第十四話 ご主人様、今回も遅参いたしましたー! この失態は身一つで晴らす所存! ( by ウルフハイブリッド )
血臭漂う犬棄山のふもと。
地面の穴からのっそりと現れたのは、神話の怪物・シロカブトでした。
夜半の月夜。
犬棄山の黒い影と共に、際立つ白い頭と黒く丸い耳の輪郭。
白と黒。
印象的なコントラストのずんぐりとした体。
黒く縁どられたつぶらな黒い瞳が、虚空を見つめています。
マルス様に抱きかかえられたまま、私は感慨を抱きました。
「シロカブトは大きいですね……」
「あれはやばいよ。砲弾が無事に通るのかな」
「竜人の間では、『小山ほどの巨大な』と表現されていたからな」
隣のリンドブルム王も、瞳孔を細めて観察しています。
白を基調とした正装を姿勢よく上品に着こなし、この事態を冷静に受け止めています。
舞踏会ではオールバックにされていた茶色の髪を下ろされた前髪が、夜の風に揺れました。
「世界最大を誇る竜人であっても、あれほどの巨体はいない。
あの凶暴な目といい。鋭い爪といい。
まさに神話で『残虐』と『貪欲』の代名詞といわれる怪物だな……、
パンダは」
いつの間にか私に対して砕けた言い方になっている王は、山の裾野に広がる反乱軍の骸たちを静かに眺めます。
「……お知り合いですか」
「ああ。だが、敵だ。今は敵となって私の命を狙い、我が協力者であるリーゼロッテ殿の配下に殺された。ただそれだけだ」
彼は軽く瞑目し、すぐに前を見据え直しました。
そこに、中央騎士団が行動を開始します。
「子犬隊展開終わりました。その他遠隔射撃部隊も無事に配備に着きました」
「こちらボルゾイ隊長の代わりに第六部隊の指揮をするエル・ホル・サルーキ。敵の行動を完全停止すべく分析を開始します」
「第二部隊も配置終了。ロットワイラーたち三馬鹿も先頭に放り込んでおきましたからな! いつでも行けますぞ!」
「第一部隊は第二部隊に補強する形で並びました」
周囲の兵士よりも頭一つ大きいダリウス様が、戦闘態勢に入った騎士団を睥睨し、その低い美声を張り上げます。
「敵はあざとい顔で座っている怪物・シロカブト! 一斉砲撃用意!」
「「用意完了!」」
「バーバリアン・フォン・ピットブルには当たってもいいが、他の野犬には当てるな!」
「「は!」」
『聞こえているが』
ダリウス様は腕を張り上げ、勢いよく振りました。
「滅せよ! なんとなく女子供、更にはリーゼ様に受けそうなフォルムを!」
「「同意!」」
「ちょっ」
私の突っ込みが届く前に、一斉に砲弾が放たれます。
轟音が辺りに響き、独特の香りが鼻腔を刺激しました。
————―少しの間。
しかし、何も動きません。
犬人たち、竜人たち。彼らも何も反応しません。
マルス様に下していただき、レオンハルト様の腕の裾を引きました。
唖然としていた彼がはっと我に帰り、教えてくださいます。
「レオンハルト様。これはどうなったのですか?」
「残念ながら砲撃が効きませんでした。まったくあの毛皮を傷つけていないようですね」
「流石はパンダだな。面の皮も体毛も、ぶ厚い」
ダリウス様が再び第二弾の砲弾準備を指揮します。
「もう一度だ! 全弾で少しでもダメージを与えてから第二部隊を投入する!」
「は!」
子犬隊の砲台が再び斜め上に、鎌首を上げました。
シロカブトは全く動きません。
『王!』
同時に空から竜が下りてきます。
「リンドブルム王。ワイバーン公使が到着しました」
「ああ、分かった」
「陛下、リーゼロッテ号にお戻りください。私はリンドブルム王達と反乱軍への対策を立てます。マルチーズ頼んだぞ」
「任せてよ」
レオンハルト様の案内で、全員で後方に移動します。
