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女王様、狂犬騎士団を用意しましたので死ぬ気で躾をお願いします  作者: 帰初心
第二章 リーゼロッテと素敵な珍犬たち
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第八話 ご主人様! おやつは骨派ですか? ジャーキー派ですか? 僕らは全部派です!(by 一部の珍犬な皆さん )

 拝啓 お義兄様

 

 お元気でいらっしゃいますか。 

 あの子は変なものを拾い食いしていませんか? 

 大導師はおやつを与えすぎていませんか?  

 リリック様が緊張で逃げ出されていませんか?

 ヨーチ様に取材と称して、夜の街に遊びに連れていかれてはいませんか?


 旧ユマニスト領では、あの子が脱力系キャラとして大人気だと聞きました。


 裁判所でお手伝いをすると、純人教徒が素直に謝そうですね。

 そして犬人がアホらしくなってやる気を削がれ、見事に解決をしてしまうのだとか。

 お役に立てて良かったーーー


 ————さて、帝国の内乱は収束傾向にあります。

 鰐人と蛇人の間が一時期悪化し、鰐蛇同盟が早々に瓦解してしまいました。

 主要三人種で三竦みとなり、竜人領域への侵攻しかえしは止まったそうです。


 ですが、国がそれぞれ独立した後、再び平和条約を結ぶ必要があります。


 ずっと仲が悪くても困るのです。

 特に、ある女性たちの戦いには決着を付けていただく必要があります。

 マゾ様にはきちんとけじめをつけていただきたいものです。


 そしてケンネル王国では、最近商業や流通が活発になったおかげか、国内で面倒な事が—————




◇◇◇◇




「困りましたね……」


 私は王の執務室で悩んでおりました。


 隣には書類を眺めるダリウス様。

 パラリと紙を捲る音が聞こえます。


 左隣の椅子には真ん丸ゴールデンレトリバーのぬいぐるみ。

 足元ではマルス様が白い犬となって座り込み、あくびをしています。




 私を悩ませる問題。

 それは目の前の第四部隊隊長、ラスカル・フォン・マラミュート様が持ってきた二つの報告です。


 一つは、一部の地下道が使えなくなったという報告。

 もう一つは、おやつメーカー国内上位二社の大喧嘩です。


「前者はとても大変な問題ですね」

『いいえ、陛下。後者の方が問題です』

 

 報告を持ってきたお礼に「わしゃわしゃ」をやって差し上げたラスカル様は、アーモンドの目を細めてとてもご機嫌です。

 ですが、この件については強く拘っておられます。

 

 どうやら隊員の一人のご実家が、喧嘩しているおやつメーカーの片割れだそうで……。

 ずっと休暇をとって戻ってこないのだとか。

 それは心配ですね。


『チワワ君がいないと、他に誰もおやつ用の金を貸してくれません。第四部隊のおやつのストックが厳しくなるのです』


 実に私的かってな理由でした。






 まずは地下道の問題。

 これは全く想像しておりませんでした。


 地下道を食料の流通に使用するという計画は、難民の食糧難を解決いたしました。


 その代わりに。

 国民に軍事用道路の存在と場所が、発覚してしまったのです。


 戦車よりも小さな、馬のない乗り物たちが潜り込む地下道を見た国民。

 黒い空間を見て第一に思ったこと。



 それは、


 「避暑にぴったり」


 ということでした。



 決断の早い国民たち。

 彼らは次から次へと灯りを持って地下道に入り込み、午後の昼寝タイムに使い始めたのです。


 道の中央でお腹を出して寝るわんこたちの群れ。

 不法入国をしていた猫人にゃんこまでお腹を出して混じっているのが散見されました。流石は涼しいところを探すのが上手な方々です。


 占拠されてしまった道路。

 農村から食糧を運ぶ馬のない馬車たちは、途端に渋滞を起こしました。

 

