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女王様、狂犬騎士団を用意しましたので死ぬ気で躾をお願いします  作者: 帰初心
第一章 リーゼロッテと愉快な狂犬たち
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第六話 ご主人様! 私の望みと喜びよ!( byウルフハウンド )

 ダリウス様が犬小屋から出てきません。

 これは比喩ではありません。




 私は騎士団長室の中に鎮座する、大きな犬小屋の前に立っています。

 レオンハルト様から預かった三種の神具の一つを握りしめて。


 【だりうす】という表札の下の入り口から見える、丸い背中と萎んだしっぽ。

 とても落ち込んでいると分かります。


 私の後ろには、気ぜわしげなダリウス様の部下の三人。

 彼らが犬の姿になって見守ってくださっています。

 三人のうち二人は、大きさは違いますが、ダシバによく似ていました。


 いいえ! 

 今、私は彼らにとても失礼なことを言いました。

 ダメシバには似ても似つかない、凛としたお二人です。


 もう一人はグレイ様によく似ておられます。

 彼ら三人の家名は確か、アキタ、キシュウ、トサでしたでしょうか。

 フルネームはまた後日確認しましょう。


 それにしても……。

 小屋の隅に丸まった落ち込みわんこを眺めます。


 こんな事態になったのは、全て私の責任です。






 ダリウス・フォン・ウルフハウンド様。


 彼はそもそも人の姿を取ることが少ないらしく、犬である自身に誰よりも矜持と誇りを持っています。

 そのプライドは、私の生まれ育った国では「フジヤマより高い」と表現されますが、この大陸では「ワンマンヤマより高い」と申すそうです。ちなみにその山の標高は一万メートルほど。恐らく世界一高いのではないでしょうか。


 そんな彼の「ご主人様に良かれと思ってやったこと」を、私は思い切り否定してしまったのです。


 「返してきてくださいー!!!」と私が思わず叫んだ直後。 

 最初彼は表情を変えませんでした。

 しかし、日に焼けた精悍な顔がだんだんと青ざめていき、最後には強い毛を持った、超大型犬に変わったのです。


 そして『ご不快なことをしてしまいました。申し訳ございません』と謝罪し、しっぽを巻いて扉から出て行ってしまったのです!


 彼の後姿を慌てて部下の三人が、追いかけていかれました。


 ―———実は彼は、とても繊細だったのです。




 ダリウス様に出て行かれ、私は途方に暮れました。


 レオンハルト様が「犬は褒められたいのです。ですが、ダリウスは間違えました。まずはリーゼロッテ様は、征服がお好みではないと確認しなければならなかったのに。気にされないことです。貴女様は主人として怒ったのです。それでいいのですよ」と、慰めてくださる一方で、


「でも……儂が同じ事を言われたら辛いですな」


 とおっしゃられたグレイ様。

 振り向くとおじ様は犬に変わり、しっぽを巻いていました。


 見回すと、多くの犬人が犬に変わり、きゅーんとうなだれています。

 特に第二部隊所属の方々のしっぽが落ちています。会議室の空気も、なんとなくしぼんで参りました。


(私は対応を間違えたのでしょうか……)

 戸惑い立ちすくむ私に、バーバリアン様が嗤います。


「あいつはバカですね。どうせなら知的生物を全て滅ぼしてから『無人島を見つけました。貴女様の避暑地にぴったりです』と言えば良いものを。女王様、気にしなくて良いですよ」

「いえ、それも駄目ですから」


 全く気にしますよ。むしろ貴方様の発言に。





「レオンハルト様。リーゼロッテ様に発言を申し上げてもよろしいでしょうか」


 そこに、義兄が助け船をくださいました。

 レオンハルト様が「うむ」うなずくと、犬人たちの視線が集まります。


「アイツが女王様の義理の兄だった少年だ」「あの御方を守るためにこの国に乗り込んできたとか」「でも結局旧大陸で、あの御方を守り切れてないじゃないか」「信用できるのか?」「ただの人間なぞ信用できるか」と囁かれる声に、黒縁眼鏡は微動だにしません。流石です。


