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花影にゆく  作者: 百瀬ゆかり
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4 それでも大切なもの

改稿前は親戚の子どもたちとの話がほぼ無かったので追加していました。次回は少し、過激になるかもしれません。


苦手な方は次の話を飛ばすといいかもしれません。次回の前書きにも追加します。

あれから数日明けてから、僕は親戚の子どもたちを連れて山へ出掛けた。春を探しに行ったのだ。

図鑑を片手に、足元に咲くものの解説付きで。

タンポポや桜、つくしに白詰草。

春ならではのものを教えてはスケッチさせた。


個々にたくさんのスケッチが溜まってから本家へ戻る。与えられた規定ルールがとてもゆるいので画用紙を個々に好む緑色に塗らせてから乾燥を待つ間にスケッチした植物に彩色をさせた。


それからハサミを使わせた。

貼り合わせすることも立派な技法だ。

筆だけを使うのがアートではない、楽しく作ることが図工や美術な好きになる通り道になればいいなという自分のエゴも入っている。


皆の思い思いの作品を完成させたことで自分の与えられたものが終了した。親戚には終わったことを伝えれば少しばかりのお礼と和菓子を渡された。



大仕事を終えて、部屋にこもっているであろう佳乃の元へ訪れるために甘味処を寄った。


「いらっしゃい」


ここはどちらかというとお菓子だったらなんでも屋とも言えるレベルで揃ってる。

和・洋・中は大体揃ってる。

時々、店主がふらっと海外の珍しいお菓子を仕入れてきたりする猫のようにきまぐれなお店である。

営業時間・開店及び閉店時間・販売数のほとんどはこれといって決まっていない。

店主の気分で店の状況が変わる。


そのせいか自分も時々しか立ち寄らない事が多い。


「今日は何がおすすめ?」


「甘酒と豆大福かね」


「え、すごく甘そうだけど」


チョイスがあまりにも適当だったせいか不安もあってつい聞いてしまった。


「まぁ~た、悠ちゃんはよしちゃんの所に寄るんじゃろ。ここ最近、寒い日が続くから何か温かいものでも飲ませなさいよ」


……なるほど。先人はそこまで考えて物進めてくるのか、侮れない。


「ついでにココア粉末も」


「なんだ、悠ちゃんはブレンド珈琲の奴じゃないのか」


「あれは仕事に取り組むために飲んでるんです、普段はもっぱらココアですよ」


「けっけっけ」


年を食うとこんなにも不気味なのか。

何となく自分が幼い時に叔父が快活過ぎる気味の悪い先人を確か妖怪・化け物とか呼んでいたのを思い出す。あの時は先人に対して失礼じゃないのかって子供心で思ったりしたけど、父さん。

やっと理解したよ。確かに不気味だ。


「悠ちゃんはもう大人になったと思ったけど、見かけによらずに君はまだまだお子ちゃまでちゅね~」


叩きたい。このからかってくる先人兼店主を激しく叩きたいって思ったのは初めてだ。


「よしちゃんに宜しくねぇ」


勘定を済ませて店を出る時に、背後からまた気味の悪い笑い声が聞こえた。あの特徴的な笑い方はどうにかならないものだろうか。


「はぁ……」


久々に疲れた気がした。


***


「あら~いらっしゃいな」


いつも佳乃の家に行くと佳乃の祖母が玄関先で迎えてくれる。玄関で靴紐を解いている途中で見覚えのない革靴複数がある事に気付いた。


「僕の他に誰かお客でも来てるのですか」


「あ、佳乃の知り合いって子たちが花を持って遊びに来たんだよ。何だかバタバタと部屋へ向かっていったけど……なんだか慌しかったわ」


「じゃあ、私は居間で」


「いや。悠ちゃん、様子を見てきて」


「え?」


「ここだけの話じゃが」


居間に通されてから佳乃の祖母から事情を説明される。友達を家に連れてくるのはトラブルの元になるかもしれない。もしかしたら相手から遊びに来て欲しいと誘われたり人付き合いなら仕方ないけどなるべくは避けなさい、と教えていたそうだった。


「……はぁ」


「あの子から予定を聞いた時に今日は誰とも約束はしていないと言われたのだけど、急な来客にはやっぱり違和感があるものだ。だから見てきて欲しいんだよ」


「はぁ、まぁ行ってきます」


重い腰をあげるような感覚だった。


「お願いね」


そう懇願されたら、むげに断れない。

そんな体質を恨みつつ佳乃の部屋へ向かう事となった。


***


『……っ!』


『っ、……っ!!』


部屋に近付く度に何か話しているように聞こえるけどまだ離れているせいか所々断片的にしか聞こえない。


遠くの方からガシャン。

何かが倒れるような音がした。

まるで心臓が氷水に浸されたかのように冷たくなっていく感覚に襲われる。嫌な予感。


佳乃……!!


つるつると滑るフローリング状の廊下を小走りで向かう、嫌な予感はどうか杞憂でありますようにと願うばかりだった。

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