 運転席から降りた兵士が、目の前の寝ているわんこたちに抗議をします。


「ちょっとどいてよ」

『だってここ涼しいし』

「一応ここ、軍事用の道だよ……」


 確かにここは本来、軍事用の道路。

 これ以上世間にルートが公になると、他国のスパイに利用される恐れがあります。


 第四部隊の穴掘り隊たちは「掘るのは好きだけど埋めるのは好きじゃないなあ」と愚痴を言いつつも、帝国国境付近から王都に繋がる道路に壁を作って塞ぎました。




 結果として、王都への流通が滞っております。

 夏は元々、近隣の農村以外に王都へ食材が入手しにくいのですが、地下道が利用されて便利になったのです。

 しかし突然の閉鎖で、食料品加工業者の生産計画が狂いました。




 その中で起きた二大食料加工業者の喧嘩です。

 しかも、この商会のトップは昔から仲が悪く、何かにつけて張り合っているのだとか。


(ようやく移民の輸送船の目途が立ちましたのに。次から次へと問題が起こりますね)

 私は『おやつが足りない人生なんて』と涙交じりに訴えるラスカル様に、より深く事情を聴くことにしました。






 揉めているのは『わんこ製菓』と『わんわんフーズ』。


 わんこ製菓は名前の通り、甘いお菓子では市場ナンバーワンのメーカーです。

 お菓子以外では、乳製品や製薬にも手を出していて、幅広い商いをしています。

 世間には公言していませんが、私の大好きな【キョロわん】もここのお菓子です。


 会長はコンニ・チワワ氏。

 全く渋く見えないダンディです。


 もう一つはわんわんフーズ。

 骨やジャーキーなど甘くないお菓子が得意で、本業は加工食品業です。王宮の食堂でも業務用のハムやソーセージをここで購入しています。

 貴婦人のお茶会で必ず見かける【高級スイーツボーン】は、この商会のヒット商品だそうです。


 会長はコンニ・チワワ氏と同年代である、ピョンピョン・パピヨン氏。

 こちらも全く渋みが抜けたナイスミドルです。




 この国の二大食品メーカーの会長同士の喧嘩。

 それは、食材の取り合いが直接の原因でした。


「夏でも日持ちの良い材料を取り合ったのが原因です。保存に適した洞窟や風穴は少ないですし、殆どを、ワインを作るブドウ農家や、絹の元のカイコ農家が使用しています」


 ですが、事態を更に大きくしてしまった原因は別にありました。

 とある国際食品コンテストの中止だったのです。


 『ルマニア食品品評会』。

 帝国に本部がある、大陸一の食品コンテストです。


 品評会で金賞を取れた商会は、対象商品のパッケージに『ルマニア金賞受賞』と印刷して、大々的に宣伝できるという利点があります。


 ただしこの賞。あまりにも金賞が乱発されているので「後ろで金もらった審査員がランク付けをしている」という黒い噂でも有名です。


 会長二人はケンネル王国の品評会ドッグコンテストが行われていた頃からの調理部門のライバルです。

 彼らは互いに商会を立ち上げてからも、自慢の商品でルマニア金賞を狙うという戦いを繰り広げてきたのです。




 ちなみに、常にコンテスト序列一位に輝いていたのは。

 我が王宮の料理長、アラン・ブラッドハウンド氏です。

 

 彼は呆れておっしゃったそうです。

『あたしゃあ、本当~に、バカだと思うんですよ。あいつら』と。


 せっかく自分にはなかった経営の才があったのだから、お菓子の技術だけに拘ってここまで揉めることはないだろうにと。


 ブラッドハウンド氏がドッグコンテスト常勝の料理犬として君臨した時代。

 二人のワンコは常にブラッドハウンドをいかに下すかということで競争し、血道を上げたそうです。


 しかし、王族たちの死によってコンテストが中断し。

 ブラッドハウンドが一料理人として表舞台から去っても、二人の争いは終わりませんでした。


 商会の規模で争い。

 従業員の質で争い。

 商品のシェアで争い。


 そして最後は、ルマニア食品品評会で金賞を取り合うことで、毎年の勝ち負けを決めていたのです。


『あくまでおやつ作りの勝負で、序列の上に行きたい!』




 そして品評会が帝国の内乱のせいで中止となりました。

 決着と付けられないフラストレーションが溜まっていたところで、食材の取り合い。

 

