4-1 『爵位持ち』の召喚
カロン城内は混乱していた。
こちらの切り札の魔導砲が防がれ、そして破壊された。
さらにもう一つの切り札の屍飢竜まで一瞬にして破壊されてしまった。
そのあり得ない事実に打ちのめされる間もなく、相手はこちらに歩いて向かってくる。
「何だあの奇妙な三人組は」
シレは唖然として平原を歩く三人組を見ていた。
両陣営ともその三人の動きに注目が集まっている。
少女は魔導砲の一撃を真っ向から防ぎ、黒服の男は屍飢竜三体を瞬きの間に消滅させて見せた。
どちらもこちらの切り札であり、その二つで教会側に大打撃を与える算段だった。
それが悉く防がれたのだ。驚くのも当然と言えよう。
そんな中、クラントはフィアの姿とその脇に浮いている男を見て事の成り行きを把握していた。
仮面をつけ浮いていて背後に黒い球のようなものが浮かばせているが、
ヘンテコなとんがり帽子をつけている姿は紛れもなくあの男である。
「ようやく見つけたぜ」
クラントは口元に笑みを浮かべる。
これほど頼れる援軍は彼にとって存在しない。
「あいつが動いたってことはお前らに勝ち目はねえよ」
動揺が表情に表れているシレとモーリスに対してクラントはにやけ顔で言い放った。
「さて、こちらも攻撃させてもらおうカ」
ゴラン平原の真ん中あたりまでやってくるとドーラがそう切り出した。
「そうですね」
オルカはそう言って一歩前に踏み出す。
「オルカはだめだヨ。君が動けば城が吹き飛びかねナイ」
「…勝手なものですね」
ドーラの制止にオルカはやれやれといった様子で引き下がる。
「ここは僕がやるヨ」
ドーラが指を鳴らす。
「攻撃って…」
目の前にはパオベイアの機兵だけではない。
東には死霊の軍団、西には魔獣の群れがいる。
どちらも十万は下らないだろう。
こちらの数は三名。両方を相手にしたとすれば相当な魔力を消費するはずだ。
そもそも相手は軍勢だ。個人の魔法使いがどうにかできる相手ではない。
「どうするつもりなんですか?」
フィアはドーラが何をしようとしているのか全く想像がつかない。
「フィアちゃん、まあ見てなヨ」
ドーラがそう言うとドーラの背後にある黒い球体の二つが目の前の地面に入っていく。
すると地面の中から二つの巨大な石像が現れる。
どちらもその大きさは一軒屋がすっぽりとはいるぐらいはあるだろうか。
ドーラは巨像の背後にそれぞれ魔法陣を展開する。
「召喚」
魔方陣からは光の玉のようなものが現れ石の中に吸い込まれる。
するとぽろぽろとその形を崩し、異形のカタチになる。
一つは羊の顔をしていて岩壁を連想させる肉体を持つ魔族。
岩でできた髭を手で触れるしぐさをしている。
一つは鹿の頭をした広く大きな角を持った魔族。
引き締まった肉体をもち、腕を組んでこちらを伺っている。
どちらも偉丈夫と言ってもいいほどのがっちりとした体格である。
フィアはその鹿の頭をした魔族の方に見覚えがあった。
かつて極北の地で共に戦ったエドランデと言う魔族だ。
ただしその大きさは本人の大きさの数倍はあるが。
「ドーラ様」
「ドーラ殿」
召喚した石像が声を発してきた。
まるで生きているかのようなそのしぐさにフィアは目を丸くする。
「グロじい。エドランデ。短刀直入に言う、少し僕に力を貸してくれないカ?」
ドーラはその岩でできた石像に語りかける。
「やれやれですな。とうに隠居した老体を捕まえて一体何をさせようというのか…ドーラ殿、その脇にいるお方は…まさか」
「オルカサ」
そのドーラの答えに二人は目を丸くした。
「ほう」
グロじいと呼ばれた者は髭に手を当て何やら考える素振りをしてみせる。
エドランデは声すらあげられずにオルカを凝視している。
エドランデが黒竜王と会うのはこれが初めてである。
第二次魔王戦争時にクファトスに従ったという七番目の幻獣王。
「してそちらにおられるのは…」
「サフェリナの子フィアちゃんダ」
グロじいと呼ばれた魔族は即座にその場に膝をついた。
「私の名はグロファス・ホーチダウ、かつてあなたの祖父が治めた国において侯爵をしていたものです」
第二次魔王戦争を経験した一部の古い魔族からはクファトスの血統であるフィアは王族と呼ばれている。
あの『聖剣喰い』と恐れられたヴァキュラ公も同様に頭を下げている。
彼らにとってみればクファトスは特別な存在なのだろう。
「…ドーラ殿、事情を聞いてもよろしいか?」
エドランデはいまいち状況が呑み込めない様子だ。
「あの城の中にヴァロが捕まっているのサ。僕らはそれを救出しようとしているんだヨ」
「ヴァロ殿が?」
エドランデがその言葉に反応する。
