【書籍第二巻発売記念】 女王陛下の保健体育戦争(前編)
「女王様、狂犬騎士団を用意しましたので死ぬ気で躾をお願いします」の書籍第二巻発売記念です。
前中後編三話構成で、天才女児リーゼロッテの知識についてのお話です。
なるべく第三章を読まなくてもすむよう工夫(バーバリアンの職業とダシバの家族をぼやかす)してありますが、気になってしまったらすみません(汗)
ロリコンではなく、熱心な教師。
――――それはシモに心を宿さない真摯さがあるか否か。
エロ本ではなく、性教育書。
――――それは健やかなる成長を祈る気持ちがあるか否か。
では十一歳の少女に「正しい赤ちゃんの作り方」を教えるためには?
――――わんこを越えた、大人の本気が必要だ。
玉座の下でにらみ合う男たち。
灰色の髪を短く立てた精悍な顔の男が、凶悪そうに笑いながら、黒髪の美丈夫を指さした。
「久々に王宮に戻ればこれだ。ウルフハウンド! 貴様とはやはり一度きちんと順位付けを行った方が良さそうだな」
「ああピットブル。我が拳に掛けて、貴公の野望を打ち砕いてみせよう」
「ふん。野望など……俺はあくまで陛下の健全な発育を祈っているだけだ」
「笑止! リーゼ様は可憐なる幼女! 汚れ無き女児! 守るべきはピュアな乙女心だ!!」
誰もが認める偉丈夫の騎士団長、ダリウス・フォン・ウルフハウンドは吠えた。
透き通る水色の瞳に憤怒の炎が覗く。
「リーゼ様は……本当はトイレに行かなくても平気なのだ」
本犬はあくまで真面目なのだが、発言が色々とおかしい。
そんな彼の敵はバーバリアン・フォン・ピットブル侯爵。
私設部隊を勝手に作り、大陸中を戦場も変えようとした男。
最近は落ち着いたとはいえ、闘争の火種が消えたわけではない。
そして現在、愛すべきご主人様にとんでもないことを教え込もうとしている最悪の犬なのだ。
「私は守る犬<ウルフハウンド>の名に掛けて、リーゼ様の乙女心を守ると誓う!」
一歩。
ダリウスは軍靴で赤い絨毯を踏み出した。
右の拳を左の手のひらに当てる。王の間に響く乾いた音。
「どちらの幼女性教育論が正しいのか――――この拳で決めさせてもらおう」
「ああ、もちろんだ」
目を輝かせ、喜び吠えるバーバリアン。
バーバリアンから見たら、保育園からの腐れ縁であるダリウス。
泣き虫で、喧嘩が嫌いで、いじめる気にもならなかった男だった。
成長してめきめきと戦闘能力を上げたが、彼の基本は変わらない。
どんなにカリスマと指導力を発揮しても、心から戦いを望んでいるわけではなかった。
そしてダリウスの方でも、さほど自分に興味がないことを知っている。
私設部隊で戦場を荒らしても、新大陸でヒグマー相手に暴れても、闘犬としての自分に一欠片も興味がなかった男。
だが、今……。
「全力を持ってお前を潰す」
威嚇をする大男は本気だ。
この男に「陛下も年頃だからエロ本を読ませて慣れさせよう」と唱えている自分を、本気で粉砕しようとしているのだ。
ぞくりと背筋に快感が走る。
殺意が実に心地よい。
「魂が震えるぞ、ウルフハウンド!」
バーバリアンは吠えた。
自分には最強の闘犬としての自負がある。
最大限の力を解放し、最強犬種ウルフハウンドに……いや。
童貞臭漂う、国家最強の男に挑む。
互いに拳を交わし――――――犬の頂点を極める戦いが、今、始まろうとしている――――。
これは後年【ケンネル王国記】から意図的に削除された、
「ケンネル王国赤ちゃん鳥かご事件」
の一幕である。
◇◇◇◇
発端は王の間。
リーゼロッテ女王陛下へのラッセルテリアの発言だった。
中央騎士団(別名:狂犬騎士団)と対をなす、辺境騎士団の団長ラッセルテリア。