 会長二人は食材を巡り、決闘ドッグファイトを始めたのです。


 国民は貴族のように、簡単には犬の姿では喧嘩しません。

 これは相当の事態ではあるのです。

 ただ……。




 ラスカル様の懇願により、第一部隊を一部引き連れ、王宮の近くの壊れかけたコロシアムに向かいました。そこで会長二人の戦いが始まるそうです。


 念のために二人を良く知るブラッドハウンド氏にも、ついて来ていただきました。




 円形の劇場でもあるコロシアム。

 従業員が客席を埋めています。


 中央でにらみ合う二人の小型犬。

 困ったことに、とても可愛らしいお二人です。 

 

「親父ぃ、これ以上は止めようよー女王陛下が来ちゃったよー」

『うるさいクー! 男の意地を見守れ、バカ息子!』

『何? 確かにこの匂いは……陛下! 来ていただけて光栄です! この素晴らしいパピヨンの勝利をご覧あれ!』

『違う! 陛下にはこのチワワの男前な勝ちぶりをご覧いただくのだ!』


 キャンキャンキャンキャン!


(困りました……可愛いですね……)

 私は頬に手を当てました。


「お二方! なぜ決闘なのですか? 料理の腕で競えば良いではありませんか」

『いいえ! 長年いくら勝負としても全然我々は決着が付かないのです!』

『しかも勝負をしようにも、王都には食材が足りません! 少しでも食材が余っているのならば、商品用に回したい!』

『ならば我らの勝負の最終手段は、決闘のみ』

「やめてよ、親父ぃ。ただでさえ運動不足で、腰も悪いんだからさあ」


 感心いたしました。

 食材はあくまで、お客さん用の食品として使いたいという姿勢。


「この時勢に値上げもしていないのですよね、お二人は」

「ええ、国民が安定して商品を買えることが商会の使命と申しております。

 あいつらは料理人としてはあたしに勝てませんでしたが、商人としてはとっくに序列ナンバーワンでしょう」


 私は「そうですね」と頷きました。


 にらみ合う彼ら。

 ハラハラと見守る家族や従業員たち。


 国を支える二人の、真剣な眼差し。


 私は隣のダリウス様を見上げました。

 彼は水色の瞳を細め、頷いてくださいました。




 ―————ならば。

 私は女王として、一つ決断をいたします。


 


「お二方! 決闘はやはり料理で致しましょう!」

『何をおっしゃいます、女王様!』

『ただでさえ食材が滞っているの』


 きっと睨みつける二人の小型犬。

 彼らを見下ろして、私ははっきりと述べました。




「国内の軍事用地下道を、全て民間に開放いたします。避暑にも保存庫にもぴったりですし、今後の熱中症患者も激減するでしょう」






 勿論、王宮の下は埋めますけどねと付け加えましたが、彼らは興奮してあまり聞こえていないようでした。


 —————なぜ彼らは大興奮をするのか。


 通常温度の低い地下道があれば、必要とされる食材が大量に保存できるのです。

 更にもっと涼める場所が増えれば、避暑わんこで地下道が埋まることもないでしょう。






 この案は全ての犬人たちに歓迎されたかに見えました。


 しかし何事にも両面があります。

 一つ私が決めれば喜ぶ犬と同時に、悲しむ犬が出てきます。




 私は執務室で、今度は違うお二方に責められておりました。


「陛下! 実に嘆かわしい!」


 目の前で眉間の皺を深めて怒っていらっしゃるのは、地方を中心に警備をされる辺境騎士団。

 その団長である、ジャック・フォン・ラッセルテリア様。


 少し童顔で若々しい方ですが、髪は白髪交じりで目尻にも皺があります。

 実は御年五十五歳を越えておられます。


 この方は、アフガンハウンド一族の偏屈とは別の意味で、頑固な方です。


 いわゆる因習や過去のやり方に固執される―――――というタイプですね。


「今まで秘密に運営してきた軍用道路ですぞ! これで他国にバレてしまうではありませんか! 

