第三話 僕は可愛くないですからね! 可愛がってくださらなくてもいいですからね!( by シバ )
海と山、どちらが好きかと訊かれたら?
私は断然山派です。
まず涼しいですし、緑豊かで読書にもってこいの木陰がたくさんあります。
昔、父に連れられてまだおデブではなかったダシバと共に、避暑に向かったことがありました。
デッキテラスで高原の風を受けて絵本を読む幸せ。
広がる木々と隙間を差し込む日差し。爽やかな緑風。聞こえるのは小鳥のさえずりと、ダシバのいびきだけ。
とても素敵な思い出です。
だから山とは心穏やかに癒される世界だと……思っていた時期もありました。
わんこで埋め尽くされたダムを見るまでは。
「こ、これは……!」
「やっぱりねえ。水質が悪くなるはずだよ。ねえご主人様、本当にやるの?」
帝国との国境にほど近い、ケンネル王国の北山脈にあるアイアルダム。
私はその天辺にある見学施設に来ています。
山を二つ飲み込むほどの大量の水が、眼下に湛えられていました。
アイアルダムは国一番の貯水量を誇るダムで、初代王アルアル様の時代に作られたものです。
王国最大の川、ポチ川の上流に位置します。
王国最大の水がめが、黒・白・茶色の何かに覆いつくされています。
双眼鏡で一つ一つを見ると、そこには……我が国民。
犬の姿で溢れています。
沿岸だけなく、巨大なボートを何個も浮かび、水面を泳ぐ皆さま。
あまりの暑さに水浴びに集まっていたのです。
わんわん、キュンキュン、がうがう。
イモ洗いならぬ、毛皮の犬洗い。
次から次へと山に登ってくるわんこたちが、端からダムに飛び込んでいきます。
ここに来る途中の川も、殆どわんこたちで埋め尽くされていました。
涼しいはずの山の空気は、すっかり犬人の熱気に追い出されました。
見ているだけで……蒸します。
虫に刺されないよう、お気に入りのクリーム色のワンピースとスパッツ。そしてパーカーの装備で来たのですが、とても暑く感じます。
なぜ犬人はダムが好きかですか?
理由は、流れがないからだそうです。
海が近くないところに住んでいる犬人たちは、川に涼を求めてやってきます。
しかし家族連れの場合、川はうっかりすると子犬が流されてしまう危険があります。毎年犠牲者が絶えません。
だから夏になると、池や湖ダムは常に犬洗い状態だそうです。
双眼鏡を覗いたまま固まっている私に、護衛のマルス様が訊ねます。
彼は人目が少ないので、短パンとノースリーブの軍服に着替え、すっかり「ご主人様」呼びに戻っています。
「本当にここでも『その夏カット、最低です』キャンペーンをやるの?
このままご主人様と二人でバカンスしていられたら嬉しいけれど」
「僕もいますよ!」
戦車をダムの駐戦車場に置き、慌てて駆け上ってくるマメタ・フォン・シバ様。
天使の輪のある黒髪を振り乱して走ってこられます。
「そもそもマルチーズ君、これは仕事ですよ! のんびりしていたら陛下の香りに気が付いたもの達が騒ぎ出しますから! 早く準備を手伝ってください!」
「相変わらず真面目だよねえ、オマメ君」
「オマメじゃないです! マメタです! むしろ栄えあるシバの名前で呼ぶべきでしょう!?」
「じゃあ、ダシ…「言っていい冗談と悪い冗談がありますけど!?」」
きゃんきゃんと噛み付くマメタ様は、大陸運営のケンネル側の責任者として一族と共に頑張っていらっしゃる、とても真面目な方です。
真面目が過ぎて、時々ツンデレになられます。
初めてマメタ様にお会いした時のことです。
王宮の廊下で視線を感じて振り向くと、柱の陰に隠れて鼻としっぽだけを出していました。
『その丸いしっぽ……もしかしてシバ一族の方ですか?』
『そ、そうです!』
『良かった。いつか感謝申し上げないといけないと思っておりました』
『べ、別に当然のことをしただけですよ! 僕は何もしていませんよ!』
丸まったしっぽがピンと立ち、緊張しているのが分かります。
私は目元を和らげて、彼の所に歩いていきました。
柱を覗くと、カチンコチンになった凛々しい柴犬————小柄なので豆柴でしょうか—————がいらっしゃいました。
この国に来て初めて出会ったシバ一族です。
つぶらな黒い瞳。ちょこんとした鼻。丸みを帯びた毛皮と筋肉。
どれをとっても我が愛犬よりも賢く見えます。
いえ……申し訳ありません。
比較することすら失礼でした。
緊張している彼に、かがんでそっと手を伸ばします。
途端にびくっと震えますが、そのままじっとしていましたら、黙って良い子良い子を受け入れてくださいました。
『勝手に触ってしまってごめんなさい。でもとても素敵な毛並みですね。
—————いつも王国のために頑張ってくださって、ありがとうございます』
『い、いいのです! 僕はただの一貴族ですから、当然のことを行ったまで、です。別に撫でなくても、いいのですよ!』
そう言いながらも私が手を離そうとすると、とても寂しそうな顔をされます。
ついつい、首も掻いて差し上げました。
うっとりとされるマメタ様。
しかし時々はっとして『これ以上はいいです! 女王様にお手数をお掛けするわけにはいきません!
