4-2 神法使用
ほの暗い闇の中でその男は一人笑う。
今回のポルファノアの引き起こす魔王戦争。
それは彼にとって手段でしかなかった。
本当の目的は『パオベイアの機兵』の性能を試すこと。
『アデンドーマの三忌』とまで言われ幻獣王共を手こずらせるほどのものだ。
大陸中に拡散していき、それを繰り返す。
増殖することが脅威ならば増殖させればいい。
それを抑止する力をもたない人間界からは生物は居なくなるだろう。
一回でダメならばそれを永遠に繰り返す。
いずれ人間の住む場所は『パオベイアの機兵』で埋まる。
アデルフィは『パオベイアの機兵』を嫌っている。
そうなればアデルフィは躊躇なく人間界を消滅させる。
この大陸から人間の住む場所は無くなるだろう。
彼の目的とする永遠の闘争が幕を開ける。
すべての人間をこの星から消し去るまで。
今回はその前座にしか過ぎない。
二人の大魔女は消え、教会は長い時を経て弱体化した。
すべての舞台は整った。
「さあ、ポルファノア、派手に暴れてくださいよぅ。…他ならぬこの私のために」
クファトスの作り出した映像越しにクーナとヴィヴィはそれを見ていた。
その映像の中で仮面をつけたドーラが土を媒介として二つの魂を召喚する。
その工程はクーナも得意とするところだ。
だからこそクーナは同系統の魔法を使うためにその恐ろしさがわかった。
「疑似生命…それも『爵位持ち』を降ろしたの?」
クーナはエドランデという『爵位持ち』は一度戦った上に、その姿に見覚えがあった。
『魔功』を使う体術に特化した爵位持ち。
クーナの使う土人形をやすやすと破壊し、フィアの重力魔法ですらその足を止めることができなかった。
別次元の怪物。対峙したあの時を今思い返しても震えがくる。
「…『爵位持ち』ですって」
ヴィヴィは顔を引きつらせる。
『爵位持ち』と言うのは異邦最強の戦士である。
実力主義の異邦、魔族の治めるゾプダーフ連邦において爵位とはただの序列のカタチでもある。
一体一体が教会の定める魔王にも匹敵すると言われ、上位であれば人類最強の聖剣使いですら倒すことができないと言われている。
「ドーラは一体…」
振り返ればクファトスの姿はいつの間にか消えていた。
「ぐおおおおおお」
その咆哮を発するとドーラにより召喚された魔族グロファスが二本の黒い刀を投げつける。
それは一瞬にして魔獣たちのいる敵の本陣に到達し、いくつもの命を刈り取っていく。
さらにグロファスは土煙を上げながら右翼の魔獣部隊に走ってつっこんでいく。
魔獣たちは迎撃するもその足を止めることはできない。
グロファスは魔獣のただ中に跳躍し、投げた双剣を空中で手に取ると次々と魔獣を薙ぎ倒していく。
抵抗がないわけではない。あまりに早すぎるその動きについていけないのだ。
目の前に来たと思えば既に後方に駆け抜けている。
さらに敵陣を駆け抜けるように戦っているために同士討ちになるために魔獣たちは身動きが取れない。
まさにグロファスの独壇場である。
一方でエドランデも負けてはいない。
左翼の死霊兵団の真ん中に飛び込むなり黒い棒を振り回し、死霊を蹴散らす。
剣や槍で反撃しようとするもエドランデには届かない。武器のリーチが違い過ぎるのだ。
弓矢で反撃を試みるも矢は悉く黒い棒に叩き落とされる。
それはまさに暴風。ゴラン平原に展開されていた軍勢がなすすべなくただの案山子のように倒されていく。
魔獣部隊も死霊兵団が決して弱いわけではない。
魔獣、死霊が単体でも一般の人間十人分以上の戦力に匹敵する。
だが反撃を繰り出そうとするもその二体の前に手も足も出ない。
召喚された魔族が圧倒的なまでに強すぎるのだ。
魔力は無いとはいえ体術に特化した『爵位持ち』と元『爵位持ち』。
見た目は岩の塊だが、それは実物のそれを表現していた。
双翼に展開していた化け物たちがみるみる数を減らしていく。
両軍の兵士たちは目の前で繰り広げられる光景に固唾を飲む。
誰がその一方的な展開を予測しえたであろうか。
黒い双剣をもった巨像の振るう一薙ぎが十数匹という魔獣の命を奪う。
黒い棒をもった巨像の繰り出す一振りが十数匹という死霊のカタチを奪っていく。
あれほどいた魔獣、死霊の群れがあのとんがり帽子をつけた男の召喚した人形になすすべなく倒されていく。
そんな中見るに見かねて『道化』が動き出す。
「『パオベイアの機兵』で中央の術者を討ちますよぉ」
道化が城壁の上に立つ。
見せつけるには今しかないと判断した。
勝敗などどうでもいいが、これ以上こちらの戦力をそがれるわけにもいかない。
「『パオベイアの機兵』よ。前進し目の前のすべてを跡形もなく食らい尽くせ」
道化の男が叫び声を上げると一斉に白い機兵たちが行進を始めた。
それを見て待ち構えていたかのようにドーラはクファトスから受け取った石を取り出した。
「フィアちゃん、足止めを頼む」
「はい」
ドーラは手にした石を砕いた、とたん光が石の中から溢れ出す。
その光の粒子は光り輝く文字を作り出していく。
フィアは視線をドーラから白の機兵に戻すと、魔法式を描き始めた。
直後フィアの背後に巨大な魔法式が出現する。
「いきます」
フィアがそう言うと平原の中央に巨大な竜巻が出現する。
それは大魔法と言っても差支えないほどの規模の魔法である。
『パオベイアの機兵』は吸い込まれるようにその竜巻の中に吸い込まれていく。
竜巻を構成する魔力を吸収し暴走し始めているが、宙に浮いているために何もすることができない。
『パオベイアの機兵』は巨大な竜巻に翻弄されながら目を赤く光らせている。
まさに張り子の虎。
フィアは『パオベイアの機兵』をもっとも警戒していた。
フィアはミイドリイクにて対峙した当人である。
あの白い機兵がどれほど危険なものなのか。
あの白い機兵がどれほどおぞましいものなのか。
彼女自身だけならば手に負えるものではなかった。
パオベイアの機兵を前に今のフィアでもせいぜい足止めが出来るぐらいである。
だが今はドーラがいる。
そのドーラからは足止めをするように言われた。
破壊はできないが、足止めならば今の自分にも可能だ。
ドーラの周囲には光り輝く魔法式がみるみる構成されていく。
「『パオベイアの機兵』の制御は『星の民』リュミーサたちでもできなかったのサ。だからこそ封印するしかなかったんダ」
ドーラの周囲には怖ろしく高密度の魔法式が展開している。
それは後に球体型術式と呼ばれる魔法式である。
「王様行くヨ」
かつて魔王と呼ばれたドーラが王と呼ぶ者はこの世に一人だけ。
ドーラを取り巻く光がはじける。
そうして再びこの世界に『世界振』が発生した。