 子犬隊プッピーズが今後他国に向かおうとしたら、すぐに察知されてしまうではありませんか!」

「そもそも、他国に侵攻する予定はありませんけど」

「平和時に常に戦時を考える! これこそが軍人でありますぞ! いくらでも相手の首の根を押さえられる仕組みは何重にも作っておくべきです!」




 彼が怒りやすいのは今に始まったことではありません。


 ですが直談判を決めたきっかけは、帝国国境近くで避暑を始めた犬人わんこたちと、辺境騎士団のとのやり取りだったそうです。




 地下道のあちこちで、べったりとだらしなく群れる地元民。

 この様子に辺境騎士団のブルドック隊長が怒りました。


「お前等! これ以上勝手に使用するな! 他国にバレたらどうする! ここは忠犬として場所をくにに譲るべきだろう!」

 

 老犬のブルドック隊長の怒号に、犬人の何人かがむくりと起きます。

 そして特に気も止めず、逆に諭してきたのです。


『えー、だってここは体に良いよ。夏の午後はみんなひんやりした方がいいって。外は川やタライしか涼が取れないのもどうかと思うし。洞窟は地面が尖っていて危険だし』

『ここならコウモリの糞も落ちてこないしねー』

「アフガンハウンド卿が許可した流通も、緊急事態ゆえの一時的なものだ! 国民ならそれくらい我慢しろ!」


 老犬はあくまで軍務卿が臨時にと強調したのですが、逆に反論をされました。 


『でもその軍務局長から役場に通達が来たよね。「駄犬ダシバを見習って、ストレスを減らせって」』

『よく考えてみると、戦争の時も大変だったし。苦しい時も多かったし。リーゼロッテ様が僕らを嫌って帰らないか気が抜けなかったし。もう疲れっていうかー』

『もう無理して陛下に良いところ見せなくてもいいのでしょう? 僕らを置いて行かないのでしょう?』

『陛下は「わんこはわんこでいいのです。毎日楽しく仲良く暮らしていていきたいのです」って言ったのでしょう? —————それなら、とりあえずみんなで健康になって、毛艶のいいところを見せようぜ』

『よく考えたら、わんこ教の教義けんこうにも合うしね』


 彼らの言い分に、ブルドック一族の深い皺が更に深く刻まれました。 


「屁理屈だ!」

『まあ、隊長も休みなよ。老害、老害って雑誌に叩かれるのも疲れたでしょ。春は火事の熱さでへばって、大変だったんだしさあ。少し休みなよ」

『おじいちゃんもやすみなよ』

「ちょ、おまっ、あ!」


 犬人達が次々に人になって立ち上がり、ブルドック隊長を引きずり込んでいきます。

 そして、「あ、涼しい……」と零し、冷涼な空間に吸い込まれて寝てしまったそうです。疲れていたのですね。お仕事お疲れ様です。




 決して口に出してはいけませんが……。

辺境騎士団は、生まれが宜しくてもなかなか就職できない方が、コネで入る有名な就職先おやくしょです。

 故に中央騎士団へのライバル心が強く、ラッセルテリア団長はその筆頭でもあります。


「許せませんぞ! 今からだらけた国民たちを排除する許可をください!」

「そうですよ! 地下道なんて閉鎖してください!」


 本日もう一人の直談判者が吠えました。




 先日お会いした、ケンネル・タライ販売協会の会長、イラタ・ウォーター・スパニエル氏です。


 彼は先日行商人協会の会長とファミリーサイズタライで衝突した件から見た限り、とても自分の利に執着されるお方です。


「タライが売れなくなるではありませんか!」


 国民が皆、地下道で避暑できるようになってしまったら。

 命綱タライを買わなくなってしまう。


「タライ職人にタライ販売業、中間タライ業者。しめて一万人! 彼らを失業させる気ですか!?」

「他の売り方も考えましょう」

「冗談じゃありませんよ! 我々は代々水をたっぷり湛えて毛皮を冷やすタライ一本でやってきたのです。桶の時は桶業者に儲けが行ってしまいましたし、一体陛下は我々を何だと思っているのですか!」

「大切な国民わんこです」

「ならば! まずは私を儲けさせてください!」


 実に正直な方ですね。

 これはこれで感心していると、足元でマルス様が『サクっと殺っちゃっていい? ご主人様』と訊ねてこられます。




 ダリウス様も以前ならすぐに同意をされておりました。

 しかし、今は私を静かに見ております。

 そして、研究所にいる博士とアフガンハウンド一族たちが考えた、何通りかの代案の書類を私に渡してきたのです。


(この国には狂犬以外にも様々なわんこがおられます。ならば、それぞれに何とか妥協ラインを示さねばなりません)


 私は荒ぶるお二方に、提案をいたしました。


「二人とも、おすわり! 犬におなりください」

「わん!」


 私は座り込んだお二方に近寄りました。

 そしてよしよしと頭をなで、彼らの高ぶる感情を宥めながら言ったのです。


「私はあなた方に期待しているのですよ?

