第一話 リーゼロッテ女王陛下(十歳)に国民は夢を抱きます
たたたたーん たたたたーん
辺りは白銀の世界。
白い息を吐きながら辺りを見回すと、木々の枝が積もった雪で重そうにたわんでいました。
鼻を抜ける冷たい空気に、目が冴えていくのを感じます。
雪と常緑樹が彩る王族の庭・ドッグランコートでは、『わんわん腕輪行進曲』が流れています。
定番の名曲を、ケンネル王立楽団が指揮者ムネマサ・スピッツ氏による見事な指揮で、耳に優しく心浮き立つ演奏に仕上げてくださっています。
「実にめでたい。似合いの二人だ」
「ええ。とてもバランスが取れていますわ。卿は誇らしいのではなくて?」
「ありがとうございます。ああ、我が義娘は白いベールも良く似合う。良い式ですな」
主要な貴族が集まったこの式。
私は白い盛装に厚地のコートを着込んで、新郎新婦がやってくるのを待っております。
参加された皆様は、多くの方が普通の盛装でした。
犬人は冬に強いというのは本当のようです。
たたたたーん たたたたーん
現れた花嫁。
頭に添えられた、白いレースのベールを風に流して、彼女は一歩を踏み出しました。
その威風堂々とした立ち姿。
参列者も思わず見惚れてしまいます。
たたたたん たたたたん
白茶色の毛並みが美しく、まるでビロードのよう。
力強い四肢は、庭園の噴水から設置された祭壇に向かいます。
彼女はうっすらと降り積もった、白いバージンロードを一歩一歩進んでいきました。
「微笑ましいですなあ」
「うう、ぐす。女のものになってしまうなんて」
祭壇の上にはアプソ大司祭がにこにこと微笑んでおり、隣にはうつろな黒い瞳から涙を流す、大導師が立って待っております。
たたたたん たたたたたたたたた
彼女は大きな口で、つぶらな瞳の新郎の首を銜えています。
力なくぶら下がる夫を支えるその姿は、まるで輝く女神のようでした。
私は力一杯拍手をします。
「素敵です! エリザベスさん! どうかダシバを末永くお願いしますね!」
今日はダシバの結婚式。
我が愛犬に、とても素晴らしい花嫁さんが来てくださったのです!
ダシバの結婚相手の選定は苦労しました。
まずこのルマニア大陸には、そのまま「犬」という存在がいません。
犬人は犬の姿にこだわりを持っていますが、その、夜の、もにょもにょ、いえ、結婚生活の基本は人の姿であるようで、人の姿を持たないダシバは相手にされません。
しかしダシバもすでにいいお年です。
せっかく(可愛い)女の子が大好きなのに、誰にも振り向いてもらえない状況でした。
そこに、黄金の宰相の名を持つレオンハルト様が、麗しい笑顔を浮かべて提案してくださったのです。
「旧大陸へお見合いに連れて行きましょう」と。
義兄も無理矢理編入させた探索隊(別名:駄犬どうにか押し付け隊)を率いたレオンハルト様から「発見いたしました」と精密な絵姿をいただいたのは、その半月後。
描かれていたのは、私の良く知るご近所の飼い犬エリザベスちゃんでした。
街一番の超大型犬で、マスティフと「何かすごい犬」とのハイブリットと聞いております。
たれ気味の頬。逞しい四肢。鋭い目つき。
どんな犬でも彼女の前では道を譲り、見事な降参ポーズをとってくださいます。
彼女の一撃はどの犬も盗人も吹っ飛び、彼女の一噛みは階段の手摺を軽く噛み折るほどです。
—――――ですが私は知っておりました。
