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運命の日~夜明けの輝星~  作者: 上総海椰
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2-4 その平原に降り立つ者たち

その日の空には雲は一つとしてなかった。

何処までも青く澄んだ空。

日は西に傾きもうじきその空は橙色に染まるだろう。

それは魔王の教会側の返答期限を迎えるということを意味している。

それにあたって教会側の陣営は少しずつ慌ただしくなり始めていた。


魔王戦争が始まるのだ。


そこにいる誰もがそれを疑いはしないだろう。

絶対に負けるわけにはいかない。

負ければ教会の、いや人類の歴史が終わる。

誰もがその表情に緊張の色を浮かべ、武器を握る手に力を込める。


そんな慌ただしい教皇陣営で最も早くそれに気づいたのは、一人の青年の姿をした者だった。

異端審問官『狩人』において最大戦力にして序列一位の青年。

戦神と呼ぶものもいる。

長い時間の中その姿を知る者は教皇陣営でも一握りだろう。

聖剣と同化したその容姿は二百年前と変わらず、今までずっと魔王と戦い続けてきた。

第二次魔王戦争末期では人間側の指揮を執り、魔王軍と戦った。

第三次魔王戦争では先頭でその死霊の軍勢と戦い。

第四次魔王戦争においては数多くの魔法兵器を破壊してきた。

教会において、いや人類において最終兵器といっても過言ではない。

その彼だからこそその異変にいち早く気付いた。

彼は険しい形相で南の空を見ていた。

「どうしました」

隣にいる伯爵がその異変に気づく。

「来る」

そのソウの表情からただならない何かが起きているということをバルドラックは感じ取る。

「一体何が?」

ソウはバルドラックの声に応えることなくミリオスの天幕に駆ける。

天幕の中で報告を受けていたミリオスはいきなりのソウの来訪に驚く。

「ミリオス、状況が動く、備えよ」

いきなりのソウの声にミリオスは背後に立てかけておいた聖剣エウラーダを手に取る。

「魔王軍がですか?」

ミリオスはその場にいる者たちを下がらせソウに近づく。

「いや、南からだ」

「南?」

状況が全く読めずミリオスは怪訝な表情を見せる。


遥か上空ツアーレンは一人風に吹かれていた。

彼こそは幻獣王ツアーレン。

天空の支配者であり、塔の番人。

懐かしい力を感じ取り、閉じていた目瞼の橋がピクリと動かす。


「これは一体」

コーレスを包み込む対魔結界が揺らいでいた

ニルヴァ自身、外的な要因で結界が揺らぐのは初めての経験である。

ニルヴァは結界と意識を同化し、揺らぎの元を探る。

それが失敗だったと気付くのはそれほど時間はかからなかった。

攻撃されたと勘繰ったが、攻撃された形跡はない。

魔王軍にも何も変化は見られない。

結界を取り扱って今までこんなことは初めての経験である。

ニルヴァは首をかしげていると、次の瞬間、黒い影がコーレスを通り抜ける。

それが原因であることはニルヴァは一瞬で感じ取った。

結界と同化した知覚がそれをニルヴァに伝える。


途方もなく暗く深い闇がそこにはあった。


それを知覚したニルヴァは全身が震えている。

冷や汗が全身から噴き出し、その場に膝を落とす。

「ニルヴァ様?」

横にいた従者が声をかけるもニルヴァはうずくまって何も答えようとしない。

「…」

第四魔王の時もこんなことにはならなかった。

それ以上の次元の存在がそこにはいた。


敵味方は区別なくそれぞれがその存在を瞳に捕らえる。

南から巨大な影が迫ってくる巨大な黒の竜の姿を。


「魔力…じゃない」

まるでその場がすべて包み込まれたかのような重圧。

これだけ遠くにいるはずなのに息をするのもきつい。

誰もが動けずにいる。逃げる以前にその竜から目が離せないのだ。

「あの竜…まさか…」

聖都を覆うほどの巨大な影、これだけ巨大な竜は伝承にある一対だけ。

最強にして最大、至高の頂にいるとされる幻獣王。

「黒竜王」

それを一度見たことがあるポルコールは顔をしかめながらそれを口にする。

両陣営が抵抗する気すらなくなるほどの力を持つその巨大な竜は優雅に空を舞う。


敵対すれば人間などその前では無力だと感じ取れるだけの莫大な存在感。

聖都コーレスなどその気になれば瞬きほどの合間に消し飛ばせるだろう。


巨大な黒竜は悠然と教会の陣営のゴラン平原に降り立つ。

誰もが唖然とその姿に見入っている。


黒竜は背中にいる二人の人間を下ろすと一人の黒髪人間の姿に変わる。

艶やかな長い黒髪をなびかせ、顔には仮面をつけている。

黒服に身を包み、長い長剣を脇に差している。


もう一人もまた仮面をつけ、とんがり帽子をかぶっている。

黒いローブのようなものを着て宙に浮いている。

背後に八つの黒い球があり、非常にゆっくりとだが回転している。

その姿は異様であり、不気味ですらあった。


そんな奇妙な二人の中央にいるのは杖を手にした一人の少女。

輝く金色の髪をたなびかせ、儀式用の白のローブに身を包む。

凛としたその碧の宝石の如き双眸は真っ直ぐにカロン城を見据えていた。

戦場とは凡そ無縁の場所に立つ、その姿は神々しさすら感じられた。


こうしてその三人がゴラン平原にやってきた。

そして、ゴラン平原にすべての役者が揃った。かくてその舞台の幕が上がる。

この日新たな歴史が刻まれる。

フィアの到着によりいよいよ事態が急変します。


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