 まずはラッセルテリア団長。貴方は各地の地元の青犬団に強いコネがあります。ともに軍用地下道から町の中央まで地下道を延ばしなさい。町の冷房として財産にするのです」

『勝手に掘っていいのですか!?』


 彼の短いしっぽが急激に振られます。

 それを見ながら私は言葉を続けました。


「許します。リーゼロッテの名で国中の領主たちに許可を出しましょう。設計図をこちらに提出し、技術者が揃い次第、貴方たちが監督なさい。女王の目として、責任を与えます」

『女王陛下の目!?』


 なんと格好いい……!


 普段は大きな行事の殆どを、中央騎士団に奪われて不満だらけだった彼の目に、やる気の炎が灯ります。 短いしっぽが激しく動きます。




 そして、不貞腐れた顔をしているスパニエル氏には、儲けの話を提案しました。


「そして、タライ販売協会には、優先的に広告権を差し上げましょう」

『広告ですか? タライに書くのではなく?』

「これからもっと大きな宣伝場所が解放されるではありませんか」



 ―————地下道の壁をジャックして、タライの宣伝にお使いください。



 私は、地下道を全て広告空間にすることを説明しました。

 所々に穴掘り犬の方々が落書きをされていますが、塗りなおせば大丈夫でしょう。


『それは……!』

「これからは国民の地下道または休憩所として有名になりますからね。壁いっぱいの広告は集客もしやすいでしょう。タライの広告をしている間に他の有用なタライの利用法や他の商品開発に時間を取りなさい。すばらしい発明をしたのならば、存分に誉めて差し上げます」

『ですが、もしも。もしもですよ? それでも損だ、足りないと申す者がいたら……』

「言い過ぎだぞ」


 ダリウス様がぐるる……と低い声で注意します。

 ひえっと小さくなる会長。


 私は「いいのです」と、許可をしました。


「本当にすばらしい発明とは、作ったもの・販売したもの・買ったものが、皆良かったと思える商品です。

 自分の利益に固執せず、良いもの、追い使用法を提案してください。私は喜んでその場でこの髪を縛るリボンをほどいて、あなたの首に結んで差し上げましょう」

『女王陛下の!?』


 会長がびっくりしてしっぽをぴんと延ばします。

 ええ、と私は頷きました。

 

 そして、「ただし」と続けます。


「地下道を閉鎖しろといったお言葉は忘れませんよ。

 今後も一時の自身の儲けだけを考えて、国民に被害が出る行動をなさったら……私も怒りますからね」


 微笑みはしませんでした。

 しかし、口の端を少しだけ、上げました。


 それだけで会長は固まり、『ひゃ、ひゃい!!』と飛び上がって出て行ったのです。




 同時に固まっていた辺境騎士団団長も慌てて礼を取り、扉から出て行くと―――――ダリウス様が問いました。




「戦争が本当にこの世界からなくなるのであらば、秘密の地下道はいらないでしょう。私は貴女様のお考えに従います。ですがこの世に可能性がゼロというものはありえませんよ」

「はい。だから改めて掘りましょう。更に深く、こっそりと掘ればいいのです」

 

 私の手の中の代用案には『こっそり掘っちゃえ』というものがありました。

 

「国内でも一部のものしか知らない軍用の穴を、掘ってしまいましょう」




 地下道の更に地下に、緊急用の軍用地下道を作ってしまえばいいのです。

 本当に秘密にするのならば、関係者を最小限にすべきです。




 マルス様が人の姿になって紙を覗き込み、にやりと笑います。


「ご主人様も、大分お人が悪くなったよねえ」

「私は、早く大人になりたいのです」

「でも無理だけはしないでね。僕がすぐに混乱する不器用なご主人様も大好きだよ」

「……褒められてはおりませんね。でも、ありがとうございます」


 ダリウス様は何も言わず、そっと頭に手を載せてくださいます。

 

「ありがとうございます。でも、頑張ります」




 私は、書類を机に置き、第四部隊を呼び出しました。

 隊員チワワが無事に戻り、おやつを大量に確保してほくほくしている今なら。

 何でも協力してくださりそうです。


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