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エピローグ  憧れの想いを抱きしめられて

「いってきまーす」

「いってらっしゃい」

 月曜日。朝練なので、いつもより早い時間にドアを開けた。


 昨日は全然眠れなかった。もうどきどきしすぎ疲れてしまった。今朝も調子は今ひとつだ。

(こんな日に朝練とか眠たすぎ……)

 しかし寝坊なんてするわけにはいかない。もしそんなことをしようものなら……

「おはよう」

「おはー」

 早理佳があたふたするだろうから。

(……いや早理佳ならインターホン押してくれるかもしれないな)

 早理佳は俺を見ている。暑い日がじわじわと増えてきたので、早理佳は長そでカッターシャツになっている。俺は学ランのままだった。

「なぁ早理佳」

「なに?」

「好きだ」

 早理佳は急に上目遣いになった。

「こんなところでなにを言っているのっ」

「早理佳は?」

「も、もぅっ」

 早理佳は歩き出した。ので俺も歩き出す。

「あーあ、俺早理佳のことずっと好きだったのになー」

「わ、わかったからぁ。だれかに聞かれたらどうするのっ」

「朝練だぞー? ただでさえここの道は通る人いないのに、朝練の時間とかもっと通る人いないいない。はい、早理佳は?」

「市雪くんったらぁ……」

 ちょっとぶーぶー顔してる早理佳。そんな顔しながらも辺りを確認してる。やがてぶーぶー顔が解除された。

「……私も、市雪くんのことが、好きっ」

「よろしい」

「ええっ!? い、いちゆぅっ」

 早理佳はちょっとじたばたした。しょうがないので短いバージョンで。

「……もぅっ! 見られたらどうするのっ……!」

「昨日うれしすぎて全然眠れなくってさっ。このどきどきに慣れるまでの間だけでもだめかっ!?」

「だっ、だめだよぅ! お外でなんて、そんな、そんなっ、もぉぅっ……」

 あぁーかわいいなぁ。やべ俺めっちゃでれでれしてる。

「……はずかしくって、どきどきして、もうめちゃくちゃになっちゃうから……だめっ」

 だめらしい。こんなにかわいいのに。早理佳が歩き出したので俺もついていく。

「だめだめ多くありません!?」

「だめったらだめっ」

「恨みでもあるのか! 俺がなにをしたっていうんだ!」

「……お、お外で、ちゅ、ちゅーしたんです! だめっ」

「ちぇ」

 今度は俺もぶーぶー顔に。

「…………今度の土曜日、遊びたいな」

 おっといきなり誘ってきたぞ!

「もちろんだっ。どこでだ?」

「どこにしよう。この前市雪くんのおうちに行っちゃったから、今度は……私のお部屋?」

「わかった。長いのしていいよなっ!?」

 俺はめっちゃ早理佳見た。

「……い、市雪くん。聞いていいかな……?」

「なんだっ」

「そんなに……そんなにも、その……」

 早理佳が右手人差し指をあご付近に添えている。

「……私のお口……いい、の?」

「いいに決まってんだろ! 早理佳のことがかわいくてかわいくてしょうがない!」

「い、言いすぎだってばぁっ」

 事実か事実じゃないのなら、事実なのだからしょうがない!

「……おかしいなぁ。こんな未来は想像していなかったんだけどなぁ」

「その点については俺も」

「ええっ?」

 あれ、早理佳ちょっと笑った。

「まぁ今は早理佳への想いが噴火しちゃってるけどさ。落ち着いたら、きっと俺たちが同じように想像している未来になってるはずさ」

「わ、私は落ち着いているもんっ。市雪くんが……ちゅーしすぎ、だもん」

「んじゃどんくらいの期間にどんくらいの回数ならいいんだよー」

「そ、それは……そう聞かれると、答えられないけど……」

「じゃ長いのしてもいいよな!」

「だめっ」

「あーもーだめだめばっかじゃねーかーこんにゃろこんにゃろっ!」

 俺もじたばたしてみせた。

「だって……長いのも、その……どきどきしすぎて、うれしすぎて、大変なことになっちゃうもん」

「俺はどきどきしすぎてうれしすぎるから早理佳にくっついてんだぞ!」

「わかったってばぁもぅっ」

 早理佳ぱんちが来た! 俺は左腕に物理ダメージを受けた!

「じゃあさ。今からする話題の間だけでいいから、手をつないでもいいか?」

 手つなぐので我慢するさ。フンッ。

「……うん」

 許可もらったので、俺は左手を出して、早理佳の右手を握った。

 昨日早理佳と近接戦闘していたのに、そういえば手を握ってはいなかった。早理佳の手ももちろんかわいくて、ちょっと細くて、かわいくてかわいかった。

「早理佳はさ。高校に行っても吹奏楽続けるつもりか?」

「うん、たぶん続けると思うな。市雪くんは?」

「早理佳が続けるなら続けよーっと。そして同じ高校に入る」

 握られている手の力がちょこっと強まった。

「うんっ」

「中学二年まで早理佳のこと眺めまくってただけだから、高校に入ったら早理佳と遊びまくる」

「うん、いっぱい楽しもうね」

 今日も笑顔の早理佳。

「もちろん中学卒業までめちゃくちゃ遊ぶ」

「ふふっ、うん。私も市雪くんと遊びたい」

 なんという相思相愛っ。

「こんな感じで、俺、早理佳ばっかめちゃくちゃ見てるからっ」

 笑顔の早理佳をずっと見てたいわぁ。

「……私も。市雪くんに……めろめろ、なっちゃってるよ」

 そして今のその本当にうれしそうな笑顔を、俺だけのために向けてくれているのがまた俺もうれしい。

「めろめろかぁ。俺もそんな感じなんだろうな」

「おんなじだねっ」

 そんなかわいい笑顔はめろめろなっちゃいますわぁ。

「俺たちって、いろいろと結構同じように考えてたんだな」

「そうだよね。気が合うってこういうことを言うのかな」

「たぶんな。早理佳が告白受けてくれてまじでよかった」

 早理佳は握っている手をうにうにして、握り方を指と指の間を通す握り方に変えてきた。

「……告白してくれたのは市雪くんからだからね。ずっと一緒にいてねっ」

「もちろんっ」

 せっかく早理佳が握り方を変えてくれたんだが、話題はここまでなので、俺は二回だけ握る力を少し強めてからゆっくり手を離した。

「あーあ、今日も朝から朝連だりーなぁー」

「頑張ろうね」

「へーい」

 そして曲がり角にやってきた。

「んじゃな、また教室で」

 俺はさっきまで握っていた左手を上げ……ん? 早理佳の反応がない。

「早理佳?」

「市雪くん」

「どした」

 俺を見つめる早理佳。

「……あ、朝練のときくらいは、一緒に登校……したいな」

 てれてれしてる早理佳すばらしい。

「茶化されるの嫌だったんじゃないのかー?」

「はずかしいけど……でも……」

 ちょっと視線を外したが、すぐに戻ってきた。

「……め、めろめろ、ですから」

 早理佳が俺にめろめろ。にわかに信じがたいが、まじのまじらしい。

(これからもめいっぱい、早理佳を楽しませてやらないとなっ!)

「よろしくな、早理佳。早理佳笑わせるギャグいっぱい考えっから」

 早理佳を見つめちゃった。

「こちらこそよろしくね、市雪くん。市雪くんのためなら、私、頑張るからねっ」

 俺はその早理佳の笑顔にまだまだ憧れを持ち続けそうだし、ずっと大切にしていきたいと改めて思った。



数ある憧れになりて  ~完~

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