第四話「オオカミ」
それは、オオカミが四男に売られる前の話――
オオカミには、五匹の子供がいました。
そこそこな奥さんもいて、その日暮の生活でしたが、始めのうちはとても仲の良い夫婦でした。
しかし、最近は仲が悪く、毎日けんかばかりしていました。
「とーちゃーん、腹減ったよぉ〜」
「何か食べたいぃ〜」
「寒いよぅ〜」
「家建ててよー」
「ねぇー、とーちゃーん!」
いつものようにしつこく子供達にせがまれて、オオカミは、食べ物を探しに行きました。
―数時間後―
「はぁぁぁ〜……」
オオカミは暗くなるまで探しましたが、結局何も獲物が見付からずに、大きな溜め息を付きながら帰って来ました。
……と、数時間前までそこに居たはずの家族はおらず、一枚の置手紙だけがありました。
『子供達と実家に帰ります。勝手にして下さい。 ……さようなら。
○月×日 子供達と共に、 オオカミの妻』
たったそれだけ書かれた手紙と一緒に、半分が記入済みの離婚届が入っていました。
オオカミは、通算五十六回目の失恋をしました。
―その夜―
「ウイィーック」
元々、アルコールは全く駄目なオオカミでしたが、失恋したショックで、ヤケ酒をしました。
「なんで……ヒック……オレが……ヒック……――」
オオカミは、明け方までお酒を飲み続けました。
◇ ◇ ◇
―翌日―
オオカミは、二日酔いの中、湖まで食料を探しに行きました。
「ウイーッく、腹減ったなぁ…………ん?」
湖畔を歩いていると、四つの家を見付けました。
「旨そうだ」
オオカミは、中に居る子豚の匂いを嗅ぎ付けました。
藁と木の家に放火して、子豚を二匹食べました。
――うぅぅ……旨いっ!!!
実に数年ぶりの御馳走は、ガリガリに痩せたオオカミにとって、最上級の食べ物に感じられました。
ここまで来ると、残りの子豚で憂さ晴らしをしようと考えました。
「うーん」
次の家はレンガの家だったので、オオカミは真剣に考えました。
もう少しで名案が浮かびそうになった時でした。
「――何をしているんだ!」
オオカミは、通りかかった警察に見付かって、追われる破目になりました。
「くそぉっ!」
オオカミは、取り合えず逃げました。
「ハァ……ハァ……」
――何てしつこいんだ……
始めはすぐに諦めると思っていた警察は、しつこくオオカミを追いかけました。
――何とかにげないと………ん?
オオカミは、大きな河を見付けました。
――よしっ!!
―――ざっぱぁん!!
オオカミは、河に飛び込みました。
「うぅ……」
警察はカナヅチだったため、オオカミを見失いました。
―――ざばぁん
数キロメートル泳ぐと、オオカミは河から上がって休みました。
◇◇ ◇
―数ヵ月後―
体力を回復させたオオカミは、レンガの家の前で張り込みました。
憂さ晴らしをしたいが為に、待つこと数分。油断して出てきた子豚に、オオカミは襲いかかりました。
「ぐはぁっ……」
その子豚を生ハムにして、オオカミは売り飛ばしました。久々の現金収入で、四男を諦めてこれを持ってもう一度奥さんに頼み込めば、あんなことにはならなかったでしょう。
しかしオオカミは、調子に乗って四男を売ろうとしました。
「アーッハッハァー!」
オオカミが上機嫌な高笑いと共に、意気揚々と湖畔に向かう途中のことでした。
「あっ! お前は!」
再び警察に見付かってしまい、オオカミは逃亡生活を送ることになりました。
「しつこいヤツめぇ……」
警察から逃げ隠れするうちに、数ヶ月が経ちました。
「うぅ……ぅぅ……」
ほとんど死にそうになっているオオカミは、最後の力を振り絞って、湖中央の四男の家に向かって、泳ぎだしました。
――殺してやる……
と、奥さんに対する不満か、警察に対する恨みかを勘違いして、そう念じながら。この時、オオカミは完全に正気を失っていました。ここで正気を取り戻していたなら、あんなことにはならなかったでしょう。
そして、オオカミは四男の創った罠に掛かって、その幸薄な一生を終えました。
…………その後、オオカミは成仏せずに、今も幽霊としてこの世を彷徨っているのでした。
―めでたし、めでたし(?)―