「まずはリーゼロッテ様。ウルフハウンド様に名誉を与えてくださりありがとうございます」

「はい?」


 一体彼は何を言い出すのでしょうか。

 私の戸惑いをよそに、義兄は恭しく続けます。


「ウルフハウンド様は、リーゼロッテ様の初めて『め!』をいただきました。

 残念ながら「死ね」とは言っていただけませんでしたが、これこそが正式なご主人様のご命令。これを光栄と言わずになんと言いましょう」


 この言葉に、項垂れわんこの皆様の耳がピンと立ちました。人の姿も取られている方々も、顔を輝かせて、

「「そうだった! あれは貴重なご命令であった! ウルフハウンド卿はなんという名誉を賜ったんだ」」と喜びます。

 

 (光栄!? 名誉!? 何をおっしゃっているのですか皆さん! というかお義兄様は何を!?)


 恐らくあの台詞は意訳すると、「構われたいんやろ? 命令されたいんやろ? とっとと喜べや」と言っている気がしますが。それにしても……。


 私の動揺をよそに、犬人たちの間に喜びが広がります。良かった良かったと。

 うなだれていたグレイ様の耳も、しきりに動きます。


「ただ、それはそれ。貴女様は大陸ものはお好きではありませんでしたが、ウルフハウンド様の今までの功績を褒めるために、更にとても素晴らしいご褒美を用意されているはず。

 ―————たとえば、ブラシとか」


「ブラシ!」


 グレイ様が四肢に力をぐっと入れて立ち上がりました。

 垂れた頬はぐいっと上がり、目がキラキラと輝いています。


 それを見た義兄が黒縁眼鏡を直します。

 更に一言、

「リーゼロッテ様はもっともっと我らを叱るべきです。そして『貴女の下にいる実感』を与えてください」と付け加えて。


 呆気に取られる私をよそに、犬人さんたちの間になぜか感動が広がり始めました。

 

『「素晴らしいぞ少年!」』


 グレイ様の近くにいた犬人さん、特に第二部隊の皆様は感動し、わんわん! と私に詰め寄ります。

 マルス様とテレサさん、レオンハルト様たちがすぐにけん制して下さらなければ、たくさんの犬に押し倒されるところでした。

 

 会議室中すべての犬人が犬に変わって周りを取り囲み、私を吠え称えます

 バーバリアン様ですら、「それも面白いな」と姿を変えられました。


 最後に義兄がエセくさい笑顔をわざと歪め、

 「もっと我々をお叱りください、リーゼロッテ様。そして我々を貴女様の色に染めてください!」と叫びました。


『よくぞ言った少年! 見直した!』

『さあ女王様、今ここで! 私たちの悪いところをあげつらってください!』

『もっともっと指示を! 文句を! ダメ出しを!』

『踏んでください』


 ダリウス様が出て行ってから、ほんの十数分。

 犬人の皆様の間で、なぜか私に叱られることがステイタスとなりました!

 ―———最後の台詞は論外ですが。

 

 皆様に褒められ、再び恭しく片方の手を胸に当てておじぎをする義兄を、レオンハルト様が複雑な顔で見ています。

 「短期間で既に犬人の性質を掴んでいる……末恐ろしい男だ」と呟きながら。


 流石は義兄。

 度胸と機転はとても真似ができません。

 






 さて冒頭に戻りまして。

 私は落ち込んで犬小屋に籠ってしまった、超大型わんこに声を掛けます。


「ダリウス様」


 びくり、と大きな背中が震えました。

 そしてしっぽをさらにお腹に付けて、小さく小さくなろうとします。

 私は申し訳なくなりました。


「他の皆様の前で叱ってしまい申し訳ありません。そして、言い足りないことがありました。

 貴方はこの国を救ってくださり、更に私を探してくださったそうですね。大陸ひとのいえは要りませんが、貴方の行動には感謝をいたします。お陰でこうして無事に、愛犬や義兄と共に暮らさせていただいております」


