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1:魔王を倒そう その1

 魔王が魔王を退治するとはしゃいでいる、妙な光景を目の前にしながら、俺は酒場を後にした。

 しかしまあ、魔王退治のために王都の軍に合流するんだから、先に魔王を退治してしまえば行く必要もなくなるのか。そう考えると、間違った判断でもないかも知れないが、やっぱり間違ってる気がしないでもない。


「ねえねえ、お弁当はどうしよっかー?」


 その魔王――の転生者がわくわくしながら言う。


「美味しそうな串焼きがあったよ。シュワシュワした砂糖水とか」


 いつもはあまり感情を表に出さない勇者――の転生者までが楽しそうだ。


「ピクニックじゃねーっての! わかってんのか?」

「それくらいわかってるよー。ファミ、バカじゃないもん! でも、ジェイくん、そのままじゃ戦えないよねー?」

「聞けよ!」


 突っ込んだものの、確かに戦闘に巻き込まれないとも限らない。町から一歩外に出たら、そこは戦場になる可能性があるのだ。


「戦うどころか、魔物が襲ってきたら身を守れもしねーよ。俺はただの村人だからな」

「ファミだって村人さんだよー」

「魔王の生まれ変わりがただの村人のわけあるか! しかも、魔王しゃべるし!」

「えー、差別だー。ジェイくんだってなにかの生まれ変わりかもしれないでしょー?」

「そんなにぽんぽん生まれ変わりがいるか!」

「ゴメン。ボクも」


 セイルが申し訳なさそうに手を上げる。


「セイルはいいんだよ」

「差別だー」

「セイルの方が告白したの先だから、ファミの方が二番煎じなの」

「ひどーい!」


 プンプンして腕を振り回すファミの頭をつかんで遠ざけ、真剣に考える。


「やっぱり、どっかで基本の装備くらいは手に入れないとダメか。王国軍に入ったらなんか支給されると思うんだけど、そこまでが大変だしなぁ」

「そうよな。確かにザコ魔族の爪に腹をえぐられ、皮を引き裂かれて、臓物をロープのように引きずり出され、肝と心臓を食らわれた後、脳天をかち割られて脳みそをすすり取られる可能性はあるな」


 プンプンしながら、魔王の声でえげつない事を言う。


「なにその詳細な描写は!? 今ここで必要?」

「戦場ではよくある光景だぞ。見飽きた。もっと刺激的な死に方はないものか」

「危ない人だよ、この勇者!」

「ごめん、ジェイト。ボクも気持ち悪くなってきた」

「だよな」

「勇者の見たものが頭の中に浮かんできて……うぐっ……」

「なんてもの見せるんだ、女の子に!?」

「……女の子……」


 セイルがうつむいて頬を染める。


「ん? どうした?」

「嬉しい。ジェイトが女の子扱いしてくれて」

「はーい、ファミもファミも! バミちゃんが変なもの見せるの!」

「魔王もか! なにを見せるんだ?」

「えーっとねー、クネクネがグチュグチュしてて女の人が嬉しそうに叫んでるのー」

「それ子供に見せたらダメなヤツじゃん!」

「ファミ、子供じゃないもん! ジェイくんともイケないことするもん!」


 ぎゅうぎゅう。


「こら、胸を押しつけるな!」

「どうして反応しないのかなー?」

「その程度でどうかなるわけないだろ。勇者、おまえもセイルにいやらしいもの見せるなよ」

「いや、オレはそっちには興味はないからな」

「そうなのか?」

「オレは……して欲しい方だ。だから、歓迎するぞ」

「なにをだよ?」

「セイルもずっと待っているぞ」

「なっ!? ボクの口を勝手に使わないで」

「お、おう」

「なんなんだいったい……」


 なにを言いたいんだかわからない連中だ。

 俺の腕に胸を押しつけていたファミがなにか思い出したように声を上げる。魔王の声だった。


「おお、そうであった。武具だが、ないこともないぞ」

「呪われた甲冑とか血を吸う長剣とかならいらないぞ」

「そのような下卑たものではないわ! いや、そういうのもあったか……」

「あるのかよ!」

「まあ、キサマが身につければ一瞬で骨も残らぬくらいになるだろうがな」

「普通の基本的なのでいいから。いや、でも白木の剣とか、えのきの棒なんてのは却下したいけど」

「魔王が数百年の間に得た宝物だぞ? 最低でも勇者が着用するレベルでなければ意味がないではないか」

「その最低レベルのでいいんだけど、どこにあるんだ? まさか、そのためにまた冒険するんじゃ意味がないぞ」

「心配するな。すぐそこだ。いや、どこでもと言った方がよいか」

「どこでも?」

「異次元の倉庫に安置しておるから、異次元の門を開けばそこが倉庫だ。今ここで門を開けてもよいぞ」

「なんか嫌な予感がするぞ」

「なに、倉庫をのぞき見た者の数人は正気を失うやもしれんが、その程度だ」

「見えないところでやって」

「それじゃ、明日出発してからだね~」


 いきなりふにゃんとした声に戻ると、ファミはスキップして歩き出した。

 この日はそのままギルドの部屋に泊まった。

 リリーさんが釘を差したので、ひとつのベッドで一緒に眠ったけど、なにも起こらなかった。ファミの胸が顔に押しつけられて息が苦しかったり、セイルが俺の手のひらを自分の胸にぴったりと押しつけたりしたが、それだけだ。

 なんだか色々あった一日だけど、ベッドで熟睡出来た夜だった。


ようやく話が転がり始める? かもしれません(^_^;)


次回は週明けの20日になります。見捨てないでお待ちください。

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