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第四話  部活とは違う別の活動

 この学校では、教室の席替えは各クラス適当なタイミングという名の担任になった先生の気分次第で行われる。そして大概は給食のときの席替えも同じタイミングで行われる。

 掃除場所については教室の席替え時に班が割り当てられるので、それがそのまま対応。クラスの掲示板コーナーに厚紙で作られたぐるぐるルーレットみたいなのが設置されており、週替わりで動かされてその週の掃除場所が決まる。

 部活は一年生になった最初の一週間の見学とかで自分の希望する部活を選ぶ。

 ちなみに日直は各クラスによってばらばらだ。出席番号順のこともあれば先生が名前のマグネットを壷の中に入れてシャッフルして選ぶとか男女のペアになるようにダンボールからくじ引きとかいろいろ。

 実はまだ他にも希望をする決め事がある。それは……委・員・会!

 生徒会については選挙が行われるが、それはまた別枠。よく保健室まで連れていく保健委員が有名だが、そういう委員会にも所属しないといけない。週一回午後の授業のうちに委員会の時間もある。

 なお級長・副級長・書記とかもこの委員会決めと一緒に決められる。一年間で前期後期の二回に分かれていて、連続して同じ委員会やってもいいし、別のに切り替えてもいい。

 ボランティア委員、図書委員、美化委員などなどいろいろあるわけだが、俺は……


「うーんっ!」

 桃は灰色の背もたれ付き回転イスで腕も脚も伸びしてる。ぼきって折れるかちょっと心配。

 俺と桃は放送委員だ。主な仕事は給食の時間中この防音仕様放送室の中に入ってカセットテープで音楽を流し、内線で給食の準備ができた知らせを聞いたら、音楽止めて学校中にアナウンスするってところ。体育祭や文化祭のときも少し出番があるかな。

「市ー、吹奏楽は一年どんな感じー?」

 桃がそのまま体を反らせて頭が逆さになっている。見てるだけで血が上りそう。

「俺らのサックスんとこにはいい一年生が入ったよ。全体では二十人入ったな」

「結構入ったねー。陸上部は十二人入ったよー」

「それは陸上部的には多いのか?」

「うん、充分だね! 経験者もいるから、あたしもうかうかしてらんないなー」

 斜め上に伸ばされていた腕が今度は横に伸ばされた。

「陸上部って大変そうだな」

「大変だけど、でも走ったり跳んだり投げたりしてるだけだからね。んまーその走ったりしてるだけのことを少しでも記録がよくなるように毎日練習したり研究したりしてるんだけどさっ」

「楽しいのか?」

「楽しいよー」

 桃が体反らせるのをやめて、くるっとイスを回転させてこっち向いた。

「どんなときが楽しいんだ?」

「いい記録が出たときかな。練習してきたことが実ったんだーってうれしいね」

「ふーん」

「あと大会での緊張感はたまらないよ。学校とは全然違う競技場で、スタートラインに立った瞬間から終わるまでの間の全力を出す感じが好き。あたしは~目立った成績を残せてないけどさ、へへっ」

「ほうほう」

 桃はひざを伸ばして手は太ももの上辺りにぴしっと腕張って置かれてある。

「怪我とか、大丈夫なのか?」

「たまにしちゃうけど、まだ大きな怪我はしたことないよ。あたしはね」

「そっか。気をつけろよ」

 吹奏楽じゃあ大きな怪我とかないからなぁ。

「……市ー。あたしのこと心配してくれてるのー?」

「うぇ。そりゃまぁ、俺吹奏楽だから怪我するようなことほとんどないし、運動部大変そうだなーってさ」

 なんか変な目で見られてるぞっ。

「あーりがとっ。怪我なんてしたくないから、もちろん気をつけるよ」

 桃は明るく笑っていた。

「吹奏楽は、大会とか練習とか、どんな感じなのさ?」

「運動部みたいに夏休みに大会がある。それは何十人も一緒に演奏する普通の大会なんだが、一人から十人未満くらいの少ない人数で演奏する大会も冬休みの間にあるな。俺は普通の大会にしか出てないが」

「へー、始業式とかで吹奏楽が賞状もらってるのは、そういう大会があるからなんだねぇ」

「そんなとこまでチェックしてんのかよっ」

「そりゃー市がいる吹奏楽だしさっ!」

 イス座ったままちょっと寄ってきた。

「いや、俺目立ったキャラじゃねぇし」

「えーそう? 吹奏楽って男子少ないんじゃないの?」

「男子の前にうまいやつが後輩にごろごろウッウッ」

「あっははっ。そんな気にしなくてもいいっていいってっ。みんなで一緒に演奏するんでしょ? 陸上なんて記録の数字がすべてだよー」

「そ、そりゃまぁそうだけど、さ」

 桃はくるくる回ってる。やはり見てるだけで酔いそう。

「あたしは吹奏楽のことよく知らないけどさ。きっとあたしが陸上部にいることよりも、市が吹奏楽部にいることは大事だと思うよ?」

「ど、どういうことだ?」

 くるくるが止まった。

「あたしは陸上部で目立った記録も成績も残せてないから、参考にするならあたしよりもうまい子の記録を参考にすればいいだけだし。でも市はみんなで一緒に演奏する中から担当する楽器があって、他の子たちと連携したり、後輩に伝えていく役目があるんでしょ? だから、頑張ってる市はえらいなーって、あたし思うかなっ」

