1:魔王を倒そう その2
「ジェイくんってニャンコー不落だよねー」
「難攻不落。落ちないのはいいこと」
「ファミも落とせないんだよ~?」
「ネコも落とせば落ちる。こうする」
「きゃはははっ! セイルちゃん、そのまんまの顔でくすぐらないで~! あんっ、はうぅんっ!」
ファミとセイルが無邪気に遊んでいると、男たちが股間を隠しながらそそくさと歩き過ぎていく。朝から元気だな。
「おい、通行人が迷惑してるぞ。なんの話をしてるんだ?」
「ニャンコの話~!」
「そう。気にしないで」
「まあいいけど。じゃあ、弁当買って出かけるぞ」
「魔王退治に出っ発~っ!」
「いや、退治する気はないからな! その前に魔王の装備だろ」
「あ、そうだった~」
「一晩寝たくらいで忘れるなよ」
「う~ん、寝つきが悪かったんだよ」
「そうですね。なかなか寝られませんでした」
「おまえら、遠足気分が抜けてないのか」
「ニャンコに言われたくない」
「そーだよー」
「なんの話だよ、まったく……。ほら行くぞ」
俺は呆れて首を振りながら、ふたりの背中を押すように出発した。
◇
「この辺りでよかろう」
魔王が立ち止まったのは、昨日の薬草採取の場所とは街道を挟んで正反対の位置にある岩場。水も木もない殺風景な場所だけに人気はない。その上、岩陰に隠れるところもあるので、潜めば人目にもつかない。
「それで、異次元の門ってのはどうやって出すんだ?」
「簡単だ。少し離れておけ」
魔王は俺とセイルに命じたかと思うと、回れ右して俺の方に来ようとして、動きを止めた。どうやらファミまで逃げようとしたらしい。
「バミちゃん、ファミ離れられないよ?」
「分裂でもしない限り無理だから」
笑いながら突っ込んでやると、ファミはふくれっ面で俺をにらんだ。が、急に魔王の声に変わった。
「用意はよいか?」
「いや、どんな用意すりゃいいのか見当もつかないんだけど」
「ワレの下僕として控えておればよい」
「オレは魔王の下僕になどならんぞ!」
「勇者、フリだけでいいって」
「フリもイヤ」
「さすがオレの転生者。気が合うな」
「とにかく、後ろにいりゃいいだろ」
セイルと勇者をなだめると、魔王に合図を送る。セイルは腕を組んでふんぞり返っている。どうあっても魔王の下僕に見られないつもりだ。
魔王は呪文の詠唱を始めた。魔法を使った時と同じだ。意味がわからないだけでなく、聞いていると気分が悪くなる言葉の羅列。
頭の中がグルグルとかき混ぜられるような感覚が続いた後、最後に気合いのような叫びを放つ。
と、魔王の目の前に縦線が一本走った。黒い糸のような線。それが真ん中辺りで膨らんだかと思うと、次第に大きく、まるで弦を引いた弓のようにカーブを描いて広がっていく。ついには黒い穴にになった。
中は……なにも見えない。
「この穴が倉庫なのか?」
魔王に尋ねた時、真っ黒な空間からなにかが現れた。
う……と、思わず声にならない呻きを上げてしまった。
黒い何か。
なんというか、黒い何かとしか言いようがない。手のような物はあるが、人間のようでも動物のようでも虫のようでもない。目もあるような気がするけど、見ていると見間違いのような気がする。
え? なにこいつ? 気持ち悪い……。
ちらっと見ただけなんだが、ぐらっと足が崩れるような感覚。
セイルはと見ると、平然と腕を組んだまま。
「セイル、大丈夫なのか?」
「魔王よりマシ」
「魔王って、そんなにひどい面なのか……」
「ファミ、かわいいもん!」
「おまえのことじゃないから!」
こんな時になに言ってんだよとファミに言い返したが、おかげで気分は幾分かマシになった。
「我を呼び出したのは貴様か?」
その魔物が聞き苦しい声で問いを投げかけてきた。
今週も平日のみ更新予定でーす。




