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運命の日~夜明けの輝星~  作者: 上総海椰
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2-3 雷洸姫対魔王

ココルはヒルデの背中を見ながら夢中で駆ける。

声など上げる余裕などない。追いつくだけで精一杯だ。

不意に先頭を走っているヒルデが急に足を止める。

わけがわからずココルもそれに習い足を止めた。

階段の上から一人の少年とカランティが二人を見下ろしていた。

「鼠が我の城の中を動き回るか」

その言葉にココルはまるで電撃で打ち抜かれた感覚を覚えた。

声の主は当然のように我の城と言った。そう言い切る存在はこの城の中で一人しかいない。

さらにそのわきにいるのは忘れもしない。魔女カランティだ。

答えは容易に出ていたが、思考がそれを認めることを拒否している。

それが事実ならその少年はこの城でもっとも遭遇したくないはずの存在だ。

「ずいぶんと若くなったじゃないか、見違えたぞ。第五魔王ポルファノア」

不敵とも言える視線をヒルデは声の主に向ける。

「憶えている…あの時、カーナの脇にいた子供か」

二人を確認したポルファノアはゆっくりと階段を下りてくる。

二人の空気に飲まれていたココルをヒルデが肘で叩く。

「お前はヴァロを助けに来たんだろう。私はあいつに用がある」

ココルはヒルデの提案に驚き、ヒルデの横顔を見つめる。

それは一匹の美しい獣を連想させた。

「ヒルデさん…」

ヒルデが一流の魔法使いであることはわかっているが、相手は教会を敵に回せるほどの相手である。

さらに四百年前に教会相手に魔王戦争を仕掛けた古の魔王。

どう考えても分が悪いと言わざる得ない。

「いいから行け。お前がいても足手まといだ」

その言葉にココルは自身の力のなさを痛感する。

「ヒルデさん、御無事で」

ココルは一礼すると反転し駆け出していく。

「てっきり二人がかりかと思っていたが?」

階段から降りてきたポルファノアは不思議そうにつぶやく。

「私一人では力不足だと?」

「ならそれを我に証明してみせろ」

ポルファノアは不敵に笑む。

「あらためて歓迎せてもらう。私がポルファノア。人間からは第五魔王と呼ばれている」

「はぐれ魔女のヒルデだ」

そっけなくヒルデは返した。その様子に怯んだ様子はいささかも見られない。

それを感じ取りポルファノアは嬉しそうな表情を見せた。

「気に入ったぞ、ヒルデ。カランティ、手を出したら殺す」

階段の上で魔法式を練っていたカランティをポルファノアは睨む。

その一睨みでカランティは構成を四散させた。

「…リュミーサを殺したのだな」

ヒルデの表情は変わらない。

緊張感により空気がちりちりと皮膚を焦がすよう。

まるで異界にでも放り込まれたかの印象をカランティは感じていた。

異邦と接するミイドリイクにおいて約三百年もの間魔物の侵入を許さなかった魔女。

「カーナ四大高弟だったか?存外あっけなかった。お主は違うのか?」

「どうだろうな、愉しむ前に終わってるかもしれないぞ」

「はっはっは、カーナの忘れ形見よ、我を愉しませるがいい」

二人はその部屋の広間で対峙する。

「その場所まで五歩と言ったところか」

ヒルデは手袋をはめ、靴先で地面をたたく。

「なにを言っている?」

「距離を誤ると私も無事では済まないのでな」

その直後、ヒルデの姿がポルファノアの視界から消える。


ヒルデはポルファノアの目の前にあらわれた。

凄まじい速度で魔王との間合いを詰めたのだ。

驚異的なまでの速度は人の反射を超えた移動。普通のの人間の目では追うことはできない。

ただし、それは術者も例外ではない。

術者からもその移動は知覚できない。

そのために距離を見誤れば対象と激突するおそれもある。

だからこそヒルデは距離を正確に測る必要があったのだ。


雷を纏った拳が魔王に吸い込まれていく。有無も言わせぬ拳の連打。

ポルファノアを護っていた魔法壁が一瞬で破壊され、ポルファノアめがけて拳が向かう。

二人のいる部屋に雷撃が荒れ狂う。

肉の焦げる匂いが辺りに充満する。

「ポルファノア様」

たまらずカランティが叫び声を上げる。

「このまま終わりにしてくれる」

