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女王様、狂犬騎士団を用意しましたので死ぬ気で躾をお願いします  作者: 帰初心
第二章 リーゼロッテと素敵な珍犬たち
33/66

第九話 ご主人様、お願いがあります ( by アフガンハウンド )

 大きな白い雲が立ち上がる、曇り空の下。

 

 真夏のコートで私は倒れました。

 汗が止まりません。


「陛下、それくらいで音を上げるなんて恥ずかしくなくて?」


 近くに立つのはプードル夫人。私はスパルタ教育を受けています。


 彼女の白いスコートにノースリーブ。

 はっきりとした美貌を彩る、くるくるに巻かれた白い髪がまぶしいです!


 彼女は手の中に愛犬育成書バイブルを持っています。


「いいえ次は倒れません、是非もう一度!」


 私は両手を再び持ち上げて、構えの姿勢を取りました。

 同じく青いスコートに青の半そでシャツ、長い髪は頭の上でまとめています。

 大きなつばの帽子を被り、日差しは遮っておりますが……眩しいです。


「よろしくてよ。陛下、いきますわよ!」

「はい!」

『無理なさらないでくださいね……』


 私はテレサさんに向かいます。

 大きなパラソルの下にいる彼女の毛並みを凝視し、いかに的確な急所を見つけるか。


 最高レベルのもふもふの、ニューファンドランド一族の毛並み。


 この巨大な難敵に、私の小さな手が打ち勝てれば……!

 私はキっと表情を改めました(そうは見えませんが)。

 

「負けません」


 王族かいぬしの褒め技の中でも、最高難度Gであるという【よーしよーし、わしゃわしゃわしゃわしゃ】。


 全身を一瞬でくまなくもふりなでまわし、的確なツボをマッサージして天国に送るという、究極の技。


 技の開発者は、王族かいぬしの中で唯一成功したという伝説の人、ムツゴロー・ビューデガー。

 アベルお父様の手記には「尊敬している。あれはいい意味でいかれている」と書かれた彼の方。


 私は心の師匠として、彼を仰ぐことにしたのです。




 周囲を色とりどりのパラソルセット。その下にはたくさんの女性陣。


 皆さん貴族のご婦人と女性文官の方々です。 

 多くが犬の姿をとって、椅子やテーブルの下にお座りしております。


 そして全員。

 首に紫色の綺麗なレースのリボンを結んでいらっしゃいます。

 

『リーゼ様あ! 頑張ってくださいませー!』

『その顔しびれます!』

『是非次はワタクシの毛皮とも戦ってくださいませー』




 一人の女性文官が、様子を見ているマルス様に言いました。


『ところでこの椅子に座っている、黄色い丸いぬいぐるみは一体何ですの、マルチーズ様』

「宰相の代理です。とりあえず置いてあげてくださいマダム」


 食堂の方から料理長アラン・ブラッドハウンド様が、片手に紙袋を吊り下げてやってきます。

 髪を普段よりは高く縛って、ぶんぶんと紙袋を振ります。


「陛下ー! 休憩にはちゃんとおやつを食べ下さいね。あたし特製のバウムクーヘンを作ってきましたよー。シャワー浴びたら食べてくださいね」

「バウムも大好物です! 頑張ります!」


 私はテレサさんに挑みかかりました。






 私が、あえて犬人が喜ぶ技を極めようとするのには、理由があります。

 マスード・フォン・アフガンハウンド様。

 

 かの方に、とあるお願いをされたのです。






「アフガンハウンド! そもそも貴様はどういうつもりだ!」


 会計局長であるアリ・フォン・ボクサー様が仁王立ちして怒っています。


 ここは私の執務室。

 先日と同じシチュエーションですが、部屋の中を構成する人物が違います。


 怒られているのは、犬の姿のまま執務室の絨毯の上に座り込んでいるアフガンハウンド卿。

 サラサラの毛並みが一見優美に見えますが、ところどころもつれ、埃がついています。

 手入れを怠っている証拠です。


 彼は先ほどから、ずっと首を傾げています。

 

『見ての通りだよ?』

「いつも通りに文官服を着替えるのが面倒くさいから犬の姿のままというのは分かる。だが、お前が連れてきた一族がひどすぎるぞ!? 俺の仕事まで奪われてしまった」



 海岸の防波堤を作るはずが、要塞を作ってしまった。

 畑を修繕するはずが、野菜工場を作ってしまった。

 予算が尽きたかと思ったら、金山を発見してきた。


 やった!