このままぎゅっとされたいとか、マメタと呼ばれたいとか、ご主人様と呼びたいとか、全く思っていませんので! すぐに大陸に戻りますので!』と、キリっとした顔で宣言されます。
しっぽをぶんぶんと振ったまま。
私は思わず、全てを叶えて差し上げました。
すると彼は喜びすぎて、失神されてしまったのです。
同年代のマルス様に「馬鹿だねえマメタ」と回収されていった姿が印象的でした。
その後。彼は戴冠式後はしばらく新大陸におりましたが、最近休暇に戻ってきたそうです。
そして王宮の惨状を知り、戦車の運転手として名乗りを上げてくださいました。
「さて、では準備を始めましょう」
「はい!」
「はーい」
ダムを後ろに私も準備運動を始めます。
わんこたちに熱中症を予防させるための、準備です。
◇◇◇◇
—————ここに私が立っている理由ですが、少し話が遡ります。
あの謁見の日から湿度が高い日々が続きました。
そして、熱中症で倒れる人が激増していきました。
王宮では主に文官たち。
中でも騎士団と比較してスタイルに自信のない方が積極的に毛刈りを行い、熱中症にかかるようになりました。小型犬の方は特に、です。
義兄は「奇抜な毛皮にした奴から倒れるから、アホや」と愚痴っておりました。
これには私専属のデザイナーである、グレース・コリー・フォン・ピットブル様も「機能美という言葉を知らないのかしら!?」と激怒しています。
王宮の機能も低下して、街中でも閉鎖される店舗が続出し、とうとうインフラまでも異常が起きてしまいました。
特に飲料水です。
下水道局と水道局の施設の一部が故障を起こしたのに、修理が進みません。
技術者の多くが、暑さで動けないからです。
特に昼の作業は危険ということで、誰もやりたがりません。
研究所所長で、私の家庭教師でもあるシュナウザー博士に聞きますと、飲み水の質が下がれば、それだけで病気になる方もいるそうです。
更に量が確保できなければ、生存に関わります。
ほんの短期間で、この国はピンチに陥っていたのです。
二人も主力が欠けた宰相室にお見舞いに行った時。
放り出された書類を拾い見て。
あまりに悲惨な機能停止状態の施設名リストに、気が遠くなりました。
地獄の季節は、確実に私たちの首を絞め続けています。
そんな折、ハイヌウェレ公爵がご機嫌でお見舞いに参りました。
レオンハルト様は入院延長中です。
とうとう私の世話をできないストレスで無理やり割烹着を着て抜け出し、行き倒れました。
シェパード卿も同様です。
仕事に会いたくて、力尽きたそうです。
その代わりにやり取りをしてくださるのは、アンゲラ・レオンベルガー様。
大臣の一人でいらっしゃいます。
レオンハルト様がいない今、実質国の切り盛りをされている女性です。威厳のある風貌が格好良く、大臣の中でもダントツの女性人気がある方です。
