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どうぞよろしく、別れるまでは

「…………………………」


「…………………………」


沈黙が重い。

冗談だよねと笑い流せばよかったのだろうか。だけど彼女の真剣な眼差しや固く結ばれた唇が、今の言葉が聞き間違いや冗談の類いではないと如実に語る。

不測の事態というものは畳み掛けて迫ってくるものらしい。度重なる想定外に今日の私のキャパシティはパンク寸前だ。


「…………ひょっとしてマネージャーさんから聞いてなかったんですか?」


不安そうに私に尋ねる新メンバーのミサキちゃん。うん、全く聞いてなかったよ?というかマネージャー♀は知っていて黙ってたのか、あの野郎。


「ちょっと、………ちょっと待って、整理させて」


テンパってる。私テンパってる。

ライブ後にマネージャーに呼び出されて、百合営業するからって業務命令を受けて、その恋人役と今日から同棲することになってしかも逢ってみたら超絶美少女で、どうやら女の子が好きな人らしい。イマココ!!

よし、状況は把握したよ、私。クールになれ、クールになってこの状況を整理するのだ。


まず彼女が女の子が好きな娘だということのメリットとデメリットを計算するのだ。

メリットとしては百合営業にとって最大の弱点である男性関係の発覚というリスクが皆無であること。そして演技や演出にしてもリアリティーが出る。私も百合営業って言われてネットで画像や動画を調べてみたけど心情面は理解出来ていると言い難い。だが本職の助言が得られるならその面はずいぶん違ってくるだろう。


次にデメリットだが…………………………………あれ?別になくない?


「よし!!大丈夫!!!ごめんごめん。突然のことでびっくりしたけど別に問題なかったわ。それじゃ、私もミサキも百合営業は問題ないってことでこれからよろしくね!!」


「え、って…………あの、蒼井さん?私がいうのはどうかと思うんですが……どうしてそうなった?!」


マイブレインが弾き出した回答にまさかの相手方から待ったがかかる。解せぬ。


「いやいや、よく考えたらスキャンダルないし逆にいっかなぁって」


「蒼井さん?私は恋愛対象が女性なんですよ?そんな相手と恋人の振りをすることに問題がない訳がないですよね!?」


超絶美少女大和撫子がおろおろしてる。可愛い。………じゃなくて問題ね?私が彼女と恋仲演じる問題ですか……!!解った。私ピンときた!!


「ひょっとしてミサキって好きな女の子がいたりする?それだったら誤解されちゃうもんね。紹介してくれたら私の口から事情を説明するよ?」


「そっち?!なんでそっちの心配してるんですか。そうではなくて、その…………気持ち、悪くはないんですか?」


「?」


「え、なんでそんな純粋に不思議そうな顔をしてるんですか?え、私がおかしいんですか?あなたのことも本当にそう言う眼で見るかもしれないんですよ」


ああ、そう言うこと。なるほど、確かに彼女が何を問題にしているのかわかってなかったわ。そう言えば彼女はまだアイドルになったばかりだもんね、先輩としてちょっと一席打ってみようか。


「ミサキ、先輩としてまず一つだけ教えてあげる。好意を向けられることを怖がるような女の子はアイドルじゃないよ。愛を受け入れるかどうかは別にして拒絶することは決してない。あなたの恋愛対象が女性だからって排斥するような人は少なくともこの世界にはいないよ」


本気で話しているのが伝わったのか彼女が息をのみ私の眼を見据える。


「あなたがいままでにどんな思いをしてきたのかは知らない。けどアイドルなんてもともとマイノリティの集団みたいなものよ。他人と違うことなんて大なり小なりみんなが持っていて、それを捨てることが出来ない人間がアイドルになるのよ。自分のなかの捨てられない大事なものを誇りに変えるためにね」


そもそもそれでなくても彼女のような美少女から好意を向けられて気持ち悪いなんて思うのは困難な気はするけどね。

ぶっちゃけ私だってその胸揉んでみたいとか思うし。


「そもそも恋愛対象が女性ってことは女性なら誰でもいいって訳じゃないんでしょう?流石に就寝中に夜這いされるようなことは勘弁してほしいけど、法で規制されない範囲ならそれこそ個人の自由だわ。一応聞いておくけど女なら誰でもよくてひとつ屋根のしたで暮らしたら性欲を抑えられないとかではないんでしょう?」


私の問に彼女はぶんぶんと勢いよく首を横にふる。胸も揺れる。眼福です。

よかった。流石にグループメンバーが性犯罪予備軍とかだったら私達の未来は暗い。


「ならやっぱり私のほうは問題ないわね。逆にあなたはどうなの?演技とは言え好きな女の子以外とべたべたするのに抵抗があったりするのかしら?」


私がそう聞くと彼女は何故かとても驚いた顔をした。ん、なんか変なことを言ったかな?


「あ、私も女の子同士のスキンシップくらいなら問題ないです。ただ、その、キスは唇以外にしてもらえたら……」


もじもじ恥じらう黒髪美少女萌え!!ちなみに私はキスなんかしたことありません!!思わぬところで恋愛経験の格差が露呈してしまった。だがしかしボディータッチはオーケーですか、ふふふ、思わず指がワキワキしちゃう。


その後も大事なことやどうでもいいことまで色々と話し合った。

ミサキもカミングアウトが終わって気持ちが解れたのか一緒に話して楽しかった。

初恋の話やこれまで苦労した話。

マネージャー♀への愚痴や自分のグループの活動の話。

可愛い後輩や女にモテる同期の話。

あとは共に生活していく上での約束を少し。


気付けばすっかり夜も更けていた。


細かいことは明日から。最後に決意表明のようなお遊びを一つ。




「では改めて、アイドルグループ『パリカー』のリーダー蒼井夕陽です」


そう名乗って彼女の手を差し出す。


「アイドルグループ『パリカー』の新メンバー岬美咲です」


彼女もそれに応えて名乗り掌を合わせる。


「「初めまして、私の恋人」」


どうぞよろしく。

事務所の都合が二人を別つまで。

次回はヒロイン視点になると思います。

五話に一話くらいで他者視点をはさむ予定です。

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