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一難去らずにまた一難?

一人になりたい時というのは誰にでもあるだろう。

そういう時、人には決まって訪れる自分だけの場所がある。

それが私の場合は人の少ない公園だったりする。

誰もが自分のテリトリーとして認定したことがありながら、いずれか忘れ去られたその寂寥感に抱く一方的なシンパシー。

こんな暗い思考で安らぐあたり今の私は相当鬱々とした精神状態なのだろう。


(………ミサキ、泣きそうな顔してた……)


泣きたいのはこちらのほうだ、と言いたい気持ちもなくはないが未だにずきずきと痛む右手の拳と相まって後悔の念ばかりが胸を渦巻く。


(………………家に帰りたくないなぁ)


どの面を下げてミサキに会えというのか。世の既婚者はパートナーと仲違いしたときどうしてるんだろ?ネット検索したらベストアンサーが出てくるんだろうか。

錆び付いたブランコを揺らしながらそんなことをつらつらと考える。耳障りな金属音が響く、リラクゼーションの効果なんてあるわけもなく心はますますささくれる。

パラパラと小雨まで降ってきた。このまま溶けてなくなってしまいたい。


「先輩、風邪ひくですよ?」


どんどんダウナーになっていく思考のなか、掛けられた声に反応して顔を上げる。

目の前には同じグループの後輩の女の子、水上綾香ちゃんが立っていた。


「………なんで私がここにいるってわかったの?」


「先輩から聞いたんですよ?落ち込んだり一人になりたい時は公園に来るって」


アヤちゃんは当たり前に言っているが、はて、私はそんな話をしたことが有っただろうか?

いや、何かしらの流れで言ったことはあるかもしれないがそんな何気ない言葉で私の居場所を突き止めるとか、君は探偵か?


「先輩の言葉は脳に一言一句違わずにメモリーしているのです」


「流石、お嬢様学校に通っているだけあって頭の出来が良いね………心配して探してくれたんだろうけど、今は一人にしてくれないかな?アヤちゃんの言った通り、今は私落ち込んでるから」


「そうやってうじうじいじけてブランコ漕いでる先輩も萌えですけど、その要因が黒髪巨乳女なのが気に入らないです」


「いじけてる、かぁ。アヤちゃんは容赦ないな」


私の懇願を無視してアヤちゃんは歩を進め隣のブランコに腰を降ろす。どうやら一人にしてくれる気はないらしい。


「懐かしいです。アヤも入ったばかりの時は舐めた態度とって先輩に叱られました」


アヤちゃんは昔を思い出すようにそう口にする。

彼女にしてみればミサキに感情を爆発させてしまった私の態度が、先輩としての叱責に見えたのだろうか。

でもね、アヤちゃん、違うんだよ。


「アヤちゃんは私のことを過大評価しすぎだよ。叱ったんじゃなくて……怒ったの。あの娘の才能に嫉妬して、あの娘の悩みにも気付かないふりをして、不都合を押し付けたの。全部あの娘が悪いって」


ギィッ、とブランコの軋む音が響く。

ああ、だから今は一人にして欲しかったのに。折角私を心配して探してくれた後輩の女の子を愚痴の捌け口にしてしまうじゃないか。

顔を俯けたままに言葉は勝手にこぼれていく。


「天才なんていないと思って頑張ってきた。そんなものは高校野球の優勝投手みたいなもので、トーナメントの性質上必ず一人は誕生する負けなかった人物。努力が結実しただけの自分と同じ人間なんだって………でもやっぱり、そういう人工の天才とは別に天然(ほんもの)もいるんだよね」


「…………………」


「ミサキが手を抜いていることなんてライブが始まってすぐに気付いた。目線で非難するなり、曲の合間に注意することが出来なかった訳じゃない………でもやらなかった。緊張しているだけかもとか、ライブが台無しになるからとか、もっともらしい理由をつけて………本当はきっとわかっていたからなのに」


「先輩………その先は言わなくて……いいです」


気付けばアヤちゃんは隣のブランコかろ降りて私の前に立っていた。私の言葉を止めるように肩を掴む。

彼女が何を危惧しているのかは解る。この先私が口にしようとしているのはきっと、言ってはいけない言葉だから。


「…………わかっていたから止められなかった、きっとこの機会を逃したらミサキに勝てることなんてなっ……んっ?」


それでも言葉を重ねる私の口をアヤちゃんが物理的に塞いでくる。………………………………??え?………………これ、キスじゃね??

キス?kiss?接吻?口付け?…………鱚?


「???????」


「………最近の先輩は、頭の中黒髪巨乳女のことばっかりでムカつくです。……んっ…………ん………っちゅ」


え、何?ちょっとわからない、何がどうなってるのかわからない。…………っていうかまたアヤちゃんが口付けてきたんだけど………え、???………え、っていうか……舌??!!


反射的に身体を仰け反らせブランコから転げ落ちる。痛っい!!頭打った!!

え、っていうかそうじゃない………え、なんで、アヤちゃんなんで??


「…………え、なんで?」


「…………………やっぱり気付いてなかったですか、結構露骨にアピールしてたんですけどね。まぁ、あれです。…………うじうじいじけてくらいならアヤと恋人になっちゃえばいいです。黒髪巨乳女なんかより先輩のこと幸せにしてみせるですよ?」


…………………え、私告られてる?

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