからなかった。

 巨人の腕が振り下ろされた瞬間、ドンッと全身を揺さぶられた。視界がぶれて、一瞬意識がなくなった。気がついた時には巨人がバラバラになって吹っ飛んでいくところだった。

 スゲぇ、魔王。


「ワシに刃向かう者の末路がこれだ」

「バミちゃん、悪役~」

「魔王は悪ではないわ!」

「笑止! 魔王が悪でなくてなんなのだ!」

「決めつけよくない」


 勇者にセイルが無表情に突っ込む。自分に自分で突っ込むのは妙な光景だ。しかも、勇者は何も言い返せなくなっている。


「で、倉庫番がいなくて入れるのか?」

「倉庫番ならそこにおるぞ」


 魔王がファミの指で示した先に黒い塊が小さくなってガクブルと震えていた。。


「で、どうだ?」

「我が主と認めます。排除中止。攻撃態勢解除」

「それでよい」


 満足そうにうなずくと、魔王は俺を手招いた。


「さて、久しぶりに倉庫に入るとするか」


 黒い穴――空中に開いていた穴が地面まで降りてくると、目の前で止まった。魔王は何の躊躇もなく穴に足を踏み入れると、スッと消えてしまった。続いてセイル。俺は息を止めて飛び込んだ。

 胃の辺りがねじられるような気分が襲い、思わず、むぐうと唸ってしまう。が、それは一瞬で収まり、目の前には予想以上の光景が広がっていた。


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