洗練された貴族らしい雰囲気と整った気品のある顔は一目置かれるのだが、いささか性格が宜しくない。
ちょこんと王座に座っている少女。
愛らしい青いレースのドレスを着た陛下に対して、彼は傲岸不遜に言い放った。
「陛下は御年十一歳。来年は十二歳です。だから早く結婚すべきですね。そして王族を増やして下さい。とりあえず十五人くらいは欲しいですな。うちの息子を……などという野望はとうに捨てました。もうそこのマルチーズの白犬でいいですから、早く子作りしてください」
周囲は息をのむ。
広間の空気は凍った。
特にリーゼロッテ女王陛下の足下で護衛任務をしている、婚約者候補筆頭犬マルス・フォン・マルチーズ(十五歳)は、目を見開いたまま動けなくなった。
雰囲気の激変に気が付かないラッセルテリア。
彼はオールバックからほつれた白茶の前髪をなでつけて、発言を続ける。
「そして地方の犬たちも王族との触れ合う機会を増やしてくださらないと。そもそもですよ? ラッセルテリア家から愛犬に選ばれるべきところをあの駄犬に譲ったのです。今後は子々孫々ラッセルテリアを子守として付けてですね」
だが誰も聞いていない。
余裕がないからだ。
リーゼロッテの右横が定位置のダリウス・フォン・ウルフハウンド団長などは、完全に硬直していた。
王座の下の隊長たちの反応も十人十色だった。
子沢山の第二部隊長グレイ・フォン・マスティフは「そうだそうだ」頷いている。
静かな巨犬、アポロ・フォン・グレートデン第三部隊長は、目をつむって石化していった。
第四部隊で女性の縁の無い職人犬、ラスカル・フォン・マラミュート隊長は、口をあんぐりと開けたまま動かない。
動揺しやすい第五部隊のコーギー隊長は、キョロキョロと隣の隊長たちを見ながらせわしなく揺れている。
第六部隊隊長――――いや、ボルゾイ家の不審者は、ただただ無表情。
そして、醜聞が大好きな第七部隊隊長、ヨーチ・フォン・グレイハウンドはひゅうと口笛を吹き—―—―。
第八部隊を統率する女医である、ジョゼ・フォン・セントバーナード隊長は……切れた。
彼女は不機嫌そうに、束ねた美しい赤褐色の髪を後ろに流した。
そして、気障ったらしいラッセルテリアにつかつかと歩み寄る。
「あら、ラッセルテリア団長。額がだいぶ秀でて来たのではないかしら。私が良い方法知っていますよ――――いったん全部抜いて植え直しましょう」
ガシリ。
美女は中年貴族の襟をつかんだまま、出口に引きずっていく。
常に暴れる犬を優しく強制入院させる彼女は、とんでもない握力を持っていた。
中年貴族は悲鳴を上げた。
「いたたたたたたた……私が何を言ったというのだ! この国の犬なら皆思っていることだぞ!? 結婚は早ければ子供がたくさん出来る! 早く陛下に頑張って、ぎゃっ」
「あら、ごめんなさいね。目の前にちょうどいい前髪があったら抜いちゃったわ」
赤い絨毯に手の中の髪を放り投げ、救助犬は辺境騎士団長を扉の向こうに連れて行き――――。
静かに扉は閉められた。
髪の毛がはらはらと落ちていく。
しん――――。
王の間に残された隊長は、一部を除いて気まずそうな顔をしている。
ちら。ちら。ちらり。
やがて王の間中の視線は全て、ちょこんと王座に座ったままの、リーゼロッテ女王陛下(十一歳)に集められていく。
リーゼロッテの表情は先ほどから変わらない。
そもそも表情筋が恐ろしく硬いリーゼロッテは、人から心の変化を悟られることがない。
だが、ご主人様の少しの心の変化も匂いで嗅ぎ分ける犬たちは、首をかしげた。
――――陛下は全く動揺していない――――。