 正直俺はそこまで深く考えたことなかったけど、でも陸上部での厳しい環境で頑張ってると思う桃がそういうことを言ってくれるっていうことは、俺の吹奏楽部人生も無駄じゃないってことなんかな。

「桃からそんなに言われちゃ、引退までちゃんと後輩に伝えられること伝えなきゃいけないな」

「きっと市を必要としてくれる人がいるいるっ」

「そこまでの自信はないけど、だれかいるといいな。ってか桃にもきっとそういう人がいるさ」

「あたしにもー? ほんと目立った記録ないよー?」

 桃はてれ笑いみたいな表情をしている。

「俺もその、陸上部のことよくわかんないけどさ。桃は桃なんだし、他のやつらよりも桃としゃべりたいってやつとか、桃の言ってることが心に響くぜ! なんてやつもいるだろうし。部活は記録以上に大事なことが他にもいっぱいあって、桃にしかできないことはあると思うけどな」

 思い浮かんだことをそのまま言ったが、ちょっと柄でもなかったかな~?

「……い、市って、いいやつよねー! そだね、ちょっとうじうじしすぎてたかな」

 うぉ、接近してきてイスぶつけてきた。

「そうだよね、大切なことは他にもいっぱいあるよね」

「そそ」

 桃はひざを伸ばしたり曲げたりしてる。

「このー。いいやつめー、うりうり」

「な、なんだよっ」

 突然桃が至近距離からのひじ打ちうりうり攻撃をしてきた!

「よしっ、市、大富豪でもしよっか!」

 と、桃はスカートの左ポケットからトランプを取り出した! 猫のキャラクター物だっ。

「受けて立つ!」

 近くの大きな灰色の机の上がバトルフィールドに設定された。桃は勝負師の顔になっている。


「市雪先輩って、放送委員だったんですね!」

「ああ」

 今日も練習が終わって片付けちぅ。佳桜が声をかけてきた。

「すぐに市雪先輩ってわかりましたよ!」

「そ、そか」

 今日は俺が給食の準備できましたコールを行った。しかしそんな特徴的な声してるかぁ?

「先輩はなんで放送委員になったんですか?」

「最初は一年後期でなんとなくだったんだが、放送すんのおもしろいと思って、それからはずっと放送委員だな」

「そうなんですね! 吹奏楽部もなんとなくだったんですか?」

(うぉ。吹奏楽入った理由をここで『早理佳が入ろうとしてたから!』なんて言えるわけもなく……)

「ま、まぁそんなところ?」

「そうだったんですか!」

 佳桜はにこにこお片付けをしている。

「そうだったんですか?」

 うげ、穂夏がここで飛び込んできた。

「あ、ああ」

 クールな目で見てくる穂夏。

「空先輩は、たしかサックスもてきとーに選んだんだよねー?」

「てきとーゆーなっ。ま、まぁそこもなんとなく、だけど、さ。ちなみに第二希望だった」

 智笑ってやがるしっ。

「第一希望は何だったんですかっ?」

 佳桜ぐいぐい来ますねぇ。

「パーカッション」

「意外ですね。サックスのイメージしかありません」

 なんでパーカッションだったかって? そりゃ早理佳が第一希望をパーカッションと書いたのをちら見ゲフゴホ。

「で、でも、空元先輩が先輩でよかったです! 話しかけやすいですっ」

「いや俺以外にも話しかけやすい三年はいくらでもいるだろうに」

 真緒子はなんだかあたふたしている。

「その点はあたしも同じです」

「おいおい」

 穂夏も乗っかってきた。

「あたしも先輩が空先輩でよかったよー?」

「おめぇは俺で遊んでんだけだろうがいっ!」

 てへぺろすなっ!


 吹奏楽部が女子ばっかかつパートも女子ばっかで、委員会も桃とのコンビだしで、そんでもって朝は早理佳がいるしで、なんか女子としゃべってばっかだなー。小学生のころとは全然違うや。

 俺は帰りの道を一人で歩きながらそんなことを考えていた。

(早理佳とは、仲良くなれてきてるみたいだし……)

 あれから土曜日が待ち遠しい毎日だった。

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