隊長たちが報告する声が聞こえてきました。
「殺傷力の特に強い砲弾に変えました」
「第二部隊も待機中。そろそろ三馬鹿がうるさいので、次の瞬間には行きますぞ!」
暗やみの中の、ラスカル様とグレイ様の声。
犬人は音と匂いに鋭いので、夜中でも行動に問題はありません。
しかし、私は月夜に微かに照らされる輪郭以外よく分からないので、マルス様や周りの方に教えていただくしかありません。
私はふと、気になりました。
「三馬鹿って誰ですか?」
するとレオンハルト様が、ふ、と鼻で笑って教えてくださいます。
「ロットワイラー卿とボクサー卿とドーベルマン卿ですよ。彼らの短慮さと喧嘩っ早さは、昔の狂犬騎士団の中で問題でしたからね。幼いころは私の一族では物笑いの種にしていたものです」
知りませんでした。
果たして同行を許可して良かったのでしょうか。
マルス様が肩をすくめます。
「いいんじゃないの? そもそもたまには発散させてやらなきゃ、あのおっさんたち。ストレス溜まって執務室逃げ出して、あちこちで喧嘩売ってくるから迷惑だったし」
「……今後考慮します」
王宮内の書類が良く滞ったのは、何もアフガンハウンド卿のせいだけではなかったのですね。
そのアフガンハウンド卿は今、捕らえられて第五部隊の尋問にも黙秘を貫いています。
『ただ、弟の希望を満たしてあげたかった』
そう言ったきり。
マルス様とりーゼロッテ号に避難すると、車内に外の音がより明瞭に流れてきます。
窓から展開する騎士団と野犬たちの姿も良く見えます。
草地に立つダリウス様の美声が、再度響きました。
「リーゼ様が喜ばれそうな、あの間延びした顔を吹き飛ばせ! 滅せよ!」
(それはもういいですから)
—――――間。
何も起こりません。
「何やっている第四部隊!」
グレイ様の怒声と共に、第四部隊キース様が報告を上げます。
「子犬隊、動かなくなりました! 熱中症ではありません!」
「何が起きた。マラミュート現状を分析しろ」
「あー。悔しいですね。自分の才のなさを突きつけられた気分だ」
押し殺したラスカル様の声。
苛立つ彼は戦車を拳で思い切り叩き、説明をします。
「外部からロックが掛かりました。見事に操縦席と砲台、ハッチすら動きません」
『ふざけるな! この後、第二部隊に合流して切り込めないじゃないか!』
『助けてください! ピットブルと密室で二人きりなんて嫌です! 女の子と二人きりなったことがないのに、初めての密室がムッキムキのむさくるしい男なんて最悪です! 隊長、副隊長、助けてください!!』
戦車の中から聞こえる悲鳴。お母さーんという悲鳴も混じっています。
顔を顰めたラスカル様が、軍の後ろの一角を見やります。
あそこには……。
「犯人は、アフガンハウンド元・第四部隊隊長でしょう。戦車の発明者が、ご丁寧に仕掛けを施したようです。道理で戦車が盗まれやすいはずだ。ちくしょう、何が『バカになった』だ! 確かに頭がおかしいよ、あの人! 変な方向で!」
地団太を踏むラスカル様を後ろで、連絡を取るダリウス様。
「第五部隊。アフガンハウンド卿は何と言っている」
『「野犬は、野犬として勝たなくては意味がないじゃないですか。ピットブル卿、頑張ってくださいね。存在が野犬みたいなものだし」だそうです。目がマジです。卿は本気で牙と爪で倒せと言っています!』
「なんとか説得して協力をさせろ」
トランシーバーを切ると、「団長、ピットブル卿と野犬がシロカブトに飛び込んでいきます!」と報告が上がりました。
遠く、野犬を率いたバーバリアン様が『死んで来るぞ!』と飛び込んでいきます。
数百匹の犬が草地を駆け出しました。
シロカブトの首を目指して、毛皮を駆け上がります!