途切れることない雷を纏った拳打がポルファノアの体を焼いていく。

不意にヒルデは左腕をつかまれる。

「なに?」

ヒルデは強引に掴まれた腕を引きぬくと背後に跳躍してポルファノアと距離を取った。

手ごたえならある。これは幻の類ではない。

人間ならばすでに数百回は死んでいてもおかしくはないほどの拳の連打だったはずだ。

だがポルファノアは膝を折ることなく、それどころか腕をつかもうとしてきた。

ヒルデは相手を注視する。

普通の人間ならば即死のはずの攻撃だ。

「やれやれ、着衣が台無しになってしまった。これは少々高くつくぞ」

頬の肉は焼け焦げ、歯は露出し、顔面には皮膚すら残っていない。

体の肉は削がれ骨はいくつか露出している。

見るからに生きているとは思えないが、ポルファノアの肉体は急速に回復した。

「相性は最悪か」

一方で掴まれたヒルデの左腕の肉がえぐられている。

迷うことなくヒルデは出血している部分を雷で焼き、出血を止める。

ヒルデの判断が少しでも遅れていれば左腕は失われていた。

ヒルデの攻撃は確実に相手を捕らえていた。

こちらの最大出力に近い打撃をまともに食らって肉の焼ける匂いはあった。

だがそれでもポルファノアは膝を折ることはしない。

その上魔法式を使った形跡も見られない。

つまり考えられるポルファノアの固有魔力は再生に類似するもの。

そして腕をつかんだ力から考えられることは肉体を強化できる類のものだろうとヒルデは判断する。


ヒルデは肩の力を抜き、自然体になった。

彼女の周囲から溢れ出ていた魔力が嘘のように消え失せる。

「これはあの男用に温存しておくつもりだったんだがな」

ヒルデは両手を合わせる。

体から雷があふれ出る。

それこそがヒルデが雷洸姫と呼ばれる所以。

魔力が直接雷に変換され、彼女の体から雷が溢れる。

それは魔法によるものではない。

「固有魔力…」

カランティはそう言って顔をしかめる。

カーナ四大高弟と聞いていたが、魔族の血を引いているとは聞いていない。

対峙するポルファノアは口端を釣り上げる。

「交じり者だな。それも相当上位の魔族の…」

ヒルデは構えを取る。全身から雷が噴出している。

これこそが『雷洸姫』と彼女が呼ばれる所以。

「魔族の混じり者でありながら我に敵対するか。我の考えには賛同できぬか?」

「知らんな。私の出自に興味はない。だがカーナの作ったこの世界に敵対するのならおまえは私の敵だよ。ポルファノア」

ヒルデの一言から意志の固さがひしひしと伝わってくる。

彼女が退くことはありえない。

それはそれを聞いた者ならだれもがそう感じさせるほど。

「それなら、こちらも本気で相手をしなくてはなるまい」

ポルフェノアからどす黒い魔力があふれ出る。

それはポルファノアの足元に広がっていく。

影から黒い無数の生き物が顔を出す。

有象無象のそれらはすべてに意志があるように別々の動きで影から出ようとしていた。

一触即発、互いに必殺の一撃を繰り出さんとするはりつめた静寂。

カランティは息を飲みその光景を見守っていた。

その時、二人ははるか南からくる異常な気配に気づき顔を同時に向ける。

窓から見える南の空を二人は見ていた。

カランティは何が起きたのか理解できずにいた。


ポルファノアが視線を戻すと、ヒルデの姿は消えていた。

「逃げたか」

つまらなさそうにポルファノアが呟くと周囲から影の魔獣群が消えていく。

彼は踵を返すとカランティからマントを奪い取り、それを羽織る。

「追いますか?」

カランティはポルファノアに問う。

「いや、捨て置け。これからくる敵に備えよ」

「敵と?」

はっきりとポルファノアは敵と言った。

「南からだ」

ポルファノアのその言葉に咄嗟にカランティは結界を通じて南に集結しつつある教会軍に視線を向ける。

だが動いている様子は見られない。

わけがわからずカランティは眉をひそめる。

「魔導砲の用意を。我はぼろぼろになった服を取り換えてくることにしよう。どうやら決戦は思いのほか近いようだ」

ポルファノアはそう言い残すとその場を去っていった。

この戦闘書きたかった。

一触即発のぎりぎりの戦い。いいねえ。

あー、楽しかった。

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