「何がやった、だ! 順序がめちゃくちゃだ!」

 

 叫ぶボクサー卿に、あくびをするアフガンハウンド卿。


『いいことじゃない。結果さえ良ければ。君たちトレーニングでもしなよ。好きなのだろう?』

「いいや、それどころじゃない。気を抜くとお前ら人の書類を改変したり、落書きをするだろうが! 監視だけで時間が取られる。なんで一つずつ相談を、だな」

『改変じゃないよ。カイゼンだよ? そっちの方が効果あるのだからしょうがないじゃない』

「……落書きの方は」

『すぐに飽きちゃうからだって。分かるよ』

「駄目だろうそれは!」


 ぎゃんぎゃんと怒るボクサー卿に、アフガンハウンド卿は馬耳東風ばじとうふうです。犬耳ですけど。


 再び席に座った私は、足元にマルス様。

 真ん丸ゴールデンレトリバーのぬいぐるみは、負ぶい紐で背負った状態です。




 レオンハルト様の「傍にいたい」思いを叶えるために、長らくぬいぐるみと共におりました。しかし最近は大分愛着が湧いてきて、ぬいぐるみを「れおん君」と呼び親しんでおります。


 しかしそれが良くなかったのか……。

 先日は私を優しく見守ってくださったはずのダリウス様が、「なんとなく生意気だな」と中身子犬に戻ってしまい、ご自身の犬小屋に銜えていき、中で分解しかけたのを慌てて救出いたしました。

 もちろん「め!」の対象です。


 ダシバと一緒に眠らなくなって久しく、こっそり枕元に並べたりもいたしました。

 すると朝起きたら……天蓋からぶらんと吊るされておりました。


 床下のマルス様曰く、天蓋の上に潜んでいる第五部隊の皆さんが『綿の塊の癖に何かむかつく』と吊るし上げてしまったとか。




 結局ところ。

 犬人にとって、王族の愛犬はなみはなさずとは。


 どのような犬でも嫉妬の対象からは逃れられず。 


 庇えば庇うほど、犬人(特にオス)から攻撃の対象になってしまうようです。


 歴代の愛犬たちは強かったはずです。

 こんな面倒なオスの嫉妬に勝たなくてはならなかったのですから。

  

 『れおん君』の外れかけた目を縫い直してくださるテレサさんが、

 

「オスは嫉妬深いのです。愛犬を傍に置くにしても、程よい距離感を守ることが、愛犬にとっても大切なのですよ」


 と、教えてくださいました。

 

 私はダシバが帰るまでに、「程よい距離感」というものを学びます。




 —————さて。

 全く『れおん君』に気にも留めないアフガンハウンド卿は、ちらりとこちらを見ます。


『ご主人様は、こんな私でも宜しいのでしょう?』

「ええ、一族の皆さんがお手伝いてくださるのは嬉しいですよ。でも、私は貴方が書類に足形ではなくハンコを使うようになってくださったのも嬉しいです」


(それに、とっておきのエンジェルわんこ頂きましたし)

 私のワンピースのポケットの中には、くじ付きお菓子【キョロわん】の当たり、銀のエンジェルわんこが五枚。これで、憧れの『わんわんエンジェル缶』に交換してもらえます。


 今朝。

 『れおん君』をおぶい紐で背負っている私に、アフガンハウンド卿がこれを私のためにと差し出して、「実はご相談がありまして……」と切り出してきたのです。


 思わず銀のエンジェルわんこを凝視して動かなくなった私。

 マルス様が「やばい」と前に立ち、偶然その様子を見かけたド―ベルマン卿とボクサー卿が、慌ててついて来たのです。




(これは買収ではありません。わんこの悩み相談なのです)