赤く染まった爪と牙で柔らかい目玉にバーバリアン様が噛み付こうとして。
—――――瞬間に払われました。
「見えなかった!?」
「まるで羽虫を払うようにピットブル卿を撃退したぞ!?」
外のどよめきが聞こえてきます。
既に数人が地面に叩きつけられて動かなくなっているそうです。
折れた奥歯を血と共に口から吐きだしたバーバリアン様が、『上等だ……』と喜んでいるとか。
たまらず、私は立ち上がりました。
「ここを出て、アフガンハウンド卿を説得します」
「え!? ご主人様、ここのハッチも閉まっているんじゃ」
「マルス様、なんとかなりませんか!?」
「いや、僕も機械は詳しくないんだよね……せめてこの辺にテコでも入らないか、あれ?」
ガタリ。と音を立てて、ハッチが開きました。
驚くマルス様。
「この機はロックが掛かっていない……? ああ、そうか。これはマラミュートさん自身が、ご主人様のために一から設計して作ったものだからか」
「ならば参りましょう、マルス様!」
「そうだね!」
なんとかえっちらおっちら外に出られると、レオンハルト様が「リーゼ様! 出られたのですね!」と抱き着いてきました。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、ホッとします。
「リーゼロッテ殿」
レオンハルト様の後ろには、リンドブルム王。
彼はワイバーン公使を連れ、金糸のマントを肩に掛けていました。
「私はこれからドラゴニアの王都リンドブルムに向かう。思ったよりも戦況が悪いらしい。私の配下が鱗を傷つけ戦っているなら、共に戦わねばならぬ。部下想いの貴女に負けるわけにはいかないようだ」
彼は竜の姿を取ると、ついて来た高官と兵たちに帰還の指示を出しました。
最後に私を見下ろして、貴重な助言を残してくださいます。
『アレに対処している時間は我らにはない。パンダが伝承の通りならば骸も回収することは不可能だろう。神話の時代に竜人も苦しめられた化け物だが……リーゼロッテ殿。ここは任せる。あれを倒して我らの同胞たちの魂を宥めてやってくれ。戦況が落ち着き次第、残った遺骸と遺品を拾う』
せめて言い残しておく。
竜人に伝わるかの怪物の伝承だ。
・パンダはあざとい
・パンダは他のヒグマーよりも自分がモテると知っている
・パンダを確保できた国は富む
・ただしパンダは金が掛かる
・とりあえずパンダは竜人や狼人よりも強い
『何よりも恐ろしいのは、奴の食欲だ。「パンダは、いつでもお腹が減っている。そしてなんでも食べる。それこそ、この世の全てを飲み尽くすまで」と帝室法典補足に記載があった』
「伝承ではどうやって倒したのですか?」
『確か……』
竜のリンドブルム王が爪で顎を掻きます。
『国一つ食べたら寝るらしい』
全く参考になりません!
私の怒りが伝わったのか、王は羽ばたきを始めました。
『とにかく私は配下を助けなくてはならん。全て終わるまでそちらはそちらで頑張ってくれ!』
「ちょっと、待ってください!」
バサリと空中に浮かび—————竜人は皆行ってしまいました。
つまり、逃げたのです。
「まあいいじゃない、本当にまずくなったらドラゴニアにあの物体Xを誘導すればいいんだしさ」
「そういう問題ではありません!」
「リーゼ様」
レオンハルト様が私の手を取ります。
「この戦いは長引く可能性があります。いったんリーゼロッテ号を後方に移しますので、ダリウスたちの健闘を見守ってください。私はダリウスの手が回らない所をフォローします」
そのまま黄金犬となった彼は、私のお腹に頭を擦り付けました。
そして、闇の中に去っていったのです。
マルス様に誘導されて、後ろ一角に向かおうとする時のことでした。
赤みを帯びた月に照らされて、ソレはのそりと四足で歩き出したのです。
再度シロカブトを囲み直すバーバリアン様たち。
ぐるるるるるるる。
彼は姿勢を低くして唸ります。
追随して威嚇を始める野犬。何千という犬の低い声が大地に轟きます。
『シロカブトが動くぞ、後ろに回れ!』
「「がう!」」
ダリウス様が指示を出します。
「第二部隊! 野犬たちの死角を守れ! 第六部隊、可能な限り銃弾の届きそうな場所に火器をぶつけろ!」
「待っていたぞ!」
「分かりました」
犬たちに厚く囲まれていくシロカブト。
それはふと黒く染まった地面と多くの骸を眺め、地面に座り込みました。
そして黒い手を伸ばし—————。
私の視界はマルス様の手に閉ざされました。
「何! 何ですか!?」
「見ては駄目だよ。トラウマになる」
音が聞こえます。
モシャモシャ。ボリボリ。シュッシュッ。
『すごいスピードで食らいつくしていくぞ!』
『竜の鱗をマシュマロのように齧っている!』
『骨を扱いてゼリーの様に食べてやがる!』
「……いい? 考えちゃだめだからね、絶対」
目を隠すマルス様の手が、冷たくなっていきます。