「ヴァロと言うのは誰じゃ?」
横からグロファスが聞いてくる。
「魔剣と契約している人間です」
おもむろに脇からエドランデが口を開く。
「彼の助力もあり、『パオベイアの機兵』討伐と『オルドリクス』消滅に成功しました」
「ほう…」
髭をいじくりながらグロファス。
「ポルファノアはヴァロの躰を乗っ取り自分のものにしようとしている。
僕たちはそれを阻止するために戦っているのサ」
「ほう、ポルファノア…ほうほう、あやつが…」
横でどこかその声色にはどこか懐かしさのような響きがこもっている。
「お願いします。どうか力を貸していただけませんか?」
フィアはそう言って頭を下げた。
「よいでしょう。ヴァロと言う男のことはわかりませぬが、姫のためにこの老体、ひと肌脱ぎましょうぞ」
「わかりました。ただし、ドーラ殿やフィア殿のためではありません。
ヴァロ殿は我が戦士と認めた者。その者が危機であると言うのであれば助けるのは当然のこと」
エドランデとヴァロは極北の地で共に戦った戦友でもある。
人間でありながら皆が倒れていく中、魔神『オルドリクス』と最後まで戦い続けた。
そのあとの祝勝会では一緒に酒も飲んでいる。
エドランデは心の底から人間であるヴァロに対して敬意を持っていた。
「構わないサ」
「して我々はどうすれば」
グロファスがドーラに指示を仰ぐ。
「両翼の殲滅を頼むヨ」
軽々とドーラは一言を二人に投げかける。
ドーラは平原の先にいる一団を指で差して答える。
ドーラの視線の先を二人は見つめる。
「この老体に鞭を打ち働けなど本当にドーラ殿は人使いが荒い」
「できないカイ?」
「ふっ、そう聞かれればこう答えるほかないでしょう。たやすい御用と」
グロファスの腕に力が籠られている。滾らせているというのが本当のところだろう。
ドーラの用意した魔力量は限られるものの、その流れからその力の本来の大きさは少しだけ垣間見ることができる。
これが偽物の肉体ではなく、本物ならば一体どれほどの力を有しているというのか。
「エドランデはどうだい?」
エドランデは無言で中央を見て動かない。
「ドーラ殿…あの白いのは…まさか」
「パオベイアの機兵だヨ」
その言葉に二人の魔族は衝撃を受ける。
「はっはっは。一つ手を貸す理由が増えました」
エドランデはパオベイアと因縁がある。
その一言でさらに闘志がエドランデの周囲にみなぎっていくのが見て取れる。
「僕は中央の白いのを消し去るヨ。二人で双翼を潰してくれないカ?」
「御意」
「フハハハハハハ、これは久しぶりに腕が鳴りますな」
グロファスは豪快な笑い声を上げる。
その笑い声にフィアの周囲に展開している薄い障壁がびりびりと反応する。
笑い声だけで程度の低い魔獣ならば逃げ出してもおかしくはない。
「オルカ、この二人に武器を与えてくれるカイ」
「わかりました」
オルカがぱちんと手を鳴らすと、高密度のエネルギーが黒い武器が二人の手に現れる。
それは伯爵のカリアの固有魔力『魔装』と似ていた。
グロじいは試しに、ぶんぶんと巨大な黒い武器を振り回す。
振り回しただけで周囲に暴風が吹き荒れ、フィアの魔法壁にぶつかり音を立てる。
「はっはっはっは、こいつはいい。若いの、遅れをとるでないぞ」
「無論」
二人の魔族はそれぞれの戦場に嬉々として歩いていく。
かつてエドランデと戦ったこともあったが、味方であればこれほど頼もしい存在もいない。
二人の背中を見ていると背後からドーラが声をかけてくる。
「彼らは異邦でも最強と言っても過言じゃない体術使いだ。あの程度の軍勢じゃ相手にならないヨ。
両翼は彼らに任せて僕らは真ん中の『パオベイアの機兵』を根絶しようカ」
ドーラは中央の『パオベイアの機兵』を見据える。
捕捉)ドーラがエドランデを呼び出せたのは一度決闘した際に魂にマーキングしてたからという裏設定があります。エドランデがそれに触れていないのは若干動揺気味だったため。
ここまでくるとやりたい放題って感じだなぁ。
それなりのリスクはフィアも背負ってるんだけどね(若干ネタバレ)。
この話も終わってきたし、実は次の話も考えてます。
次は一回過去の話を考えてます。語られるのは第二次魔王戦争の時のこと。
魔王戦争の背後にどんなやりとりがあったのか。
ある男の視点からドーラやモルトーア、ヴァキュラ。
今回出てきたポルファノア、ソウとかの因縁も書こうかなと。
現状、話にしか出てこないカーナやルーシェとかも登場予定。
もちろん今の登場キャラの因縁深いキャラも登場させてみようかと。
盛りだくさんでやっていこうかと。
いろいろとつなげられて楽しいっすね。