リーゼロッテの左側に立つ宰相レオンハルト・フォン・ゴールデンレトリバーは、恐る恐る愛するご主人様の顔を覗く。
いつもは誰に対しても取り繕う、美麗な顔が引きつっていた。
「その……リーゼ様」
「……そうですよね」
陶器のような頬に手をやり、硬質の美貌を持つ少女は至極真面目に答えた。
「私も子供はたくさん欲しいですね」
『リリリ、リーゼ様!?』
足元のマルスがびくりと震える。
完全に動揺していた。
ぷるぷるする白い愛玩犬には、冷たい視線が集中していく。
しかしリーゼロッテの爆弾発言は、これに留まらなかった。
彼女は黄金の髪の麗人宰相に向かって手を叩き、提案をしたのだ。
「だから、鳥かごをたくさん用意してください」
「はい?」
思わぬ答え。
宰相の喉からは変な声が出た。
団長は目を見開いたまま、愕然と銀髪の少女を見下ろしている。
大変若い女王陛下は、いたって真面目なお顔である(当社比)。
恐る恐る、麗人は聞き直した。
「その、鳥かごとはどういう……」
「皆様もされるでしょう? 鳥かごを窓辺にいっぱいに並べて、【子授け鳥】を待つのです」
「子授け鳥……」
「そうですよ。かの有名な鳥は、子供の欲しい人の鳥かごの中に、赤ちゃんを運んで入れてくれるのです」
ざわざわと動揺し始める隊長たち。
リーゼロッテは菫色の大きな瞳を細めてふふふ、と笑う(当社比)。
煙るような銀色の睫を揺らして「本当に楽しみですね」と言った。
美しい銀髪を飾る、紫の繊細なレースも揺れる。
この場に居る、全犬の心も揺れる。
「赤ん坊は、子授け鳥が連れてきてくださいますからね。この際大量に鳥かごを用意してお待ちしましょう!」
陛下は、マジだ……………!!!!!
王宮に大激震が走った日であった。
◇◇◇◇
王配問題。
それは旧大陸にて最後の王族リーゼロッテ・モナ・ビューデガー陛下が発見された時から、たびたび議題に上がっている問題だ。
王族がいなければ、犬人は魂が暴走する。
故に必要なのは王族が増えること。
つまりは陛下の結婚こそが、犬にとっての最重要案件。
生まれてくる子供の数一人増減するだけでも、ケンネルの未来に関わるのだ。
なのに――――リーゼロッテは王の間で語り続けた。
《子授け鳥は、とても大きくて美しい白い鳥らしいですよ。ネスト王国にはたくさん住んでいらっしゃるのでしょうね。結婚にはまだ早いですけど、赤ちゃんが先に来てもケンネルでは許されるそうですから。もういっそ、窓に鳥かごをたくさん用意して、今からお待ちすることにしましょう》
《……!!!》
《私はまだ十一歳ですからね。そう簡単には来てくださらないでしょうけど。楽しみですね、赤ちゃん》
キラキラとした紫の瞳を、まともに見つめ返せる犬は、この場に居なかった。
そしてこの発言により、王宮は二つに割れた。
「陛下は猥雑なお話が大嫌いなのです! まずは素敵な恋! 手と手を握り合う初々しい恋愛をしてから学ぶべきです!」
驚愕の事実の発覚から一週間。
議場の中央で仁王立ちしたのは子守犬筆頭、テレサ・フォン・ニューファンドランド。
侍女頭でもあり、女性文官たちを束ねるテレサは、あくまで「リーゼ様にはまだ性教育は早い」という立場だった。
テレサ普段は柔和でふくよかな包容力のある中年女性である。
リーゼロッテ乳母としても全幅の信頼を置かれている。
だが、彼女の憤怒は恐ろしい。
過去第一部隊隊長だった頃の彼女に、平手でしばかれた経験のある大臣たちは、始終おののいていた。
「そうだ。陛下は知識を得られるのは大好きだが、その手のものはあらすじを見た瞬間に避けられる。なので強制などできん。お仕事も頑張られておられる昨今。ご主人様にじゃ好きなものだけを触れていて欲しい」