 背中は何も言いません。

 ですが、震えは止まったようです。


「私はしがない十歳で、政治も戦争も経済も何も分かってはおりません。

 ですが、せめて自分にできることで貴方に感謝いたしたいと、これをレオンハルト様から預かりました。どうか、ブラッシングをさせていただけませんでしょうか」


 私は右手の神具を掲げました。

 王室の三大神具の一つ、『わんわんブラシ』。初代王から使っているという、どんな毛並みにもフィットするという犬用ブラシだそうです。


 私の手には少し大きめブラシですが、シンプルで持ちやすい形です。

 毛先が丸く加工しているものと、何かの動物の毛が使われている両面タイプです。

 どちらも毛を梳く専用というよりは、マッサージも兼ねているものでした。これには初代王のわんこを労りたいという気持ちが伝わってきます。


 神具のブラシの地味に効果がありそうな姿に、後ろの三人のわんこが息を呑むのが分かります。


 私は、絨毯の上に座り込みました。

 そして痩せてまだ肉が戻っていない太ももを叩きます。


「お願いします。ダリウス様、姿を現してください」

「わうん……」


 ダリウス様は、いいの? いいの? 私は悪い子だけれど、許してくれる? と恐る恐る顔を出しました。そして私のブラシを片手に構える姿を認め、巨大な体をのっそりと現し近づきます。

 ————本当に大きいですね。見上げると首が折れそうです。


 ウルフハウンド一族は確か、いにしえにフェンリルやドラゴンも一人で倒せると伝えられてきた方々だそうです。力強い体躯で優美に歩いてくるその姿は、その伝説を彷彿とさせます。


 でも気高さと繊細さは紙一重。

 私は彼を労わります。


 再度太ももを叩くと、ダリウス様は私の前に横になられました。

 大きな顎を軽く私の太ももに乗せ、眉を下げきゅうんと鳴きます。


「お疲れ様でした。ゆっくりとされてくださいね」


 私は首の後ろからブラシをかけ始めます。ダリウス様はうっとりとして忘我の心地でいらっしゃるようです。

 ずっと旅をしてきたからでしょう。背中の強い毛や、顔周りや顎の針金のような毛を優しく梳くと幸せそうに鼻息は吐きました。ブラシのマッサージで疲れを癒してくださいね。


 『良かったのであります団長』『我々の苦労はこうして実ったのですね』『それにしても羨ましい……』


 後ろのわんこたちもダリウス様の様子に感動し、羨望し、座り込んで見つめています。

 そこで、「後で皆さんにもブラシを掛けて差し上げますよ」というと、大変喜んでくださいました。




 そうしてしばらくして。

 四人の毛並みに艶が出てきた頃、私の腕はくたびれました。もう動きません。

 ダシバと違い、大型犬の方は梳くところが多くて疲れます。


 すっかり満足されて、幸せそうなダリウス様たち。

 そしてようやく、ダリウス様はまともに言葉を発せられました。どうもに彼は、私の前ではシャイであるようです。


『リーゼロッテ様、いやご主人様。どうぞ私を捨てないでください』

「そんなことしませんよ。むしろ、私の方こそ世話をしていただく身。これからもどうぞよろしくお願いします」


 さりげなくご主人様呼びに切り替えてきましたが、まあいいでしょう。

 一心に私を見つめる水色の瞳。

 そして彼は、私のお腹に頭を擦り付けてきました。


 一通りなでなでをして、さてレオンハルト様のところに一緒に戻ろうとすると、彼は犬小屋に戻り、ごそごそと隅から何かを銜えてきました。嫌な予感がします。

 そして人の姿になり、黒い軍服に長身痩躯、しかしどこまでも精悍な男前が膝を折り、私に恭しく差し出してきたのです。


「ご主人様、いつか与えてほしいと思って宝物をしまっておきました。どうか私にもこれをつけてください」



 ここでも、 赤 い 首 輪 で し た。 



 私は焦点の合わない目をしながら、渡された首輪を持って質問します。


「……なんで首輪は赤なのでしょうね」

「面白いことをおっしゃいますね」

 