彼女が何よりも乙女で可愛らしいことを。
自分をそのままで受け入れてくれる、王子様を探していたことを。
そして自分を見るとしっぽを縮めて降参ポーズをとるしかないオス犬たちの中で、ダシバだけが逃げないで見つめてくれることに。
『いや。バドから聞いたけど、あまりの脅威に降参ポーズすら取れずに固まっているだけだって』
足元から何やら白いサラフワ犬の声が聞こえますが、頭に入りません。
公園での犬の遊び場。散歩道の広い原っぱ。
彼女はダシバを見つけては、よく追いかけて回しておりました。
いつだって気になる犬の首に噛みついて、持ち上げて振り回したい。
いつだって気になる犬を壁際に追いつめて、気を失うまで覇気をまとって見つめていたい。
(何度ダシバの首輪を引きちぎられたことか)
そしてこっそりと戦利品を自分の小屋に隠すエリザベスちゃん。
そのような乙女な行動をするエリザベスちゃんを、私は気に入っておりました。
『リーゼ様、乙女の定義を間違えてるよ』
聞こえませんよ、マルス様。
絵の中でエリザベスちゃんは、ご機嫌にダシバの首を銜えてぶら下げています。
まるで「捕ったどー!」と宣言するかのように、誇らしげに。
一方で、吊り下げられたダシバは目が死んでいましたが、幸いおしっこは漏らしていないようです。
(でも大丈夫です。彼女は首輪を引きちぎった後は、隠れ家に運んでいって舐め倒して、お腹にしまい込んで丸くなって寝るだけですから)
彼女の愛情表現は、この国に来るまでは「ちょっとやり過ぎではないでしょうか」と思っておりました。
しかしダシバの性格を考えれば、決して見捨てないで愛情を示してくれる女性。
奇跡のような存在です。
ダシバはダシバで、彼女を怖がってはいないのです。
ただ畏れているだけで。
『それってさあ、アリなの?』
聞こえません。
彼女の逸話と共に絵姿を見たグレイ様は、「なんと力強い女性か。結婚の為に肩書きが必要ならば、マスティフ家は喜んで養女に迎えましょうぞ」と申し出てくださいました。
「はあ。なんて素敵なカップルなのでしょう」
「一人の女性の瞳をこんなにキラキラに輝かせるなんて、ダシバ様も意外に良い所がありますね」
東屋で絵をうっとりと眺める私に、一緒に絵を見たテレサさんがにこにこと褒めてくださいます。
周囲の男性兵士たちは対照的に、微妙な顔をしておりますが……なぜでしょう。
『あのね、リーゼ様。僕は駄犬を擁護するつもりはないけどさあ。でもさあ、男の沽券ってもんがさあ』
マルス様が珍しく歯切れ悪く、もごもごと何かをおっしゃっておりましたが、聞こえませんよ。
頼りないダシバに頼りがいのあるお嫁さん候補ができたのです!
これを喜ばない飼い主がおりましょうか!
しかし私はふと、肝心なことに気が付きました。
「あ、でも。ご許可をいただきませんと」
エリザベスちゃんの飼い主は、あの街でも有力な高位貴族だったのです。
すでに他の犬とお見合いして結婚されているかもしれませんし、そもそも自分の愛犬の子犬は欲しくとも、よそへ嫁にあげたい飼い主などいません。
『大丈夫だよ。レオンハルトさんがちゃんと交渉して貴族に許可もらったって』
「でも……エリザベスちゃんは飼い主と離れたくないでしょうね」
『それも大丈夫だよ。貴族の一族郎党ごとこっちに来てもらうからね!』
一族ごと?
