第三話「四男」
*これは、四男の、今から少し昔の物語です。
それは、四男が生後二日の時でした。既にお父さんは居らず、お母さんは、女手一つで四兄弟達を育てていました。
「バーカ、バーカ」
お母さんが食事を作っていると、後ろから声が聞こえた様な気がしました。振り向いたお母さんは、驚きのあまり声が出せませんでした。
なんと、喋ったのは、まだ生まれて間もない四男だったのです。
◇ ◇ ◇
そんな事があってから、一ヵ月後のことです。
「やーい、ノロマ! デーブ!」
四男は、兄弟や近所の子豚達にイジメられていました。
その頃の四男は、オオカミを殺った時の性格と正反対の性格で、とてもおとなしくて内気な子豚だったのです。その為、いつもストレスを溜めていました。
そして、今日。そのストレスがピークに達しようとしていました。
「――何とか言えよ! この凡豚!!」
――ブチッ……
実の兄である長男の一言に、四男は遂にキレました。
「うるさいんだよ――とっとと逝け!」
四男は、おもむろに藁人形を取り出すと、呆気に取られている長男から抜いた毛を入れて、心臓の辺りに力一杯五寸釘を打ち込みました。
「うっ――」
とたん、長男は、胸を押さえ込んでうずくまりました。
幸い、四男が呪いにハマってまだ日が浅かった為、長男は三日ほど寝込んだだけで済みましたが、あと四日遅ければ、完璧な藁人形が完成していて、彼の命は無かったでしょう。
お母さんは、(面白がっていたので)四男に
「駄目よ〜」
と、優しく怒っただけでした。
四男の噂は、あっと言う間に広がりました。
「こんにちは」
三日後、きちんとした身なりの豚が訪ねて来ました。
「何か用ですかぁ?」
お母さんは、いかにも面倒くさそうに返事をしました。
「噂は伺いました。今日は、その事件でお願いがありまして――」
そんな態度は気にも留めず、豚は書類を取り出してお母さんに渡しました。
「……魔術研究会ぃ? 何それ」
お母さんは、ますます胡散臭そうに豚を見返しました。四男は横で聞いていましたが、取り合えず黙っていました。
その視線をさらりと流して、豚はお母さんに言いました。
「早速ですが、息子さんを、是非、うちの会にと思いまして。――勿論、謝礼はお出ししますから」
是非、の部分を強調して言う豚の、『謝礼』の一言に、お母さんはピクリと反応しました。
――もしかして……
四男の脳裏に、確信に近い不安が掠めました。
「是非! お願いしますぅ!!」
詰め寄るようにそう言ったお母さんの目は、既に¥マークに変わっていました。
「それは良かった」
豚は、満足そうに何度も頷いていました。
四男は、目の前で謝礼を受け取るお母さんを見ながら、ただ呆然としていました。
「――それでは、帰るとします。四男さん、行きましょう」
ようやく我に返った四男は、慌ててお母さんに訴えました。
「や、ヤダよ! 行きたくないよ!」
振り向いたお母さんは、睨みを効かせて脅したっぷりに言い放ちました。
「問答無用! 行きなさい!!」
「ひィ――」
四男は、渋々豚に付いて行きました。
◇ ◇ ◇
『魔術研究会』に来て三日。
四男は、
――ここに来たのも仕方がない
と、思うようになりました。
更に四日。初めは優しかった会の豚達は、日に日に厳しくなってきました。
「四男! とっとと掃除しろっ!!」
毎日、毎日。四男は魔術をやらせてもらえず、掃除などの雑用をやらされました。
――こいつら……ぶっ殺す!
恨みが溜まりに溜まったある日、遂に、四男は行動に出ました。
――死ねばいいんだ、呪い殺してやる、逝け、逝け、逝け、逝け、逝け、逝け、逝け、逝け、逝け、逝け、逝け、逝――……
四男は、一晩中恨みの念を飛ばして、まだ力が未熟だったために殺すことは出来ませんでしたが、『魔術研究会』の豚達全員の正気を失わさせました。
四男は、その日のうちにお金を盗み出して、二日後、家に帰り着きました。
◇ ◇ ◇
その後、四男はそのお金を、新たな趣味の発明に使いました。
ちなみに、四男の性格は、この時から捻くれたのでした。それから、四男の発明には、『魔術研究会』での体験が大いに役立っているのでした。
―めでたし、めでたし(?)―