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初めての感情

みんな違ってみんな良い。

美しい言葉ではあると思う。だが現実は綺麗なだけでは廻らない。

違うということは明確な差があるということ。どんなに互いの価値を尊重したとしても立場は変わりそこに優劣はつく。


動画をアップすればPVの数で、映画を公開すればその興行収入で、お宝を鑑定すればその金額で。

好みの差はあれど、いや、むしろそれ故にその差は評価の開きとなって表れる。


それはアイドルも同じことだ。

グループのメンバーは一人一人がかけがえのない存在ではあるが、そこにはポジショニングという明白なヒエラルキーが存在している。

アイドルにとってセンターポジションというものは、野球でいう四番であり、戦隊でいうレッドであり、パチンコでいう七図柄。

つまり自身が心臓であるという誇りなのだ。



「反対反対はんたーい!!!何でぽっと出の新メンバーなんかに先輩がポジション譲るんですか‼ファンが許してもアヤが許さないです‼」


予想通りごねとるなぁ。ぷりぷり怒るアヤちゃん可愛い。


「うーん、それはあたしも反対かな。正直加入したばかりのメンバーをあんまり厚遇するといままでのファンの反発はありそう。アヤみたいな反応をするファンが多いんじゃない?」


おっと、ナツキも反対派なのは予想外。

こっちは私情丸出しなアヤちゃんと違って冷静な反応だけどね。


「あなたがたの意見は概ね想定通りですが、これは決定事項です。事務所の方針ですので従ってもらいます」


あ、マネージャー♀が眼鏡シャッター発動させてる。

まぁ実際この決定を言葉で説明するのは難しいだろう。


「アヤちゃん落ち着いて。ナツキもまぁ、その手の意見交換はレッスンが終わってからのミーティングで言えばいいよ」


「逆になんで先輩がそんなに落ち着いてるんですか!!アヤは絶対に納得できないです‼」


そりゃ私だってまだ深いとは言えないキャリアではあるけどこれまでそのポジションで築いた評価に自負はある。

自分から場所を譲るような誇りのない真似も本来好みではない。

だがそれでも私はプロのアイドルでグループのリーダーなのだ。あの圧倒的な存在感に触れてしまえば最大限に活かす道を選ばざるを得ない。


「とりあえず当人がいないと話進まないね。ミサキを一目見れば二人とも多分理解すると思うし」


「…………そんなになの?」


「そんなになの」


未だに仏頂面で激おこプンプン丸なアヤちゃんに関しては放置するよりほかあるまい。

マネージャー♀の眼鏡シャッターならうちのマスコット暴君の乱心くらい余裕で耐えられるだろう。

けど空気は重いなぁ、早く来てマイハニー。






だからミサキがスタジオに入って来る時には空気が少々殺伐としたものになっていた。

アヤちゃんに至っては完全に彼女が出てくるであろう扉にガンを飛ばしている。ちょっとその目付きはアイドル失格だよ?

カチャリと扉が開く。

スタジオに入って来たミサキが私の顔を認めると微笑んで会釈してきた。

そして小走りで私達の輪に駆け寄り自己紹介の挨拶をする。


「遅くなってすみません。今日から『パリカー』の新メンバーとして活動させていただきます岬美咲です。よろしくお願いします」


特別なことなんてなにもないただの自己紹介。

それでもそのなんでもない行動さえ彼女がすると名画のワンシーンのようだ。

常にアイドルたらんと努力を重ねる人間だからこそ、その異常性には感じるものがあったのだろう。

アヤちゃんの眼は既に気に入らないものにいちゃもんをつけるチンピラアイから相手の一挙一動を観察して魅了を分析するアイドルアイに変わっている。

ダンスパフォーマンスや声量はトレーニングで鍛えられるが一瞬で人の心を掴む立ち居振舞いばかりはどうしたって天性のものなのだ。


「それではメンバーも揃ったことですしレッスンを開始しましょう。ミサキさんは曲と振りは頭に入れてきましたね?」


「はい、独学でひとしきり。色々ご指導よろしくお願いします」


その一瞬を利用して揉め事になる前に物事を進めていくマネージャー♀の進行能力は流石である。さりげなくミサキをセンターに誘導しているし。

さてと私もサブボーカルの立ち位置でやるのは久しぶりだね。身体は覚えていると思うけどマイハニーにみっともないところ見せないように頑張りますか‼




その時はそう思っていた。

詰まるところ私も他のメンバー同様にミサキのことを理解できていなかった。

言い訳をさせてもらうなら別に私が鈍いと言うことではないと思うのだ。竜巻やオーロラや宝くじの当選なんてものと同じで、あることは知っていても自分が関わることはないと思い込んでるものって往々にしてあるものでしょう?


だから私は生まれて初めて目の当たりにした『天才』という存在に激しく心乱されてしまった。

この時胸に燻って芽生えた感情を嫉妬だと気付けていたら私達が擦れ違うことはなかったのだろうか。

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