「一体どういうことですか?」
マルス様を見上げると、彼は人の姿でさらりと肩に掛かる綺麗な白髪を揺らして笑います。
愉快で仕方がないと、目を細め。
とんでもない事実をおっしゃいました。
「あの国、革命が起こったんだ」
驚愕の表情を浮かべる私に、マルス様が否と答えます。
「元々経済状況が悪化していたからね。兵士への給料の未払いで離反されちゃったんだよ。領主一族は離散。貴族は皆、庶民に殺されない為に親戚を頼って去っていったって」
「そんな……お義母様たちはどうなったのです」
焦って訊ねると、私の専属護衛の美少年は大きな黒瞳をうろんげに眇めました。
「何? リーゼ様、気になるの? 自分を追いつめた連中がいっぱいいる街だよ。滅んで良かったんじゃない?」
故郷には、父や使用人たちとの思い出や、心の傷もいっぱいあります。
特に継母にはひどい目に遭いました。
でも、あの人が不幸になればいいなんて思っていません。
「継母は好きにはなれません。一生会いたくもありません。でも嫌いにもなれないのです」
あの方は寂しい方でした。
お金も、愛も、優しさも。
男性から与えられて初めて、自分の価値が実感できる。
好きだと言ってくれる方、尽くしてくれる方がどれだけいるかが、自分の価値。
「今、私はたくさんの方たちの愛情によって幸せになっています。とても幸せですから、彼女にも見えないところで幸せになって欲しいと思えるのです」
「でもさあ、あいつリーゼ様の援助を断ったよね。なんで?」
「……あの方にとって女は敵ですから。敵からの施しはいらないそうです」
「はあ? そもそもリーゼ様から父親と家を奪ったのはあの女じゃない」
突き返された援助金と、綺麗な文字で書かれた手紙。
『リーゼロッテに伝えて。良い子ちゃんの貴方には理解できないでしょうねと。奪われるのは構わないのよ。奪い返すだけだから。だけど、男を魅惑してお金をもらうのと、女が同情して投げ銭を寄越すのは話が違うのよ。私は女が嫌いなの。女に上から見下ろされるなんて耐えられない。だから』
最後の文章には、インクの滲みがありました。
『貴方の力なんて使わずに、自分の魅力でどうにかするわ。さようなら、他人のリーゼロッテ』
彼女は手紙をレオンハルト様に渡すと、私の弟を抱きかかえて去って行ったそうです。
今はお金のある大きな商人を捕まえて(本人曰く『惚れさせてみせて』)、弟を育てているのだとか。
ただ、上の義兄二人は新しい父親に「貴族根性なんて捨てろ」と、厳しい修行に出されたそうですが。
「初めて、彼女を少しだけ尊敬いたしました」
彼女の過去に何があったのかは知りません。
主張する内容に、筋が通っているようにも思えません。
ですが、ただ一つだけ。
彼女の強い意思に触れて。
私は継母という人間を、何一つ理解しようとしなかったのだと知りました。
マルス様は肩をすくめて「なんだかなあ、リーゼ様らしいというか」と笑います。
「大丈夫だよ。革命に巻き込まれないよう、家族全員で隣国に引っ越したってさ」
「そうですか。良かった」
「屋敷の中のものは、みんなレオンハルトさんが持って帰ってきたよ」
「ありがとうございます」
部屋の中がしんみりとします。
私は精密な絵姿を見直して立ち上がりました。
「では次ですね。ダシバとエリザベスちゃんの素敵な恋のために、素晴らしい式にいたしましょう!」
「そうですね、リーゼ様」
「恋……?」
聞こえませんよ、マルス様。
祭壇に到着した二頭は、正装した大司祭と大導師と前にお座りします。
ダシバはまだ呆然と吊り下げられておりますが、逃げる様子はありません。
大導師は豪華な黒い祭祀服を着ています。
そしてじっと死んだ目のダシバを見つめながら、涙を浮かべて祝詞を唱えます。が……。
「ぐす。汝ダシバ……。其方はその女のものに……ふぐ。なってしまうのですか」
まるで祝詞になっていません。
隣で苦笑しながら大司祭が続けます。
「新婦エリザベス。汝はその男を愛し、二人で作る家庭を共に守り、取り巻く全ての運命を受け入れ、心身ともに健康であることを誓いますか?」
「ばう!」
エリザベスちゃんが元気に返事をしたせいで、口からダシバが転がり落ちました。