ちなみに旦那様を戦争で亡くされた未亡人でもあります。
息子さんを王立保育園に預けて、日々真面目に働かれております。
先日は息子さんが園で「刈りっこ」をして倒れ、拳骨を与えていました。
そんな彼女は暑さに弱い犬種なので、首輪の後ろにこっそりと氷嚢を付けております。
「犬人の皆さんは、夏がとても大変なご様子。竜人がその代わりに統治してさしあげますのに。いつでも官僚を貸しますよ?」
そういって、意気揚々と去っていく公爵。
地上の覇者を気取る爬虫類め、とアンゲラ様は小さく吐き、ダリウス様を通じて第五部隊に指示を与えました。
表立って帝国は動いていません。
しかしこの国内の不安定な時期に、水面下で仕掛けられることは過去よくあったそうです。
隠密が得意な第五部隊の小型犬たちは、静かに行動を開始します。
—————ちなみに第五部隊は隠密の特性上、奇抜な恰好はいたしません。
ですので、全員無事に仕事を続けております。
彼らは「小型犬」である自分たちを誇りに思っており、それは元隊長マルス様の堂々とした態度からも分かります。
ただ、何がなくとも謝り倒す、現・隊長のリリック様は……どうでしょう。
彼も外交の手伝いで国外に出ていて、よく分かりません。
自信に満ち溢れた第五部隊とは対照的に、第四部隊の小型犬の皆様は全滅いたしました。
先日お会いしたパグ様も、モヒカンに挑戦してしまい、見事の頭からコゲてしまったそうです。
隊長のラスカル様も虎刈りに挑戦されたそうで、熱中症の緊急措置入院です。
そうして第四部隊は、男らしさへの挑戦の名の元、焦げるかバテるか、真っ白になるかして、屍となり果てました。
皆さん……。
おかげで戦車部隊である子犬隊が、ほぼ稼働しません。
戦車は内部の装置の関係上、人が入れるスペースが少ないのです(リーゼロッテ号は特別製なので例外です)。
結果として小柄な方が操縦士になることが多く、第四部隊の主力が小型犬で構成されていました。
ケンネル王国の機動力は激減です。
ダリウス様やグレイ様、第一部隊と第二部隊が、残りの移動手段を持ってあちこちの警備でできた穴を埋めようと、各地を駆けずり回っています。
……一応この国にも、国内の治安を維持する、辺境騎士団や公安騎士団というものもあるのですよ?
ただ中央騎士団と比べると人数も少なく、どちらかというと雇用対策的な側面があります。
あとは察してください。
実質的な仕事を全て担う中央騎士団。
ちなみに残りの部隊は……。
第六部隊はマゾ様について行って国外。
第七部隊も小型犬と、マスコミ犬や業界犬を自認するおしゃれさんたちが入院。
第八部隊は患者が増えすぎて、過労で倒れるものが現れています。
第三部隊ですか?
え?
見たことがありませんが、多分元気では……ないでしょうか?
貴族の私設部隊も同様です。あのバーバリアン様でさえ……。
あれ?