 必死に自分に言い訳をしていると、応接用のソファーに座るドーベルマン卿が、一方的な喧嘩をするお二人に声を掛けられました。

 

「アフガンハウンド卿は昔からこういう御仁だ。アリ、それよりも陛下が拝聴される気なのだ。肝心の話をしてもらおうか」


 答えの見えない問答に、応接用のハーブティーを嗜むリヒター・フォン・ドーベルマン卿。

 膝に昼ワイド劇場の脚本を載せて読んでいます。権力を利用し、たまに自分の脚本を無理やり使わせているそうです。


 他によくつるんでいるロットワイラー大臣は仮住宅建設が忙しく、建材を抱えて現地で頑張っておられるそうです。


 監督はアンゲラ・レオンベルガー様。ロットワイラー卿はどんなに過酷な監督の指示にも体力の限り釘をうち、板を張り、流れ着いたご老人の介護をし……。


(ん? 大臣……?)

 ケンネル王国の大臣の仕事とは、一体何をすることなのでしょう。 





「だからな、」とボクサー卿が口を開くところに、扉を叩く音。


 ドアの向こうの人物を察したダリウス様が、扉に向けて「入れ」と命じました。


『あ、あの! お呼びでしょうか!』


 飛び込んできたのは第四部隊隊員のビーグル技術主任でした。

 後ろからラスカル様が付いてきます。


 彼は相当慌てて来たのか、犬の姿です。

 口の周りには、べったりとついたソース。


 ラスカル様が食後すぐに呼んでしまったようですね。申し訳ありません。


 彼を見たボクサー卿とドーベルマン卿は、ああと納得されました。


「なんだ、掘削の……なるほど」

「緊急だが仕方がない。陛下、これは同席させてもらいますよ」

 

 三局長には先日すぐに新しい地下道について相談し、了解を得ています。

 



 緊張するビーグル主任に、優しく声を掛けました。


「新しい地下道について、マラミュート卿からお聞きになった件ですが」


 ピクリと彼の耳が跳ねます。


『え!? 本当に新しい地下道を作っていいのですか!? やった! どこを掘っていいのですか!? リーゼロッテ大陸までの海底トンネルですか!? 昔暇に飽かせて結構掘っちゃったのですけどようやく後出し許可ですか!? むがっ』

「しー!」


 ラスカル様が慌ててビーグル主任の口を閉じました。


 聞き捨てなりませんが、ここは我慢です。

 彼らがうっかりやりすぎてしまったことを怒るには、時間が経ちすぎております。


 わんこのいたずらでは、どんなに怒っても時間が経ってしまったものには反省をしません。

 その場で「め!」をしなければ意味がありません。


 たくさん、たくさん。学習をいたしました。

 

(別の形で、ホウレンソウを仕込むことといたしましょう)


 ビーグル主任の口をつかみながら、チラ、チラと焦ってこちらを見ているラスカル様には何も言わずにこりと笑うだけにいたしました。

 ……見えないはずのしっぽが、内股に入っておりますね。




 改めて話を切り出します。


「さてビーグル主任。もう一回、大陸全体に大きな地下道を張り巡らせたくありませんか?」

『ん? 全体? 陛下、隊長。どういうことです?』


 ラスカル様が【地下道を二重に地下深く張り巡らす計画】説明すると、目をキラキラさせて頷きました。


『それはやりがいがありますね! 隊長! 団長! 予算はおやつ代込みでお願いしますよ! では、行ってきます! ぎゃ!』


 扉に向ってダッシュをしたビーグル主任が「きゃん!」と悲鳴を上げました。

 絨毯に寝そべるアフガンハウンド卿にぶつかって転んでしまったのです。


 彼は慌てて土下座をいたします。


『ぐ、軍務局長! す、すみません! 僕、悪気があってぶつかったのではないんです! 毛皮にソースをつけてごめんなさい! 僕、ただ、目の前が穴掘りのことばかりになって世間がどうでも良くなったんです!』