キュッキュ。チュー。ゴクリ。
この世のものとは思えないような咀嚼音が、聞こえてきます。
ほんの数刻で視界は開け。
そこには平たい草地。
黒く染められた、ただ広い草地となっておりました。
その真ん中に座るのは、ずんぐりとしたシロカブト。
白い口まわりが、黒く変色しておりました。
山となっていた万の遺体が、ほんの数刻の間に食べられてしまったのです。
げぷ。と満足したそれ。
つぶらな瞳で周りを囲む犬たちを見回して、
『ワン』
と鳴きました。
背中に悪寒が走ります。
それは私が初めて聞いた、シロカブトの声だったのです。
アフガンハウンド卿は、簡易テントの中におりました。
優雅に椅子に座って目をつぶっています。
そして、真正面に立っているラスカル様が泣きそう———―いえ、本気で泣いています。
代わりにキース様がアフガンハウンド卿に抗議します。
「ぐす、ぐす」
「ひどいですよ、アフガンハウンド隊長! 発明したのは隊長だけど、子犬隊は私たちがずっとバージョンアップして育てて来たんですよ!」
「私も作った時は頑張ったけれど————もう意味ないじゃない。王族が来たってもう何もないよ。何にもない」
弟はもういない。
あるのは、彼の最後の希望だけ。
せめてシロカブトを倒したい—————それだけ。
私がテントに入って来たことを、彼は気が付いていました。
しかし、片眉を上げたきり。
何の反応もしません。
「野犬は、野犬として勝たなくては意味がないじゃない」
「このままシロカブトが暴走して、甚大な被害が出てもいいのですか!?」
「……別に。私は負け犬だからね。好きなことを好きなだけするだけさ」
「狂っている!」
「狂っている?」
彼は—————嗤いました。
「私は弟がいなくなった時からおかしくなっていますよ。ねえ、陛下」
「え? 陛下?」
「ぐす……!? ハ、ハンカチないかハスキー!」
パニックになる二人の肩越しに、私を見つめるアフガンハウンド卿。
彼は簡易イスから立ち上がり、マルス様に守られた私に近づいてきました。
「ねえ陛下。
なんで犬人には王族なんてものが必要なのですか?
なんで貴女を狂おしいほど求めたくなるのですか?
—―――我々はとうに狂っているのですよ。
犬と人の姿を持った時から。
マータギの魂と結びついてしまった時から。
アイアルなんてマータギの子孫に逢ってしまった時から!
誰とも共に生きることのできない、ただの狼人であれば良かったのに!」
私は紫の瞳で、じっとアフガンハウンド卿を見上げます。
反応のない私に、彼は言葉を続けました。
「―――――ねえご主人様。随分この場所に来るのが遅かったですね。恨んでいますよ」
彼は強く、私を責めます。
「ちょっと、何を無理言っているのさ」
「いいのです」
表情が見えない彼。
でも彼は泣いている。
なぜか、その悲しみが伝わってきます。
「お座り」
『……』
私の命令に、姿を変えてそこにいたのは、サラサラの長い毛をした茶色い大型犬。
そっと首に手を回し、私は抱きしめました。
「ええ。貴方は悪い子ですね。
でも、そんなあなたも愛していますよ。
わんこがいつも良い子でなければいけないなんて、決まりはないのですから」
強く抱きしめ、優しく長い毛を指で溶かします。
ただ優しく、優しく。
大切なものを失くした哀しみに囚われた心に、届くよう。
彼は何も言いません。
ただ静かに、心の涙を流しています。
「そして、来るのが遅れてごめんなさい」
私は自分の首輪を外しました。
そして、アフガンハウンド卿――――いいえ、マスード様の首に赤く銀のラインの入った首輪を嵌めました。
彼は何も反応しません。
「これで貴方は私の犬です。もう離しませんよ」
そのまま何も言わなくなった彼をテントに残し、外に付けられたリーゼロッテ号に再び乗り込もうと外に出ると、どすんと、大きな音がしました。
なんと。
シロカブトが地面を這いつくばっているではありませんか!
丸いしっぽを天に向けたシロカブトの背中に、一人の影。
赤い月を背にし、灰褐色の髪が赤く染まったかのように見えました。
一瞬、光る鋭い目。
どこかで見たような貫頭衣—————あれは!
「ヒグマー。万の時を掛けて繰り返しお前を倒してきた我らに勝てると思うな。
我らウルフハイブリッド――――狼人の血脈は決してお前らの横暴を許さない」
リーゼロッテ大陸の本当の覇者。
サルバイバル・イントラクチア・ウォルフ・ロボ様!
彼は遠目でも、私の視線に気が付きました。
「こんばんはご主人様。今日も月が赤くて綺麗ですね」
にこりと笑うと鋭い犬歯が覗きます。
バーバリアン様の用に強面な訳ではありません。
しかし、どこまでも鋭い視線と顔。
背中に背負う何かが彼の笑顔を壮絶に見せていました。
彼は「そして、」とシロカブトの上で、土下座をしたのです。
「遅参して申し訳ありませんでした――――!!」
いつものロボ様でした!
