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人生はまさに川の流れのよう!?

 2週間後。私はボニートという、メインストリートが一本しかない小さな町にいた。


 色々調べて、サンパウロに降り立つのは、ハードルが高いように感じた-タクシー強盗やATMトラブルなど恐ろしいことばかり聞く-ので、私はそこからさらに国内線のチケットを取って、南パンタナール湿原入り口の町、カンポグランジをブラジル旅の最初の地に決めたのだ。カンポグランジ自体はたいしたことのない、土ぼこりが印象的な普通の町だった。宿がある周辺は以前はバス停があって旅人で賑わっていたのだろうが、今はバス停が別の場所へ移り、周りも廃れて閑散とした住宅街になっている。特筆するとすれば、パンタナールを象徴するオウム、アラーラの巨大モニュメントが数体立つ公園があることと、沖縄からの移民が多く、沖縄そばを食べさせる店が数店あること。私はそのうちの一軒で、ブラジルナイズされた沖縄そばをすすり-美味しかった!-、冷えたスコルビールを飲んだ。そして、バスで四-五時間掛けて辿り着いたのが、このボニート。


 ガイドブックを見て一番訪れたかった、パンタナール湿原の清流RIO DA PRATA!そこで川スノーケリングをすること!その日のことは忘れられない。今まで見たこともないような透明度の高い真っ青な川の中を、流れに乗ってスノーケルしながら下っていく。途中これまた見たこともないような巨大な魚の群れの合間を縫って・・・。巡るめく自然や生き物たちが繰り出す景色。黄金のドラドのその神秘的な存在感!グループのツアーだから団体のはずなのに、静かな水の中にいるせいでまるでそこにひとりでいるようだった。川の中に放たれたとき、私はただ自然の一部だった。体が重いからか魚より早いスピードで流れていき、魚の群れに近づき、あぁ、ぶつかる!と思った瞬間には彼らは私に道を開けてくれる。そのスリルと感動。時々は全てがスローモーションのように見えて、魚と目が合ったように感じることもあった。ただ自然に任せて進んでいるだけだというのに、わくわくが止まらない。私の顔はきっとキラキラと好奇心に満ちた子供のようになっていただろう。この流れが終わらなければいいのに・・・と望んだ瞬間、ゴール地点に着いた。いつでも夢の終わりは、そんな感じだ。


 水から出た途端、現実に戻った。ただその静かな興奮はツアー客の皆が同じように感じていたので、水中から出てしゃべれるようになった途端お互いがどう感じていたかを、わいわいと話し合った。その後はいかにもブラジルらしい豆がたくさんのランチをたらふく食べて、少しその自然公園の中での休憩時間になった。こんな経験をしている自分が、誇らしかった。それも全ては数ヶ月前、あの悶々とした気持ちを断ち切るように、電車に乗らなかった決断が導いてくれたこと。あぁ・・・、あまり深くは考えられない。そこで思考はプツンと切れた。ブラジルの太陽が、あまりに熱かったからだ。その公園の芝生の上で少し、昼寝をした。


 夜はブラジルの中でも特に安全と言われるボニートの街中を、ぷらぷらと歩いた。歩いていると、ツアーで一緒だった日本人のカップルに声を掛けられた。小さな町だから、そんな風にすぐ知った顔と会う。私たちはもはやとても素敵なことを共有した者同士。すぐうちとけて近くのカフェに入って、フルーツジュースを飲んだ。ブラジルではフルーツジュースがとても新鮮で美味しい。その後は一緒に、町にある公園に向かった。人工の池の中には今日川の中で見た、黄金に輝くドラドのオブジェが、ちょっと笑える感じで配置されていた。そのオブジェが見えるベンチに三人で座って、今日の話に花が咲く。彼らは東京から来たハネムーナーだった。「ハネムーンでブラジル、しかもボニートってちょっとないですよね、珍しい!」と言うと、優しそうな旦那さまが「嫁が以前バックパッカーでかなり回ってるから、初めての場所探すのに苦労しましたよ。」と笑った。ブラジルでもボニートを選んだのは、そんな理由らしい。「そう、パンタナールは来そびれてたから。」奥さんが言って二人顔を見合わせて笑顔になった。仲の良いカップルは似てくるというけど、本当だなぁ、と二人を見て思った。ハネムーンの邪魔をいつまでもするわけにもいかないので、その辺で宿に戻ることにした。彼らと別れてひとりで歩きながら、単純にいいものを見させてもらったと思った。気分が良かった。


 翌朝。起きたら、宿の朝食が片付けられる、15分前だった。慌ててリビングに行き、まだ残っていた甘いパンやパパイヤやバナナなどのフルーツと、コーヒーを確保した。陽の当たる角の席につき、日記を広げた。旅に出ると、日記って本当に書きたくなるんだな。きっと、感じることが日常と桁違いに多いからだろうと納得しながら、昨日の川の話を書いた。記録として。あんな経験一生忘れないと思うが、意識的に詳細まで残しておきたかったのだ。勢いづいて日記を一気に書き上げて、少し冷めたコーヒーをすする。感じたことをこうして吸収して、アウトプットする。これだけでものすごい充実感だった。今までは書き残したいとも取り分け思えない日々を生きていたのだなと気付き、私はまるで一日にすべきことをすべてしてしまったような気分になる。外を見ると、陽はさらに上がり、室内にいても汗がにじむくらい暑い。


 さぁ、今日は何をしよう。何をしてもいいし、何をしなくてもいい。


 そうだ、この茹だるような暑さに任せて、庭のハンモックに揺られてビールを飲んでだらだらしてもいいな。でもチェックアウトまで時間がある。荷物をまとめてバス停に行ってみるのもいい。新しい景色、経験に逢いに行くのだ。時間はまだうんとある。何ならお金が尽きるまでは・・・。

 

 私はそんな旅の過程を、人生と同じようだと感じた。


 この世に生を受けてから息を引き取るまでの人生。その間にどこに行っても行かなくてもいいし、何をしてもしなくてもいい。全ては自分の心ひとつに委ねられている。一見途方もないようなことに感じるかもしれない。でも、その中で何を感じたいか、どんな感情で過ごしたいか、どんな経験をしたいか。そんな風にひとつひとつ自分が求めているものを明確にしていると、心配しなくてもいつも自分にとって完璧の人生が、開かれていくのではないか。まるでRIO DA PRATAの流れのようだ・・・。あの流れの真っ只中にいたときの、突き上げるような高揚感。魚の群れにぶつかりそうでもぶつからず、辿り着くべき場所-ゴール-にちゃんと着いたじゃないか。


 そんな気付きを得、私はひとつ深呼吸をした。そして、立ち上がりフロントのスタッフに声を掛けた。「チェックアウトまでに用意しますね、今日出ます。」スタッフはブラジリアンらしく、「そうなの?もっと泊まればいいのに、今日パーティーよぉ?」と引き止めてくれたが、私の気持ちは決まっていた。私をどこかへ突き動かそうとする流れを感じていた。外は目が開けられないほどの快晴。今日はこれ以上なく、移動に最適の日だ!

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