 全くいい訳になっていません。


「あー、これは職人犬おたくの悪い癖が出ましたね。私もよく開発に夢中になると人生がどうでも良くなります。故に独身です」

「マラミュート卿。そちらは本当にどうでもいい話ですね」


(しかしあの混乱状態。これは少々間に立った方が良さそうです)

 私が立ち上がって、ビーグル主任を宥めようとすると。


 アフガンハウンド卿は人の姿になり、慌てて謝るビーグル主任をひょいと持ち上げました。


「気にするな。第四部隊とはそういうものだ。だが口は拭いておくといい。これから多くの隊員の前で説明をするのだからな」

『あ、はい。ありがとうございます……』


 そして珍しく穏やかに微笑み、文官服の袖でビーグル主任の口を拭うと、ゆっくり下ろしたのです。

 ビーグル主任は目の前で微笑むアフガンハウンド卿を、不思議そうに見上げました。


 少しの間。


 そして彼は『は。急がなきゃ』と慌てて犬の姿のまま、廊下を走り去っていったのです。

 

 私の横でマルス様が、「珍しいね。アフガンハウンド卿は汚れを気にしないし、そもそも他人にあまり興味がないのに」とつぶやきます。

 

 斜め前のラスカル様が答えます。


「元々アフガンハウンド隊長はビーグル一族が大好きですからね。母親がビーグル一族出身なので」

「お母様がビーグル……」




 父親と母親が別の犬種でも、混合種ハイブリッドにはならず、どちらかの特徴を持って生まれてくるそうです。


「大昔はたくさん居たそうですよ、混合種は。犬人の模範たるポチ様もそうでした。今ではリーゼロッテ大陸のロボ様たち狼犬ウルフハイブリッドくらいでしょうか」


 王族が直系から離れると飼い主の匂いが殆どしなくなる。それと同じくらい、このケンネル王国の不思議と言われております。


「それにしても。もともとアフガンハウンド一族は犬人の中でも忠義心が低いことで有名です。いくらハイデガーの発言があったにしても、あれだけ協力的で友好的な彼らをみているといっそ気持ちが悪いですね」


 と、ダリウス様がおっしゃると、アフガンハウンド卿はこちらを振り向きました。かなり文官服が汚れていらっしゃいます。


 彼は私を見て、「おっと失礼」と犬の姿に変わられました。

 犬スタイルは、汚れを誤魔化す常套手段だそうです。


 そして『では陛下。今度とも書類に足形ではなく、ハンコを押すよう努力しますので』と挨拶をし、扉を開けて優雅に長い毛を靡かせて去っていきました。









 —————って、え?


「お前用事があったのではなかったのか!?」


 ボクサー卿の叫びに、扉の向こうでうっとおしそうに振り向いたアフガンハウンド卿。


『忘れていました』

「忘れるなよ……」


 ドーベルマン卿が呆れます。

 




 改めて。

 今度はソファーに寝そべっていただき、私を呼び止めた理由を説明していただきます。


『そもそも私は仕事が嫌いなのですが』

「知っている」

「知っている」

 

 間髪入れずに返答する二人の局長。

 足元でマルス様が『有名な話だよね』と解説してくださいます。


 戦争の傷で頭が鈍る前から、ずっと仕事嫌いで有名だったそうです。当時副隊長だったラスカル様に色々押し付けてはサボっていたとか。

 独立独歩のアフガンハウンド一族では珍しくない性格です。


『そんな私には性格が真逆の働き者な弟がおりましてね。

 同じ母親から生まれましたが、あいつは母親の血が出てビーグルでした。しかもビーグルらしく元気いっぱいで、ポチ様に憧れる男で。

 アベル様のことも大好きで……それがいけなかったのでしょうか』

 

 アベル様が死んだ時、絶望であいつの野犬化が始まりました。


 あいつは『野犬になったら僕は誰かを傷つけてしまうかもしれない。社会でも認めてもらえないだろう。ならべせめて。僕はシロカブトを探して倒し、国での存在意義を手に入れる』と山に入り……二度と見つけることはできませんでした。