把握ができませんでした。
ピットブル一族の部隊そのものは領内におり、水の事故の対応に追われていることは確認できたのですが、彼自身は「ちょっと山に行く」と言って帰ってこないようです。
嫌な予感がします。
とにかく、国内の戦力は大変なことになっています。
国境紛争どころではありません。
こんな時に攻め込まれたら大変なことになります。
旧ユマニスト領は改心(?)した純人教の大導師ゴルトンの影響で、比較的落ち着いています。
ですが問題は……。
やはり帝国です。
情報担当であるグレイハウンド卿のヨーチ様から、悪いお話をいただきました。
彼はツンツン頭を申し訳なさそうに掻き、報告します。
「陛下、すみません。通達以外にも、月刊【犬道】臨時特別号を発行して『間違った夏カット特集! 陛下はそのスタイルをださいと思っている』を特集したのですが、失敗しました。」
「なぜでしょうか」
「第四部隊の連中のように、『え? これってダサいの? ならもっと工夫しなきゃ』と更に妙な刈り込みをするものが増えてしまいまして。
—————しかもこの数週間、怪しげなバリカンが流通しています」
犬人・猫人用、医療バリカン。
皮膚病の時に患部を刈るのに重宝するものです。
これが夏前から大量に売られだし、店頭に並ぶようになったというのです。
しかも帝国製。
輸出時期から見ても怪しすぎます。
帝国では毛皮の方も多くおられます。
しかしこの生産量に流通量は、普通ではありません。
我が国を狙っているとしか思えません。
(毛刈りが流行ることを見越していたのでしょうか……)
私は、黙っていると月も霞む美青年のマゾ様の顔を思い浮かべました。
脳内ではなぜか、目の部分が長方形で塗りつぶされています。
窓を見ると、真っ青な空。じっとりとした空気。
地獄の季節とは、随分と綺麗な姿なのですね。
(このままでは、もっと被害者が増えてしまいます)
私は決断をしました。
夏カットの全面禁止を徹底させます。
王宮に座って命令をするのでは、遅すぎます。
「私が直接国民に訴えます」
シュナウザー博士に相談し、私は『その夏カット、最低です』と各地で直接訴えることにしたのです
—————もちろん心の中ではもう一つ。
マゾ様を爪きりの刑に処そうと考えていました。
当然ですが、私は全面的に反対されました。
王族は私一人。
何かあったらまた先の戦争の二の舞です。ですが、これ以上国民に被害を増やしてはならないのです。
これと決めたら、簡単には動かない犬人の皆さん。
和犬の方々はお考えが柔軟ですが、女王の言うことも「ご主人様に良かれと」思ってしまうと、全然耳を貸してくださりません。
だからこそ、女王は自ら行動し、積極的に躾をし、国民に示すべきなのです。
私は確かに貴重な存在でしょう。
ですが、混乱を深めるわんこに何もしない飼い主など、飼い主の資格はありません。
私は真の女王になるべく、強く主張したのです。
1.護衛はたくさん付ける。
2.虫刺されにも気を付ける。
3.帰ってきたらお留守番をしていた王宮の皆さんに良い子良い子をしてあげる。
4.三食きちんと食べて寝る。
特に4については追及されました。
そこで最終兵器。主治医でもあるジョゼ様からいただいた本日の体重を高々と示しました。
『35.01 Kg』
輝かんばかりの数字です。
私は、ここまで肥えて見せたのです。
昔から痩せ気味で、「ガリ子」「欠食児童」「貴族なのに」と言われることも度々あり、更には継母の虐待や施設での扱いにより、衰弱死寸前まで行きました。
ですので救助されてからどんなに食べても、なかなかお肉が付きませんでした……。
その様子をテレサさんやレオンハルト様はもちろん、多くの犬人の皆さんに心配されてきたのです。
ですが、ここまで私は健康的になったのです!
頬だって骸骨からぷにぷにに変化し、うっすらピンクに染まるようになりました!
私がずっと願っていたこと。
女王に会えなくて辛い思いをしているわんこたちに、会いに行くことが、できるのです!
