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14/22

アヤちゃんとミサキは学校行事でお休みなのです。

正直な話、私は長所を伸ばす教育方針はあまり好みではない。

練習しなければ出来ないこと、練習すれば出来ることが人にはあまりにも多い。

特徴や特技は徹底的に短所を塗り潰し完璧を志した上でそれでも浮き出てくるべきものだと思っている。

その為に以前の私が自主的にこなすトレーニングはダンスよりボイストレーニングやマナー、立ち居振舞いの方に重点をおかれていた。

意識が高いともいえるだろうが、存在を呑み込まれるような焦燥感に追い詰められたとき人にはそんなことを考える余裕はなくなると知らなかっただけだともいえる。


「ハッ、ハッ、ハッッ」


息を切らせてスタジオに仰向けになって倒れこむ。

立てなくなる程に身体をいじめ抜くなんていつ以来だろう。科学的な見地からいえば非効率なスパルタ式トレーニング。だが極限状態でパフォーマンスのクオリティを維持する訓練は本番に絶対的な安定感となって活きてくる。

コトッ、と耳元に物音がなる。目線だけ向けるとスポーツ飲料水を置いたナツキが心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「あぁ……ありがと……………助かる」


「オーバーワークが過ぎるよ。気持ちはわからないでもないけど程々なところで切り上げなよ。今日はもうスタジオも閉めるみたいだし」


「あ、もう……そんな……時間なんだ?………ん、すぐに、着替えてくる」


よ、とナツキに手を貸してもらって立ち上がる。

確かに張り切り過ぎたかもしれない、筋肉痛になるほど鈍ってはいないと思うけど体調は崩さないようにしよう。

千鳥足にならないように気を付けながらロッカールームに向かう。汗だくになってTシャツベタベタ、気持ち悪い。


「アオイさんとナツキさんは今から上がりですか?私ももう帰りますから送っていきましょうか?」


あ、野生のマネージャー♀が現れた。

やったータクシー、ゲットだぜ‼


「サンキュー、マネージャー。すぐに着替えてくるね。ナツキー、マネージャーが送ってくれるって」


「…………………私は先に帰るわ。方向も違うし朝比奈さんも迷惑でしょう」


あら?何か言い方に険があるね?言うが早いかスタジオから出ていくナツキを見送ってからマネージャー♀に声をかける。


「ナツキと何か揉めた?あからさまにつっけんどんな態度とられてたけど」


「まぁ、少し見解の相違はありましたね。ナツキさんは大人ですからそれほど心配することは有りません」


「私がフォローしておこうか?」


「余計パワフルに拗れる未来しか見えません。この件は任せて貰えるとありがたいです」


むぅ、人のことをコミュ下手扱いとは失礼な。絶対私のほうが友達は多いかんな?


「むくれてないで早く着替えて来て下さい。風邪を引いてしまいますよ。同居人もいるんですから体調管理には気をつけてくださいね」


「はいはい、金の卵に風邪を移すような真似はしませんよっと」


「風邪が移るような真似をする仲になって貰うのは構いませんけどね」


マネージャー♀が不純同性交際を推奨しすぎてつらたんです。

あの天才を囲いたいのはわかるけどもう少しオブラートに包むとか、デリカシーってものを大事にしようよ。

あんたがナツキと揉めたのって絶対そういうところだからな?






「アオイさん、明日はスタジオの使用禁止ですから「なんで?!」


「放っておけば半日ぶっ続けで踊り続けるような人のスケジュール管理をするのはマネージャーとして当然です。引き金を引いた私の言うことではないかもしれませんが、オーバーワークもほどほどにしてください」


メンバー全員オフになってたから明日も一日中スタジオを占拠しようと思ってたのに。空いた時間をどうしろと。

恨みがましげな眼で見ても涼しげな顔のマネージャー♀。いつかこいつの眼鏡フィルターを破りたい。


「アオイさんにはピンとこないかもしれませんが、休みが被ったなら世の恋人はデートするものですよ。映画でも見に行ったらいいんじゃないですか?」


「映画ねぇ、この間アヤちゃんと見に行ったばっかりだしなぁ」


「アヤカさんの選ぶものってことごとく話題になりませんからね。後で何を見に行ったのか教えてください、参考にします」


だからあんたはそういう発言がさぁ。

…………にしても、デートねぇ。そういえば現在百合営業中だったね私。

あぁでも確かに、ミサキも明日からは大学のカリキュラムも落ち着くって言ってたっけ、ライブが近くなるとなかなかゆっくりした時間は作れないし、一応誘ってみようかね。


「服とか選ぶ時はなるべく露出を抑えた上で胸を強調していきましょう。折角の武器ですから」


情緒もへったくれもないアドバイスありがとうございます。

ミサキに似合いそうだからまた対処に困る。


マネージャー♀の車を下りてマンションに向かう。

ちょっと遅くなっちゃったからミサキももう帰ってるかな?

今日の食事は初めてミサキ担当だしちょっと楽しみ。


「ただいまー」


玄関の扉を開くと漂ってくるいい匂…………い?

あれ?これ、焦げてね?




生まれて初めての消火器発動に動揺してデートを切り出すのは翌朝になっちゃいました。

それにしてもミサキさん、なんでカレーとサラダなんてメニューで火柱が上がるんでしょうか?








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