 部屋の中は、時計の音だけが聞こえます。


 彼は続けました。


『八つ当たりとは知っていますよ? でも野犬になって帰ってきても、犬人としては生活できない。所詮、ケンネル王国では死刑か終身刑です。あの普通犬立ち入り禁止あの犬棄山ばしょから、一生出てこない。私は急いで犬棄山を捜索し、弟を見つけることも出来ず、他の野犬に襲われ瀕死の重傷を負って帰りました。本能が全てを上回った奴らは、強い……』


 その後、アフガンハウンド一族はすっかりへそを曲げました。

 防衛戦ののち、領地に籠ってしまったそうです。


『私の一族は小さな弟をそれは可愛がっていましたから……余計に忠犬なんてものが嫌いになりましたね』


 王族が好きでなければ、野犬になることもなかったのに。


 犬人わんこを愛しているなら、王は我々をなぜ捨ててあの世に行ってしまったのだと。

 

 王族は我らを、捨てたのだ。




 —————しん。部屋の中が静かになりました。

 局長の二人も目を見開いております。


「アフガンハウンド卿……」 

『しかし今度の難民問題では、野犬が混じっていると言うではありませんか。陛下、私は貴女様の姿勢に協力をすると申し上げ、一族もやる気になりました。これにはもちろん、下心があります』




 アフガンハウンド卿はのっそりとソファーの上から立ち上がり、私の元に歩いてきました。

 そして執務椅子に座る私を見上げます。


『野犬が山から出た。これは異常です』 


 本来野犬は犬棄山ほけんじょから出るはずがない。

 なぜならば、宿敵ヒグマーを探し続ける本能から、離れられないのだから。 


『私はもう、開発する頭脳も戦う力もありません。仕事の出来ない犬には、犬権はないでしょう。

 ですが、貴女様を見込んで頼みたい。野犬になった弟を探して王族として説得し、領地に戻していいただけないでしょうか』




 彼は人の姿になりました。

 ぼさぼさですが、細く長い絹糸のような髪。年齢不詳で繊細な顔。絶世の美青年であるマゾ様を月光に例えるとすれば、彼は妖精のように優美で不思議な雰囲気がありました。

 そして、額に小さな引きつったような傷。


 流れるような仕草で私の手をとり、甲にキスをいたします。


「忠誠心のかけらもないアフガンハウンド一族の協力と、私の全てを捧げます。どうか、弟を助けてください」




◇◇◇◇




(思い出すと、文官服にジュースのシミがついていました。だから人の姿に戻らなかったのですね) 

 そんなことを考えながら毛皮と戦っているとやがて日が傾き、私はコートで力尽きました。


「腕が……腕が攣りました」

『陛下!』


 文官のプーリー様が悲鳴を上げます。


 私は膝をつき、彼女のドレッドもふもふな毛皮を悔しそうに見上げました。

 全く、歯が立ちませんでした……。 


 マルス様に抱きかかえられ、多くのわんこたちがうっとりと倒れているパラソルの下に向かいます。


「これくらいで倒れるなんて情けないです……」

「もう十分だよ、陛下。すでに二十人が『わしゃわしゃ』で幸せになって失神しているじゃないか」

「でももっと、もっと。多くの犬人わんこに満足していただきたいのです」

 



 ————過去の伝聞によると。


 野犬となった犬人も、王族の気持ちの籠った撫で技には反応したとあります。

 

 危険だからと始末されるのではなく、なんとかケンネル王国に保護できないのか。

 私はそう考えているのです。


(難民も、野犬も。なりたくてなったわけではないのです)


 研究所には研究を進めてもらっています。

 ですが、自分としても出来そうなことは何でもやろうと、今日のような特訓を繰り返しています。

 

「ムツゴロー様が遠いです……」

「そりゃあそうだよ。そう簡単に届かないから伝説なんだよ?」


 ため息をつきながら、テレサさんがバスタオルを広げて待つ場所へ向かったのです。


 

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