援護するのは宰相レオンハルト・フォン・ゴールデンレトリバー。
金髪の麗人はすでに結論は出ているという態度だ。
議長席でリーゼロッテのために買ってきた「わんこエンジェルクッキー」の新味を鞄に詰めている。
会議が閉会したらすぐに貢ぎに行くつもりだった。
テレサとレオンハルトによって逆らえない雰囲気が作られる中、一人の純人の文官が手を挙げた。
「宰相は陛下を甘やかしすぎなのでは? 結婚だって王族の仕事ではありませんか」
「黙れ! 結婚は仕事ではない。王族の幸せは犬の幸せ。過去の王族は皆自由恋愛だ!」
宰相に一瞬で否定される。
隣で書記をしていたシェパード主席秘書官も頷く。
「幸せな方が王族の香りも増しますしね。犬人にとっても、その方がありがたいんですよ。代わりに王族の中でも恋愛格差が生まれて、一生独身の王族もけっこういらっしゃいましたが……」
「うるさいシェパード。余計なことを言うな」
ゴールデンレトリバー一族やニューファンドランド一族。
更にはセントバーナード一族やプードル一族といった、子供の教育に並々ならぬ自負がある一派。
これらには「リーゼ様は清らかな天使」と信じている、ちょっとアレなウルフハウンドやコーギー一族が合流して徒党を組んでいた。
――――いつの間にか彼らは【過保護党】と呼ばれるようになる。
「全くアホらしい」
議場の片隅で。
第七部隊隊長ヨーチ・フォン・グレイハウンドが愚痴っていた。
銀縁の伊達眼鏡を直し、ペンを机上に放り投げている。
「十一歳にもなれば犬人の子供ならちゃんと理解するだろうに。無知はかえって望まぬ未来を産むよ? 八人も育てておいて、ニューファンドランド夫人はそれが分からないはずがない」
「全員息子らしいですから……陛下が初めての娘みたいに可愛くてしょうがないようです。夢を見ているのでしょう。それに……最後の王族ですからね。皆、陛下に女性としてつまずいて欲しくないと過敏になっている」
隣で頷く、第六部隊のエル・ホル・サルーキ副隊長。
二人は過保護党と対立する、もう一つの党に入党していた。
正しい情報は正しい時期に正しい場所へ。
マスコミ犬であるヨーチはゴシップが大好きだ。
だが、流石にご主人様をネタにはしたくない。
彼が所属するのは【正しい保健体育党】。
ピットブル一族やグレイハウンド一族などが中心となった、性教育早期推進派だ。
ヨーチは眼鏡を外す。
細い指で眉間を揉んだ。
「まるでヒストリーだ。陛下になるべく幸せな子供時代を送って欲しいことは分かるが、いささかやり過ぎだ。ただでさえあの方の知識には偏りがあるというのに」
リーゼロッテ女王陛下の知識の偏在について。
ヨーチは以前から疑問に思ってきた。
知識量は天才的。
だが、知りたくないものについては無意識に脳みそがシャットアウトして、幼少親に習った範囲しか覚えていない。
生き倒れるほど陛下が苦労していたことは知っているが、このままで良いはずがない。
「陛下は早く、王族用の性教育を施すべきだ。足りないなら旧ユマニスム王家の連中だって使わねば」
「そうですね」
「そして陛下が『不潔です!』と読みもせず発禁処分されたうちの雑誌を解禁して欲しい」
「……『わんわんおしりタイムス』ですね。あれ好きだったのですが。陛下が発禁にされていたのですか」
「正しくは宰相だな。陛下が表紙を見て悲鳴を上げたのを見て、不条理にもうちの部隊を叱責された」
「エロくらいいいじゃないですか」
「ああ。エロも見られない世の中じゃ、いくら犬でも爆発するぞ。陛下には早く成長していただき、もっと物事に柔軟になっていただきたい」
マスコミ犬たちは恐れている。