「どうか顔を上げてください! いつも言っているではありませんか、私を拝んでもしょうがないと」
「いいえ! リーゼロッテ様は我らウルフハイブリッドの女神! 輝かしい我らの希望! 夢! 妄想! 貴女様がいてくだされば、ご飯を百杯は食べられます!」
「ちょっと方向がおかしくなっていませんか!?」
彼は未だ動かないシロカブトの上で正座をし、
「許されなければこの腹を―――――爪で横一文字に裂けばいいのですよね、おまめ様! それが正しい犬人の謝罪のスタイル!」
と、お腹を出して叫びました。
「やめてください、和犬が誤解される!」
必死に走ってくるマメタ様! 黒髪がボサボサです。
どうやら新大陸組がようやくここにたどり着いたようです。
第一部隊で銃火器を担いでいた副隊長のキシュウ卿が怒ります。
「マメ! お前は一体あちらで何を教えているんだよっ」
「違います、キシュウ先輩! そんな、そんなつもりじゃあ」
私も思わずマメタ様を見てしまいます。
「マメタ様……」
「陛下! 違う! 違うんです! 僕じゃないんだー!!」
後日聞くところによると―――――。
リーゼロッテ大陸で共に復興と開発に尽力されているシバ一族たちの中には、ウルフハイブリッドの一族に対し、面白半分に「ルマニア大陸の常識はさあ、まず土下座から入るんだぜ」などと、とんでも知識で教えているもの達がいるそうです。
あとでお仕置きですね!
次から次へと合流する、ロボ様の同族たち。
『女王様!』『ご主人様!』『女神様あー!』
あれは—————狼犬の血を強く残す、ウルフハイブリッドの群れ!
どうやら脳震盪を起こしているらしいシロカブトの上で、ロボ様が宣言されます。
「ヒグマー狩りなら我々にお任せください。狼人の血を濃く引く我らは正しい奴らの狩り方を、良く知っております故」
リーゼロッテ大陸には、ヒグマーがまだまだ残っていると言うのです。
ロボ様は、自分が倒せてないことにイラついているバーバリアン様に言い放ちました。
「ピットブル一族の長よ! 正しく闘犬の男どもよ。俺が加勢してやろう。この獲物は我々のものではない。女神への供物だ—————」
彼は巨体を下り、自然と道を作る避ける野犬の群れを過ぎ。
動かなくなった子犬隊の元に歩み寄りました。
ダリウス様が注意をします。
「その戦車は使用できないが」
「いや、十分だ。丁度いい持ち手があるじゃないか」
―————持ち手?
彼は一台の砲台に手をやりました。
「その戦車、まだ第四部隊のチンと第二部隊のチベタンマスティフが入っているぞ!?」
「気にするな」
「気にすると言う問題ではなく!」
彼は砲台を掴んで、戦車を—————持ち上げたのです!
「狼人―――――。確かにあれは古代の孤高の民だ」
そのまま砲台を肩に担ぎ、シロカブトに向かって戻り始めます。
その異様に、自然と道が出来てしまうほど。
「だが、狼犬は野生も飼い主も全てを手に入れた最強の混合種!
我らは女神に、最高の熊鍋を捧げる! 闘犬よ、私に続け!」
彼は走って―――—シロカブトの頭部に戦車で殴りつけました!
『わん!』と悲鳴を上げるシロカブト。
「ヒグマーには爪も牙も砲弾も通らない! だから、物理で殴って中身を壊すのだ!」
なんという戦い方!
私はひたすらあんぐりと口を開けました。
「そうか……では負けるわけにはいかないな」
「ダリウス様?」
彼も一台の戦車に近寄き、戦車を根性で持ち上げたのです!
恐るべし、本気の犬人の力!
(いえ、これはあくまで狂犬だからでしょうか—————?)
第四部隊から「あれは中にチワワが入っているよー!」という悲鳴が上がります。
『ふ。ふふ。ふはははははは! 面白い!』
バーバリアン様たちが、次々と人の姿へと変わり、戦車を担ぎ上げていきます。
悲鳴を次々と上げる第四部隊。
そしてどうやら彼自身はパグ様が入っているらしい戦車を掴み、的へ向かいゆっくりと歩み寄って行ったのです。
「狼犬よ、野犬と狂犬に負けてなるものか! 我らこそが女神に最高の供物を捧げるのだ!」
「リーゼ様のために、月に向かって吠えるのだ!」
「面白い、面白いぞ! 嬲り殺してやる!」
なんという展開でしょう。
狼と野犬と狂犬が戦車を担いでシロカブト―――――パンダを撲殺すべく、向かっていったのです。




