9 桜のゆめ
いよいよ最後のページとなりました。
前へと進もうとするその姿は私にはとても眩しく見えます。捜し物の手掛かりがあったら人はきっと探してしまうのでしょうね。
あれから帰ってきた叔父に事情を話した。
部屋に入ったことで思い出したこと、行方不明の兄生存の可能性を信じたい。大学で繋がりのある教授方にコンタクトを取ってお父さんの作家生涯の情報収集に当たることを。
「そうか……兄さんは、副業してたんだな。しかも過去に情報誌で特集が組まれていたなんて知らなかったし盲点だったよ」
叔父は珈琲の水面を揺らす。
あまり功績を自慢する体質ではなかったから身内でもこんな印象を受けたんだろうなと思った。
「それでね、父さん。最近SNSで話題になってるアーツ諸島を知ってる?結構昔に海外の大富豪が国から土地を買収して各国に散らばっている芸術家や卵に芸術系大学の誘致をして島全体が美術館になってるって話なんだ」
ノートパソコンを叔父へ渡す。
そこには絵画から彫刻、アクセサリーに至るまで職人や芸術家と言ったものづくりに特化した人々が集まる国のようなものが出来ている。
「まるで小さな国みたいな場所だな」
叔父に見せたい本命を画面へ映す。
とある人のブログで写っていた画像が部屋にあった兄の写真を成長させたものにそっくりだからだ。
「これ、父さんはどうみる?左眉付近のホクロに右耳にあるホクロ。可能性はゼロではないと思うんだよ」
「……彼の名前はわかるのか」
「彼は円谷 悠一。下の名前まで同じだと……気になるんだよね」
「そうだな。今度、日を合わせて会いに行ってみようか」
父さんの中で燻っているものが取り除ければいいのだけど……それはまだ先の話。僕が加わったことで事態が少しでも進展している、そう思いたかったんだ。
アーツ諸島、大富豪の箱庭。
そこにはなにかがある。
***
始業式を終えてから佳乃と桜が咲き誇る裏山に足を運んだ。桜並木は、春風に揺れて薄紅色の花弁を風に運ばせて足元の絨毯となる。
「着いたよ」
「わぁ、とても綺麗ね」
裏山から覗く景色はペールトーンで纏められた一つの景色画のようだった。いつもこの時期は学業で忙しくなるから彼女は知る機会はほとんど無かっただろう。景色に見惚れている間に事前に購入していた桜の簪を佳乃の髪に差し込んだ。
「佳乃」
「……なに、悠二兄ちゃん」
彼女は、はにかみを浮かべる。
もう迷わないためにも彼女に宣誓を立てることにしたんだ。
「僕の気持ち、聴いてくれるかい」
「うん……聞かせてくれる?」
すりすりと猫のように腕の中へ飛び込んでくる。
さきほど、まとめ上げられてた簪がシャラシャラと音を立てている。心地良い音だ。
「僕は、佳乃のことが好きだよ。
……その、君の気持ちは変わりない、かな……?」
顔を合わせずに言い切るつもりが羞恥心がじわじわと迫り言える言葉は尻すぼみになってしまった。
「……私はずっと、ずっと小さい時から悠二兄ちゃんのことが好きだよ。もちろん親愛もあるけど……その、恋愛対象として見てました」
佳乃は顔を埋めたまま、返事をもらう。
両想いというか、関係性の変化が起きたと思っていいのかな。
「佳乃、『兄ちゃん』って飾りを外して名前を呼んでくれないかな」
え?と瞳を大きく見開いていた。
すぐに耳が赤く染まっていくのを見ていれば。
蚊のなく声で「ゆ……っ、ゆーじ」と上目遣い混じりの睨みをもらった。
「そっか、『ゆーじ』か。今はこれで許そう。
次第にはちゃんと悠二と呼んでもらうから1人で頑張って練習してくれよ」
額に唇を寄せると、何やら彼女は不満げな顔をしている。関係性は幼馴染であっても年齢差があるし、立場はまだ高校生と教師でもある。
不純異性交遊なんで冗談じゃない。
「ゆーじ……お兄ちゃんの意地悪っ」
そう言って彼女は暴挙に出たのだ。
ネクタイを思いっきり引っ張って、頬に唇を押し付けてきたのだった。頭1個と半分の身長差が佳乃のプライドが見事に打ち砕いた。
「ちゃんと、私、大人になるから……逃げないでよね。悠二さん」
そう宣言をした彼女は幽玄桜のような儚さなんて吹っ飛んで、堂々と咲き誇る大樹の桜みたく生命力溢れる瞳をしていた。
花影にゆくハズだった気持ちが繋がった。
もう離すものか。
君の隣には僕がいる未来を描かずにはいられない。
了
この物語のあとがきは
活動報告の方へ移すことにしました。
無事に物語は完走、読んでいただきありがとうございました!




