第二話「続・四匹の子(?)豚」
兄弟を食べたオオカミを売り飛ばした四男は、しばらくして、お母さんに呼ばれました。
「お前は、一人っ子になってしまったから、あの無能な兄に代わって、新しく三匹養子に貰ったよ。仲良くしな!」
そう言ったお母さんは、四男と同じくらいの子(?)豚を三匹、連れて来ました。
子(?)豚達は、順にお辞儀をし、言いました。
「長男です」
「次男です」
「三男です」
その後、四男は外に連れ出されました。そして……、
「お前、四男なんだから逆らうなよ!?」
「金有るんだろ? 出せよ!」
「俺達の事を義母さんに告げ口したらどうなるか、判ってんだろうなぁ? あぁ?」
と、口々に言いました。
四男は、この上なく面倒くさそうにそれを聞いていましたが、とりあえず逃げました。
「おいっ、四男にげたぞ!」
子(?)豚達は、四男を追いかけました。
湖の畔に来た四男は、中央の島にある自分の家に向かって、泳ぎだしました。
「待ちやがれっ!」
そこに追い付いた長男が、四男を追って泳ぎだしました。
後ろから泳いでくる長男の様子を、小島にたどり着いた四男は、ニヤリと笑いながら眺めていました。
――何であんなに速いんだ?
もがく様に泳いでいる長男は知りませんが、それも、四男の趣味の一つの、発明が関係しているのでした。
「ぐわっ!?」
……と、不意に、長男は水面下に引きずり込まれて、姿が見えなくなりました。
――ぐ……ぐるじ……ひぃ……
その三段のお腹には、しっかりと網が絡み付いていました。
しかし、溺死するその前に、ようやく追い付いた次男と三男が、長男を助け出しました。
「ぐぇほっ……ぐぉほっ……」
長男が、酷く咳き込みながら小島を見ると、四男はすでに家に入った後でした。
子(?)豚達は、
「義母さんに言いつけてやるっ!」
「覚えてろっ!!」
と言い、お母さんに言いつけに行きました。
「お義母ぁさぁ〜ん、湖で四男にいじめられたぁ〜」
お母さんの家に着くと、子(?)豚達は早速、お母さんに言いつけました。
「お前らが悪い」
お母さんは、子(?)豚達にあっさりとこう言いました。
子(?)豚達はお母さんに聞こえない所で、チッ、と舌打ちしました。そして、リベンジに向けて、新たな作戦を考えていました。
◇ ◇ ◇
―数日後―
子(?)豚達は、新たな作戦を思い付きました。その作戦とは………………題して、「餌で釣って誘い出そう作戦」。
作戦決行の日。子(?)豚達は、様々な餌を用意しました。
林檎、パパイヤ、パイナップル、梨、バナナ、葡萄、キャベツ、キュウリ、レタス、ジャガイモ、カボチャ、ナス、トマト、人参、大根、雑草、ひょうたん、パン、飼料、豆腐、ひじき、味噌汁、ハンバーグ、ラーメン、ステーキ、キャビア、フォアグラ、トリュフ…………………。
掛かった費用は、総額三〇〇万円。そんな大金、どこで手に入れたかは内緒です。――ま、まさか、そこらへんで財布をあさってなんか、い、い……いませ、ん……よ……。
そして子(?)豚達は、餌を湖の畔に並べ、近くの茂みに隠れました。
―数時間後―
辺りはすっかり暗くなり、空には星が出ていました。
「むぬぬぬ……あいつ、いつになったら出て来るんだ」
そう唸りながら、三男はすっかり眠りこけるている長男と次男を見ました。
「兄さん達、寝てるし……」
やがて、三男も眠ってしまいました。
―数十分後―
三男は、水音が聞こえる気がして、目を覚ましました。
「ぬわぁ! あ、兄貴ぃ、あいつが居るぜぇっ」
三男の叫び声に、長男と次男は慌てて飛び起きました。暗闇の中、水面を揺らして、誰か――四男が泳いでいました。
「くそっ! あいつめぇ……」
地団駄を踏んでいる長男の横で、次男が悲鳴をあげました。
「あぁぁぁぁぁぁぁ! さ、財布がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! な、なくなってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
長男と三男は、自分達の財布も無くなっている事に気付きました。
「お、俺のもだ……」
「全財産……」
そのやり取りを聞いていたのかいなかったのか、水面はやがて静かになりました。三人は、その後数日落ち込んでいたそうな。
しかし、失敗ごときで諦める子(?)豚達ではありません。用意した食材を片付け(やけ食いし)ながら、再びリベンジを誓い合ったのです。
◇ ◇ ◇
―更に数日後―
「これに落としてやる……」
落とし穴を掘りながら、長男は怨めしそうに呟きました。
「頑張ろうぜ兄貴!」
「オーッ!!」
次男と三男が意気込んで、落とし穴は、それから数時間で完成しました。
「四男を呼ぶぞ」
湖の畔に来て、長男は言いました。次男と三男は頷いて、大きく息を吸い込みました。そして、
「「「おーい、四男の兄貴ぃーっ!!!」」」
子(?)豚達は、声を揃えて四男を呼びました。
「は?」
四男は、かなり不思議に思いながらも、とりあえず出て行きました。
すると向こう岸には、気持ち悪い程の笑顔を浮かべた子(?)豚達が両手を振っていました。
「兄貴ーっ! 増やし鬼しよーぜー」
と言いながら。
――何なんだ? こいつら。気色悪りぃ……
どん引きした四男でしたが、しつこくせがまれ、渋々増やし鬼に参加することになりました。
「最初はボクが鬼をやる」
と、長男が言いました。
――こいつ、「ボク」なんて言ってたっけか?