彼は転がった状態で固まって、ピクリとも動きません。
なぜか参列した犬人の男性たちが、
「今日から俺はあいつに同情する」『悪かったよ。もういじめないよ』「駄犬教かあ。可哀想だから入信してやろうかな」『僕のしっぽがずっと腹にくっついて戻らないのはなぜだろうね』
と、目頭を押さえています。
警備に入っているダリウス様は目を瞑って、まるで無口な第三部隊のアポロ様のように動きません。
最近腰が悪い大司祭様の補助に入っているレオンハルト様(実は助祭の資格も持っています)も、麗しいお顔を心から気の毒そうに顰めて、愛犬育成書のページを捲っています。
犬人だけではなく。
純人のアントン様も、参列したリンドブルム王も、他国の王族男性たちも。大使たちさえも。
吊り下げられたダシバに向かって祈りを捧げていますが、あれは全員ダシバ教で宜しいのでしょうか。
女性たちと一部の闘犬たちは、「素敵な花嫁さん」と大喜びしているというのに。
一部の消えない、陰鬱とした空気。
「……なぜなのでしょうね。あんなに素敵な夫婦なのに」
「本気で言ってるの? ねえ、リーゼ様。本気で言ってる?」
隣でマルス様がしきりに確認してきます。
後方で、義兄が「マルス様、あれは本気や。思い込み状態の女に何を言っても無駄や」と言っていますが、男性陣は何を怖がっているのでしょうね。
ちなみになぜ、この二人が一緒に結婚式の祭祀を務めるのかと申しますと。
大導師がどうしてもダシバの式の祭祀をやりたいとだだをこねたからです。
確かにこの大陸の純人教徒は、ほぼ駄犬教徒になりました。
しかし、この子はわんこ教の保護者である私リーゼロッテの愛犬でもあるのです。
三日三晩話し合った結果。
「一緒にやればいいじゃない」ということになりました。
今、第七部隊の皆様が、純人教徒の国民と共に撮影をしております。
今や宗教問題など過去のこと。
ケンネル王国ほど宗教に優しい国はありません。
純人教関連でもめ事があれば大抵は大導師の告解ですみますし、わんこ教でもアフガンハウンド卿が心や体の弱い犬たちの道具をたくさん開発してくださり、犬棄山の話題も出なくなりました。
隣国のドラゴニア王国も無事に国交が回復し、大陸中の流通も盛んになっています。
微妙な顔をして式を見ておるリンドブルム王も、今回は胸元に息子のプラトン君を抱いて参加してくださいました。
戦争のために開けた地下道も、ほとんどが民間の物流向けに再開発され、日々生活が豊かになって様子を感じています。
平和が一番です。
そう、平和が一番……なのですが。
くい。
私の純白のドレスの裾を、小さな鉤爪が引っ張ります。
『リーゼ様。おしっこ』
『ぼくもー』
『ねえねえ。もうあっちのテーブルのごはんたべていーい?』
『ままー』
私の周りにはちっちゃなもふもふたち。
ちっちゃいぴかぴかな鱗の子もいます。
そのうちの一人は肩に着地し、そのうち一人は耳をぴんと立てて、私のスカートを一気に駆け上ってきました。
肩に止まった子はふんわりした灰色の産毛を私の頬に擦り付けて、私の耳元で『ねえりーぜ様! いつぼくらは結婚するの!?」と訊ねてきます。
腕の中に飛び込んだ子は、白に縞模様の頭を胸元に擦り付けて、『違うよ。ボクとだよね?』と喉をゴロゴロと鳴らします。
「ごめんなさい。とりあえず親御さんと話を付けたいのですが」
『ままあー! けふっ』
「まあ大変!」
母恋しさに泣きだして、のどを詰まらせてしまった子がいました。
慌ててもう片方の手で、細長く密な毛皮の体を拾い上げて必死に胸元であやします。
ですがなかなか泣き止んでくださりません。
『まま、くしゅん。まま、ままあー!』
『リーゼ様、ボク知ってるよ。海獺は海に放り込めば元気になるんだよ!』
「テツ王子。だめですよ。海よりも今はお母様です」
だというのに。
ちいさな海獺の母親らしき方が、遠くからちらちら心配そうに見ているのですが……なぜか近寄ってくださいません。他のお母様らしき方々も遠巻きにして、何か、私を恐れているような……。
え、涙をハンカチで拭いながら、私を睨んでいる方もいますよ!?
