ライブ後マネージャー♀に呼び出されました
「百合営業………ですか?」
ライブが終わった後マネージャー♀に呼び出された。はっちゃけすぎてアドリブを入れまくったステージのお説教かと思い拳骨を覚悟していた私に浴びせられたのは予想より桂馬の位置にいく業務命令だった。
百合営業、それはおにゃのこ同士でいちゃこらしてメディアにメシウマな画を流すと同時に性的な意味でのプラトニックをアピールする一挙両得のイメージ戦略である。
男性との関係性が週刊誌されるとダメージが天元突破するという弱点はあるもののその有用性から今なお廃れないアイドル業界における定番戦略、いわゆる定石のひとつとされる。
「その百合営業ですか⁉」
「そうです。あなたには新メンバーと恋仲を演じて貰います」
私の狼狽をよそに淡々と話しを進めるマネージャー♀。相互理解って大切じゃない?もうちょい話し合おうZE?
「いやいやいやいや、いきなり明日から百合営業するからね。なんて言われても、ハイそうですかとはならないから!!何!?テコ入れ!?私そんなにキャラが立ってなかった?」
「新メンバーの方にも話しはつけてあります。ああ、社のほうで用意したマンションですが部屋は空いてますよね?彼女にも合鍵を渡したので今日から同棲生活のスタートですね」
「その眼鏡、私の意見をシャットアウトする特殊塗料でも塗ってんの?な、ん、で、私が初対面の新入りとトキメキメモリーを紡がなきゃなんないのかって聴いてんですけど?!」
「一緒に撮った写真などは定期的にアップするようにしてください。あとスケジュールが合うようなら…………」
私の困惑にどこ吹く風なマネージャー♀。この銭ゲバ現実主義が決定事項を覆すとは思わないがせめて説明責任は果たせ。
「………さて一応必要事項は大体説明しましたが、後はアオイさんが気になっている理由について話してこの場はお開きにしましょうか」
「ああ………一応私の声は届いてた訳ね。バグったのかと思って心配したわ」
彼女が事の経緯を説明し始めたのはあらかた事務的な事柄を話し終えた後だった。
私の抗議が通じたのか、それとも彼女のなかでそういう予定だったのか、おそらく後者だろう。
「先ほどアオイさんも口にしていましたが別にテコ入れという訳ではないですよ?あなたの裏表ない明朗なキャラはアイドルとして天性のものですし、歯に衣着せないトークの評価も良いです。まだ公表されてませんが『部活の先輩になって名前を呼び捨てしてほしいアイドル』で1位にランキングされてましたし」
「なにその限定的なランキング?!」
というかこのマネージャー♀がここまで直球に褒めてくるのは珍しい、いいぞもっと言え。
「ただそのアイドルとしてのそつのなさにやっかみもなくはないです。端的に言えばリア充に見えるんでしょうね、『男性経験がありそうで実はないと見せ掛けて普通に非処女なアイドル』でもランクインしてましたから」
「だからなんなのそのランキング?!!」
「今はまだ少数の悪意あるコメントに留まって拡散まではいってませんが今後の展開次第ではどうなるかわかりません。アオイさんが本当に男性経験豊富ならいっそのことそういう方向でプロデュースしてもいいんですが」
そこまで言って私に向かってため息をつくマネージャー♀。処女(彼氏いない歴=年齢)で悪かったな。
「まぁ、事情はわかったわ。でもこれ私だけの問題じゃないでしょう?そんな茶番に付き合ってもらって相手のほうは大丈夫なの?」
「問題ありません。………というよりアオイさんの理由のほうは後付けですからね。今回の件は相手の事情がメインです」
「なにそれ、どういうことよ?相手って新メンバーでしょ?なんか問題のある子なの?」
「何をもって問題とするかは人それぞれですが、色々と複雑な子ではあります。ですがその事情は私が話すのではなくあなたが聞き出すべきでしょうね。ひとつひとつ相手を知っていくのが恋愛の醍醐味ですからね」
「なに?百合設定って舞台裏でも有効なの?」
「コスプレをするときは心から飾るものですよ?」
すっとぼけた言い方をしているが彼女がマネージャーとして優秀なのはこれまでの付き合いでわかってはいる。
あんまり突拍子のない話で面は食らったがこの銭ゲバが有用と判断したなら悪いようにはならないだろうという確信のような信頼がある。
相手の人となりがわからないのが不安ではあるがどうせ新メンバーとはぶつかったり解り合ったりしながらよろしくやっていかなければならないのだ。だからこれはお芝居のようなもの。
「わかったわよ、どれだけ希望に添えるかわからないけど必要以上に仲良く見せていればいいんでしょう?印象操作はそっちで勝手にやってくれたらいいわ」
「アオイさんのそういう理解と切り替えの早いところ好きですよ。あ、一応業務命令なので関係が上手くいっている間はマンションの家賃は会社が持ちますから」
「へぇ、珍しく気前がいいわね?そういうことならやりがいもあるわ」
ちゃんとサラリーもらえるなら頑張りますよ。何しろアイドル稼業は何気に経費がかかるからね。
つまりはそういう事情がありまして。私、ことアイドル蒼井夕陽は今日から名前も知らない彼女が出来たみたいです。
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