四男は不審に思いましたが、雰囲気にながされ、とりあえず逃げました。
――このまま行けば落ちる……っ!
追いかけていた四男が、狙った方向へ逃げているのを見て、長男が思わずニヤけました。
――こいつ……何か企んでるな……ん?
それを見ていた四男は、前方に、まだ新し土を掘り返した跡を見付けました。
――ハハ〜ン、そうか……なるほど。
四男は、全てが解ったような、勝ち誇った笑みを浮かべました。
――そっちがその気なら……
四男は、
「待て〜っ、兄貴〜っ」
と、ウザく迫ってくる長男をかわし、落とし穴を避けて行きました。
「チッ!」
子(?)豚達は、そろって舌打ちしました。
「頼む!」
疲れが溜まってきた長男は、次男に参戦を求めてタッチしました。
「任せとけ!」
そう張り切る次男でしたが、日頃運動などしないので、すぐに疲れてしまいました。
「な……ハァ……何で? ……ハァ、あんな……ハァ、スタミナ……ハァ……が? ……。」
何故、四男のスタミナがこんなにあるのかと言うと……暇を持て余している四男は、得意の発明で日々体を鍛えているのでした。実を言うと、早く走れるのも、発明と関係があるのでした。
「三男! 協力しろっ!」
ついに三男も加わって、四男を追いかけ始めました。
――ウザッ! そろそろ終わらせよ……
四男は、子(?)豚達を十分に引き付けると、落とし穴をジャンプで避けました。
「「「えっ!?」」」
―――ドッシ〜ン!
子(?)豚達は、自分で掘った落とし穴に、見事なまでに落ちました。
「「い……いってぇ〜」」
「く、くっそぉぅ……」
子(?)豚達の落ちた穴を覗き込んで、嘲笑う様に、四男は言いました。
「フッ、バカめ……俺に手を出したやつは、作者に遊ばれるのだ。死ね! 愚輩!!」
四男は、穴に大量のアルコールを流し込みました。そして、不適に笑いながら一言、
「――燃えてろ」
と言い、火を放ちました。
「ぐはぁっ――」
「うっ――」
子(?)豚達は、焼死しました。
四男が、子(?)豚達の遺体を眺めてると、警察が通りかかりました。
「何をやっているんだ君!」
オオカミなら「殺人罪」で逮捕される所ですが、そこは四男。すかさず賄賂を取り出しました。
「こ、これは……一〇〇〇万……円……!!」
四男が賄賂を投げ渡すと、警察は、
「頑張って下さい、親分!」
と言いながら、何事も無かったかの様に立ち去って行きました。
火が消えるのを待って、四男は、子(?)豚の遺体が横たわる穴に石灰と水をかけ、二日後にセメントを半分程流し込み、綺麗に埋め戻しました。
◇ ◇ ◇
四男はその後、念には念を入れて、その上に家を建て、豚に貸しました。――子(?)豚達が発見されるのは、一二〇年後の事。
子(?)豚達が居なくなっても、お母さんは探しもせず、
「またバカだったのね。見る目が堕ちたかしら?」
と、呟いただけでした。
四男は、この数年後に同じ性格の豚と結婚し、幸せに(?)暮らしました。……はい。
……ただ、一〇年で豚が謎の死を遂げて、四男に保険金がガッポリと入った事は、今でも判らないままなのでした。
―めでたし、めでたし(?)―