「マルス様、これは一体……」
「ああもう、お前ら大人しくしろよっ」
隣のマルス様はやんちゃな子たちを相手にされていて余裕がありません。
ちょっと! あ、おしっこですね。
誰か、誰か今すぐ草むらに連れて行くかおまるを——————!
「まあまあ。リーゼ様は大変なことになっていますね」
テレサさんが苦笑しながら駆け寄ってきて、泣き出した子供を抱き取ります。
「ボノ王子様、どうぞ子守犬のぬくもりで我慢してくださいませ」
『ままあ~~~。くちゅん、くちゅん』
私の耳元でふんわり綿毛の子がずんぐりした体を逸らしておっしゃります。
『もうこれでボノは脱落だネ! 鳥の中の鳥のぼくが、りーぜ様のお婿さんになるんだもんネ!』
『違うぞ、猫の中の猫のボクだよ。エンペラー。お前どう見ても鳥じゃないよ。灰色毛玉だよ』
『なんだと! だったらおまえは、しましま毛玉だぞ!』
「もう、喧嘩を売ってはいけませんよ、テツ様。それにエンペラー様は立派なアデリー王家の王子様ですから」
ぴいぴい、みーみー!
きゅー!
子供たちの騒ぎに、参列席から飛んでくる赤い小竜。
『なんだよおまえら、ぼくのほうがリーゼ様となかよしなんだからね!』
彼らは全員、このルマニア大陸各国の王子様たちです。
よちよち歩きの子から、保育園児くらいの子供まで。
実に幅広いお子様が私の周囲に集められております。
なぜこんなことになったのか。
それは他の男たちと共に、結婚腕輪を巻かれたダシバに『冥福を祈る』のポーズをしているリンドブルム王に原因があります。
彼が、周辺国の王家からの相談に乗ったことが全ての始まりでした。
『リーゼロッテ女王陛下の王配に、王族を推薦したい? 彼女が好みそうな男だと?』
そして滔々と私の出来事ことを事細かに説明してくださったそうなのですが……。
全ての話が終わったころには、彼らの中で私はとんでもない怪物となっていました。
・彼女は狂犬を操って他国を亡ぼす。
・しかも大人の男に首輪を付けて喜ぶ。
・あの氷の笑みは、まるで残酷な白夜の女王。敵に回したら何をされるか分からない。
・実は大人の男を踏んで足マットにする趣味がある。
・でも、子供は踏んでいない。リンドブルム王のご子息は握りつぶしかけたことがあるらしいが。等々……。
—―――結果として。
『アレな趣味の女でも男の自尊心が滅茶苦茶にならずに順応するためには、心が柔らかで善悪が分からないうちに仕込んでおいた方がいい。ならば幼い息子を出そう』
そして、この結婚式の機会にと、大勢連れて来られた、と。
(なんなのですか! 私をどんなに斜め上に恐れているのですかー!)
私は、一人一人を庭裏に呼び出して、息子さんたちを返しつつ、こんこんと説教をさせていただきました。
最後は遺恨のないように、笑顔で見送りましたのに。
彼らは「二度と余計なことは致しません」と平伏してきたのです。
全く失礼ですね。
『りーぜ様またネー』
『りーぜさま早くボクと結婚してねー』
『なにいってるんだよおまえらっ』
『くしゅん』
『あ、お前もくしゃみしたっ』
『ボノのやつが移ったかなア』
『ボクに移さないでよ』
王子同士で仲が良いらしく、ペタペタ歩く鳥、猫、竜の三人組が私に手を振って去っていきます。
私はため息をついて、ダシバたちを迎えに戻りました。
ダシバが終われば、次は自分ですか?
—―――冗談ではありません。
私はまだ十歳です。
婚約は—————成人してから決めればいいではありませんか。
子供に恋愛は、早いのです!
「だからさあ、リーゼ様は頭が固いんだから、もうちょっとさあ」
「マルス様、止めといた方がいいで。リーゼ様の道徳心は、戦車や竜の鱗よりお堅いからな」
聞こえませんよ!