 ―———他の色では、敵の血が付いた時に、目立ってしょうがないでしょうに。


ますます手の中の首輪が、遠い存在に感じられます。




 そして私は、首輪を嵌めたダリウス様にひょいと抱きあげられ、左腕に座る形で抱っこされました。


「ダリウス様!?」

「本当は由緒正しき犬の姿の時に、背中に跨がって欲しいのですが……お御足を他犬たにんに見せるわけにはいけません。どうぞこちらでお許しください」

「いえいえいえ普通に歩けますよ!?」

「ご主人様が疲れている姿を見たら、私は哀しみで毛が抜けてしまうかもしれません。どうぞ、運ばせてください」


 わんこに円形脱毛症――――。

 想像しただけで可哀想になりうっかり頷いてしまいましたが、あれ?


 首を傾げる私を、機嫌良く抱っこして王宮へ向かうダリウス様。


「私は昔、子犬の時に、先王によく抱き上げてもらいました。貴女様をこうして運ばせていただくと、その頃を思い出します」

「実の父をよく知っていらっしゃるのですね」

「ええ。本当にお世話になりました。あの頃はあの方の側にただ侍るだけで幸せだった」


 遠い昔の記憶をなぞる彼の水色の瞳は、とても凪いで見えます。

 「でも」と、彼は続けました。


「今、こうして貴女様を抱き上げ、共に居られることは何よりの幸せになりましょう。

 ご主人様。貴女は私の望みと喜びを全て叶えてくださっています」





 騎士団長室を出ると、待ち構えていたレオンハルト様。

 なぜか義兄を後ろに引き連れています。


「リーゼロッテ様、良かった! 

無事にダリウスを犬小屋から引っ張り出されてきましたね……って、なぜご主人様を抱っこしているのだ! それにお前、その首輪は」

「ふ。これで私も女王様の家犬だな。お前ばかりが所有されていては面白くない」


 ダリウス様が自慢気に、自分の首に巻き付けられた赤い首輪を自慢します。

 レオンハルト様は、ダリウス様の自慢に一瞬むっとされましたが、どこかしらほっとしたように親友の肩に手を置きます。


「これからの我々の主人はリーゼロッテ様。それでいいんだな」

「ああ。こんな素晴らしい方がこの世に存在してくださった。私はあの方に感謝している。もう決して駄犬にはならないと誓おう」


 誰か過去の方を思い返している二人を、私は眺めていました。


「お二人は仲が良いのですね」

「どちらも公爵家で、縁戚関係もあるらしいで」


 義兄が私の横で、そっと教えてくださいました。

 無断で女王のそばにいるのに、警備兵の皆さんは特に注意しません。

 よほど、あのしょうもない演説が好評だったようです。


 むしろ、こちらをみてそわそわしている彼らを見ると、

 「ちょっと粗相して怒ってもらおうかな」などと考えているようにも見えます。

 それは、ダシバが私に構って欲しくて、テーブルクロスを引っ張って食器を割った時の雰囲気に似ています。


 (あの雰囲気には、何か嫌な予感がします)

 そんな不安をよそに義兄が、そっとダリウス様の情報を更に教えてくださいました。


「ウルフハウンド卿は子犬の頃、先王のお気に入りだったんよ」


 昔、私の実の父の小姓として仕えたダリウス様。

 ご主人様が大好きで、どこに行くにもついて行ったそうです。

 犬小屋の表札も、先王が手ずから書いたとか。随分と個性的な字でしたね。


 王は亡くなる時、嘆き悲しむ犬人たちに殉死を禁じたらしいです。

 かいぬしの命令は絶対。王の死後ボロボロになった彼は、犬小屋に入って出てこなかったそうです。

 「私は死に損ないの駄犬ですからもう働けません」と、引きこもりになった親友のしっぽを、レオンハルト様が必死にくわえて引っ張って禿げた話は有名だそうです。


 やがて周辺国の脅威にダリウス様が立ち上がるまで、引きこもりとの攻防は続き――――。


 (レオンハルト様は、国と親友の為に本当に苦労されたのですね)