————最後には、この熱意が通じました。
お仕事の時間制限と、密な連絡。そして二週間の期限。
これだけは固くお約束をして、大臣や文官たち、寝込んでいるレオンハルト様。そして、ダリウス様を説得しました。
ダリウス様は犬の姿で、じっと私のスカートの裾を銜えて離しませんでした。
まためくれるからやめてください。
そこで彼をしっかりと抱きしめて差し上げて、ついでに履いていたスカートを差し上げて、二週間の我慢を申し渡しました。
「どうか王都をお願いしますね。貴方が頼りなのです」
「くうん」
彼はレオンハルト様がいない今、ハイヌウェレ公爵の相手として残っていてもらわねばなりません。
行うのは『その夏カット、最低です』キャンペーン。
間接的に命令されても曲解して、斜め上に頑張ってしまうわんこたちに対し、夏カットそのものをやめるように巡業するのです。
そのついでに、この国の機能不全となっている問題点も確認していきます。
目標は大きな町のわんこたちと、水場に集まるわんこたちです。
子犬隊は動かせませんが、他の馬のない馬車を率いた第一部隊が一緒です。
副隊長のリョーマ・フォン・トサ様と、ハチ・フォン・アキタ様が実働部隊を率います。
数百という人員を引き連れ、地下道を中心に移動いたします。
同行者は医療部隊のジョゼ様と、女王専用護衛犬のマルス様。
そしてシュナウザー博士と、記者軍団として第七部隊を率いるヨーチ様です。
ヨーチ様は鼻息荒く「トップ記事に相応しいスクープを、大量に手に入れて見せますよ!」と宣言しています。
夏カットの弊害を心配する女王の記事を中心に書くそうです。
でも本音では、各地の領主の不倫ネタを集めたいようです。
そして最後に。偶然この状況に遭遇したマメタ様が「僕も同行させてください!」と、飛び込み参加をしてくださいました。
————ちなみに我が愛犬は。
素晴らしいドッグトレーナーである、第一部隊副隊長ヨシムネ・フォン・キシュウ様にお願いいたしました。
彼に預ける度に、ダシバは少しずつ筋肉が増えている気がします。
これで安心ですね。
大きな町は既にいくつか回りました。
郊外の道を行けばタライがあちこちで売っています。
夏の風物詩です。
そしてあちこちでタライの水に浸かるわんこ。
タライわんこ。日陰わんこ。行き倒れたうつ伏せわんこ。
行き倒れ犬は慌てて回収し、用意したタライに水を入れて、日陰に浮かべました。
到着した街ではもちろん大歓迎を受けました。
そして一番訴えたかった『熱中症が増える間違ったカット』についても、ようやく理解していただけたのです。
元々、小型犬を中心とした犬人の男性方は、当初は女性にモテたいがためにマゾ・フォン・ボルゾイ様が言い出した毛刈りの流行に乗りました。
その中には「この国に来てくださった女王陛下に、よりよく自分を見てもらいたい」という気持ちもあったのです。
そしてたくさん見栄を張った結果が、この惨状です。
女王がちゃんと気持ちを彼らに伝えないと、犬人たちは想像だけで暴走してしまう。
それを強く実感いたしました。
モヒカンのシー・ズー町長とフリーゼ伯爵を見て、マルス様がショックを受けたり。
ライオンカット(頭以外丸ハゲ)のセントバーナード侯爵に対して、姉であるジョゼ様が怒りの鉄拳を与えたり。
ヘアレスドッグ子爵が本当に刈っていないのか、マメタ様がしきりに疑っていたり。
私たちは一つずつ訂正していきました。
同時に「今まで国を頑張って支えてくれましたね」と、なでなでして褒め、地方を守る犬人達の苦労を労わらせていただきました。
それだけでも、彼らの雰囲気がとても明るくなったのです。
わんこたちの努力を褒めること。
これは何よりも大切です。
私の匂い目当てで王都に集まっていた暇な地方貴族たちも、慌てて地元に戻り、領地経営に励み始めました。
私自身も、とても勉強になっています。
物知りなシュナウザー博士の解説を聞きながら、各地の現状を知り。
ヨーチ様と一緒に、素敵な(不倫は除く)ニュースを探したり。
私は本の中だけではない、外で得られる学びというものを知りました。
とても……とても楽しいのです。
人と交流するのが、こんなに楽しいことだなんて。
その喜びを実感しながら、最後に大きな川や湖、そして海辺。
わんこたちが集まる場所に注意喚起をして参りました。
『熱中症を予防しましょう。
飲料水の元となる水を、綺麗に使いましょう。水辺で溺れないようにしましょう。
————そのためにも、熱中症になりやすい、妙な夏カットをやめましょう!』
最初は首を傾げた皆様も、私の声に喜んでわん! と了解してくださいました。
敬意を表すために、わざわざ犬の姿になって暑さで倒れる方がいたのは予想外でしたが。
そして。
最後がこのダムです。
犬人一番人気の夏の行楽地であり、大切な国民の水がめです。
浄水場が危機に瀕している今、水そのものを汚していてはいけないのです。
(この気持ちが伝わりますように)
皆様に気持ちが伝わるよう拡声器をぎゅっと握りました。
そして深く息を吸った、その時。
「キャイーン!」
遠く聞きなれた声がしました。
ダムの岸辺で、器用に溺れる犬が一匹。
我がダメシバです。