リーゼロッテの少女らしい潔癖さのまま、怖い女性文官たちのようになってしまわないかと。
ちなみに、当主が春先にある希少な職業に選ばれてから、それなりに発言権を持つようになったピットブル一族と、白黒犬の<お父さん>であることを自慢するアフガンハウンド一族。
さらに正しい保健体育本とエロ本の同時普及に努めるグレイハウンド一族が中心となり、徒党を組んでいる。
自称【正しい保健体育党】。
あくまで自称なので、実際には庶民から【エロ無罪党】と呼ばれる。
日々緊張感が高まる中。
気がつくとあっという間に二週間が経過した。
リーゼロッテは自室で行商犬協会(最近行商「人」から行商「犬」に変更した)のレッド・ホット・ケルピー会長と面会していた。
赤茶色の犬はしょんぼりと項垂れている。
「鳥かごはまだ来ないのですか?」
『申し訳ありません……鳥かごはケンネル大陸では殆ど流通していないのです。当然ネスト王国でもありません。大昔、旧大陸で鳥人を監禁する拘束具として使われていた歴史が長く、下手すると国際問題になりかねません』
「そうだったのですか……ならば諦めた方が良さそうですね。他の方は鳥かごの代わりに何を設置して赤ちゃんを待っていらっしゃるのでしょう。マルス様はご存じないですか?」
頬に手を当てたリーゼロッテは、斜め後ろで控えている専属護衛の美少年に訊ねる。
「う。……その、リーゼ様。その、あの、えー」
目をそらしながらどもって答えられないマルス。
リーゼロッテはため息をついた。
「最近マルス様は端切れが悪いですね。目も合わせくださらないし。他の皆さんも様子がなんだかおかしいです」
「そりゃそうだ。リーゼのせいで本当に面白いことになっとるで」
「お義兄様」
「バド!」
「いやー、兄妹で教えることでもないやん。まさかなーこうなるとはなー」
警備兵の許可を得て、書類を持ってきたのはバド・ラック・ハイデガー。
純人で宰相秘書官の下っ端である。
リーゼロッテの義理の兄でもあり、黒縁眼鏡でうさんくさい笑顔がトレードマークだ。
王宮が割れる事態を笑う少年は、基本的にドライだ。
一年前に、義妹のために旧大陸からルマニアに渡ってくれたバドは、リーゼロッテを家族としてとても大切に思っているが、あくまで兄。
余計なことは自分で調べて覚えろがスタンスだ。
マルスは同年代の少年に掴みかかる。
「バド、ちゃんと教えておけよ!」
白髪の美少年に捕まれるバド。
黒縁眼鏡の奥を細め、肩を竦めた。
「……俺が。リーゼに。一対一で。教えた方が良かったか?」
「うっ。それも嫌だけどさあ!」
「今更教えんよ。宰相にも余計なことをするなと釘を刺されとるからな。そもそもこの手の教育はケンネルの大人の仕事や。俺は知らん」
バドは義妹に右往左往するこの正直な友人が結構好きだ。
だけど、彼の片思いをただ応援する気もなく――――。
「リーゼロッテのためにネスト王国から使者が来たんや。ケンネル駐在の大使に鳥かごを置いていったで」
「鳥かごを持ってきてくださったのですか!」
「ああ、王室直々でな。……しかも、中身入りや」
「中身入り?」
いぶかしげな顔をするマルス。
「ああ。多分ええもんじゃないで」
リーゼロッテがなぜ鳥かごを求めているか知っていての、ネスト王国の行動。
良い予感はしない。
バドは考える。
マルスには今後も頑張ってもらわねばならない。
これから起こるかもしれない面倒ごとにも、体を張ってもらわねば。
当然兄として妹のために何枚だって肌を脱ぐつもりだ。
自分だって、マジメ馬鹿な義妹が可愛い。
うきうきと、寝ている愛犬ダシバのデブ腹を揉んでいるリーゼロッテを眺めながら、バドも気合いを入れなした。