 私の匂いをかぐのが大好きな、黄金色のわんこが眉を下げている姿を思い浮かべました。

 今本人は麗人の姿で目の前におりますが。しみじみとします。


 そこに義兄が「リーゼ。お前の無事が伝わってから、あちこちが沸いているようだけどな。少し調べて見ただだけでも、この国はまだまだ不安定やで」と注意してきました。


「そうなのですか?」

「ああ、特に侵略者を倒してから、血の高ぶりを思い出してしまった一族が多いらしくてな。

 団長も帰還されたし、改めてきちんと群れの順位付けをし直した方がええで」

「群れの順位付けですか? ピットブルの皆さんとか?」

「いや、そこは意外に当主が上手く押さえているようでな。むしろ問題はその他の……」


『緊急です!』


 義兄の話の途中に、細い犬の姿で廊下を走ってくる方がいます。

 私たちの前で止まると、『あ、女王様!』と動揺しつつ、人の姿になりました。

 ひざまづいて報告します。


「団長! 宰相様! ロットワイラー一族が反乱を起こしました! 至急対応をお願いいたします!」 

「なに?」

「ここで奴らですか……」


 反乱ですか!?

 私と義兄は顔を見合わせます。


 レオンハルト様が眉を寄せ、ダリウス様が表情を厳しく改め確認しました。


「現場は?」

「王宮です! まずリーゼロッテ様の部屋がやられました! ニューファンドランド様が軽傷を負っておられます」

「テレサさんが!?」

「はい、リーゼロッテ様の衣服を奪おうとしたロットワイラー一族と戦ったらしいのです!」

「グロウリーめ。しばらく大人しくしているかと思ったら……分かった。すぐに向かう」


 ダリウス様は青ざめる私を抱き上げ、レオンハルト様に渡します。

 そこに新たな伝令の兵がやってきて、追加の情報をもたらしました。


「ロットワイヤーの当主グロウリー・フォン・ロットワイラー様が、

 『女王の足下で可愛がられるのは我々だ』と宣言し、誰これ構わず戦いを挑んでおるようです! 

 特にマルス様に嫉妬で複数に攻撃を加えていたとの目撃情報が入っております!

 ピットブル一族が大喜びで混ざっておりますが、これ幸いと争いにボクサー一族とドーベルマン一族までもが参戦しております!」


「……それは内乱というよりも、むしろ喧嘩ではないのでしょうか?」

「いいえ! 王の下の序列を乱すこと。これは内乱以外のなにものでもございません!」


 レオンハルト様の頭に抱きついて、思わず下にいる義兄に視線を送ると、彼は苦笑を浮かべて頷いています。同意のようです。

 

 私に抱きつかれた麗人は、麗しい顔を一瞬崩壊させて、しかしすぐに真顔に戻りました。


「リーゼロッテ様。大変な事になっておりますが、これは順位を大切にする犬人の社会では稀に起きることです。きちんと決着をつけますので、どうぞ安全なところで見ていてください」

「で、でも喧嘩を止めなくては!」

「いけません。どうか犬同士で決着をつけるまで、主として見守ってください。きちんとダリウスが、始末をつけてくれますよ」


 レオンハルト様がそう言うと、ダリウス様は両手をボキボキと鳴らし始めました。

 後ろに控えていた三人の幹部たちも好戦的な笑みを浮かべ、戦闘の準備を始めます。




 ダリウス様は拳を片方の手の平に当てて、言いました。

 

「このくにで、女王の足下に侍るべき犬は、私だ」


 透き通った瞳はどこまでも冷酷な色を湛え、その顔には一切の表情がありません。

 

「負け犬どもよ。この真実を骨の髄にまで思い知らせてやろう」


 黒い軍服を完璧に着こなした彼は、颯爽と歩き出します。目指すは血塗れの争いが起きているであろう、王宮の奥。


「ご主人様の足にじゃれついて香りを嗅いで良いのは、私だ!」




 最後のは要りません。


 全く要りません。



 

 私は目を据わらせて、廊下を運ばれていきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 方向性が違うだけで、どのワンコもダシバに負けず劣らずの残念さがw 面白いです。
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