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幕間 岬美咲という少女 

初めてキスをしたのは小学校六年生の時。

相手は当時の担任でその頃から私は自分の恋愛対象が女性だと理解していた。

卒業式に震える声で告白したことを今も鮮明に覚えている。

口付けをしたときは恋が実った喜びに打ち震えたことを今も鮮明に覚えている。

だからその後の言葉を忘れることができないでいる。


「私ね、この町が嫌いだったわ。皆が同じ店で服を買って、同じところで髪を切って、日々の話題は決まって昨日のテレビの話。こんな変化のない町でそのまま歳をとっていくなんて絶対嫌だって思ってた。だから何か特別なことをするんだって思って都会の大学に行ったの………ふふふ、改めて言葉にすると平凡の見本みたいな行動ね」


「結局頭の中でそんなこと考えるだけで特別なことなんて何にもない私は大手企業に就職も出来ず逃げ帰るように地元に帰ってきたの。小学校の先生になったことに理由なんてないわ。受かった中で一番外聞がいい仕事だっただけ」


「だからね、私はあなたが生徒の中で一番嫌いだったわ。憎んでいるといっていいくらい。同じ環境にいて同じように生きている癖に誰よりも特別なあなたが。あなたに話してた言葉は全部借り物。励ました言葉は全部上っ面」


「え?だったらなんでキスをしたのかって?だってそうしたら私はあなたの特別になるじゃない。あなたは絶対に将来有名になるもの、テレビに出たりネットで検索されたりする私が成りたかった特別な存在になるもの。だからキスをしたの。そうしたら私は特別なあなたの特別な存在ってことでしょう?そうよね?ふふふ、そうよ、私は特別な存在なの」


「卒業おめでとう。あなたの活躍を心から祈っているわ」



いつ思い出しても最悪なファーストキスで最低な女教師だった。

その反動から意地になって周囲に埋没しようとした中学時代も、無駄な努力を諦めて初恋を忘れる為に好きでもない女の子と付き合ってみたりした高校時代も今となっては立派な黒歴史だ。


大学にいくような年齢になれば過去のトラウマとも流石に折り合いがついてくる。

アイドルになってみないか、などと中学の頃なら絶対に断っていたスカウトに頷いたのはまぁ丁度いい頃合いだったんだろう。

私の場合は目立たないように生きることがとても難しいらしいことは自覚出来ていたし、実際有名になってしまえば先生が私に声を掛けて来るかもしれない。

「誰?」と言ってやれば少しは胸のしこりがとれるような気がしたのだ。




「アイドルとしてデビューするのは構いませんが、私は同性愛者です。イメージ的に不味くないでしょうか?」


「それならいっそのこと百合営業してしまいましょう。ちょうどメンバーに彼氏が出来なさそうな娘がいるんで煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」


スカウトからデビューまでがトントン拍子で決まっていったが、マネージャーさんに同性愛を告白した時も二つ返事だったのは流石にびっくりしてしまった。

いいのかそれで?


「…………私は問題ないですけど、それ、相手のほうは大丈夫なんですか?」


「あの娘は大丈夫な娘ですよ。良い意味で現場主義というか感覚派というか、偏見からは遠い場所にいるので。なかなか得難い存在です、あまりいじめないであげてくださいね」


「さっき煮るなり焼くなり好きにって言ってませんでしたか?」


「言葉のあやというやつですよ。自分を抑えたりする必要はないということです。あの娘が同性愛者だからという理由であなたを遠ざけることはないでしょうから」


どうだかね。話半分に聞いておこうとは思った。

マネージャーさんが話す私の恋人が実際どんな娘なのか知らないが期待を裏切られることには不本意ながら慣れてしまっている。

同性愛を理解してくれる、っていう人種ほど実は偏見に凝り固まっていたりするのだ。

タイプでもない女友達に迫られたあげく「あなたが女性が好きだっていうから……折角受け入れてあげたのに!!」なんて不条理にキレられることなんて珍しくもなかったりする。

そんなことを考えながらマネージャーさんの話を聞いていた。


「ではこれがマンションの合鍵になります。グループの活動内容や今後の予定についてはアオイさんに聞いてください。これからのあなたの活躍でアイドルグループ『パリカー』がますます発展することを願います」






そうして私はアイドルグループ『パリカー』の新メンバーとして事務所の用意したマンションに入居するに至る。

同居するメンバーと恋仲を演じるということを条件に家賃負担の全額免除は嬉しい誤算だった。

さて面倒にならない内にさっさと荷物をまとめてしまおう。

気合いを入れて高校時代のジャージを腕捲りしたとき玄関口でガチャリと音が鳴った。


(あ…そういえば鍵締めてなかったかも)


ガチャガチャと再び玄関口で鍵を弄る音が鳴る。

どうやら私の同居人が帰ってきたらしい。

いや、同居人じゃなかったね、そういえば。


おかえりなさい、マイハニー。

次回もヒロイン視点です。

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